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2-14「クゥ、こうなったらやるしかないよ」

「んだよ、知り合いか?

 なんかオレが盗んだ指輪があるとか、キレられたけどよ。

 盗みすぎて覚えてねえ。

 デカい家だったから入っただけだぞ」


 クゥが鼻の下を指で擦りながら、自慢気に笑う。


「……リーシオンの指輪……。面倒ごと過ぎるんだよ!

 家紋付きの犬!いわく付きの指輪!

 ああ、コレがお前さんの(ギヴン)かよ!」


 夕焼けが青に変わりつつある空の下、アードの絶叫が響いた。


「マジで分からねぇ……。

 王都の方の街だよな? それくらいしか分からねェよ……」


「ったくしょうがねぇな。まぁ、クゥさんだからな。

 シハはもう無ぇぞ。

 反逆罪で街ごと潰されたって話でな。

 その原因となったのが、リーシオンって貴族だって話だよ」


「はぁ!? ウソだろ……」


「そう思うなら、そこの犬が起きたら聞きゃあ良いだろ。

 まぁ話になるとは思わねェが……拾ってきたんだ、最後まで面倒を見ろ」


 動物を連れて帰ってきた子どもと、なんだかんだ許してくれるお父さんみたいだ……。


「庭だから平気だと思うけど……ココで寝かせてると人拐いが来るかも。

 中に入れてあげよう?」


 庭に大型犬おじさんを放置するわけにはいかない。


 渋々、皆でガダルと名乗った狼の獣人を皆で屋敷へと運ぶ。

 洗わざるを得ない汚れっぷりなので脱衣所へ直行。


 浴室を覗けば――。

 魔法的なあれこれ、そして明確に転移前の世界から持ち込まれた技術で作られた風呂。

 旅館の大浴場、小さな銭湯……そのくらいの雰囲気だった。


 ファンタジー世界で風呂が無いから作った、は既に達成されたクエストだったようだ。

 先輩たちに感謝。


「おふろある!」


「おう、あるぞ? だいたいどこの家にもある。

 マトのとこは無かったのか……大変だったな……」


「いや、あるよ!? むしろコレ、ボク達の方の風呂っぽい」


「泥棒ハウスは意外とちゃんとした施設だぜ、マトさんよ。

 だから俺の連れてきた奴も任せられるんだ。

 ちゃんとしてねぇのは、このクゥさんだけどな」


 コン、と後頭部を拳で軽く殴る。


「痛ぇなマジで! で、この狼を洗うんだな……。

 なぁ、オレから先に洗ってくれよ、マト」


「……おい、クゥさんよ、それはズルってもんだろ」


「あっしも羨ましいですぜ……!」


 結果、この人達は洗って欲しいだけだ……。


「……みんな洗うから、安心して!」


「んなら、張り切って洗っちまおう!」


 イビキ以外、ウンともスンとも言わないガダルの服を引っ剥がし浴室に連れて行く。

 貴金属は何もつけていない。

 服は確かに貴族のもの、のようで良い作りだが……ボロボロ。

 ロングコートもパンツも、シャツも下着も、もう着れないと感じるレベル。


 武器も身につけていない。

 けれど、身体に傷一つ無かった。


「やっと脱がし終わったぞ! なんだこの面倒くせぇ布切れみたいな服は!」


「お前が着てるのが布切れで、コレが服っていうんだ、クゥさんよ!

 まぁ……コレはボロ布か……」


「じゃ! 中に運んでください!」


 とりあえずガダルは爆睡しているので、湯船には放り込めない。

 洗い場へと連れていき、徐々に流すしかないだろう。


 毛並みは毛玉だらけ、汚れも凄い。


「キィヒィ……これは酷い! 毛玉が! 毛玉がたくさんありますよォ!

 マトくん! 大丈夫ですか? 毛玉が出来るとこうなってしまいますよォ!

 毎日、毎日……ヒッヒッ……ブラッシングしましょうねェ!」


「う、うん、分かった……」


 自分に毛玉が出来ると言われても、イマイチ良くわからないのだけれど。

 脇とか、お腹とか結構心配になってきた。

 後で1人で見ておこう……。


「まずはおじさんをなんとかします!

 じゃないと、お風呂もご飯も出来ない!」


『おう!』

 

 狼洗いの始まりである。

 マヌダールは店へと戻り、デカいブラシを持ってくるそうだ。


 ボク達は先輩がこの世界に持ち込んだであろう、シャワーという武器で洗う作業へと入る。

 しっかり濡らしても、ガダルの体系は変わらなかった。


 いわゆる濡らした犬現象が起こらない、筋肉質で鍛えた身体である。


 しっかり濡れたので、洗いに入る。


 異世界人は、お風呂に拘る。

 始めて来た人は、それだけに多くの人生を割いたのかもしれない。

 シャワーもあれば、石鹸もある、のだ。

 しかも香りが良い。


 都市伝説で来れるだけの事はある……本当に助かった。


「大きすぎてボクだけじゃ無理なので、いい感じに泡立てて!

 毛の根っこに汚れが多かったり毛玉ができやすいから、入念に!」


「見ず知らずの追いかけてきたおっさんを丁寧に洗うのかよ……」


「お前さんが拾ってきたんだろ!」


 泡でモコモコにして。

 つい楽しくなってきたので、鼻の上に泡の玉を作って乗せてみる。


「おいマト……何か意味があるのか、それ」


「ないよ! ちょっと楽しいかなって」


 その時だった。

 グオオ、という大きなイビキの後。

 フゴッという無呼吸っぽい止まり方。


 そして、ガバッとガダルが起き上がる。


「!? き、貴様ら……何をしている!?」


 そりゃそう言う反応になるよね。


「わっ! 洗ってます、ガダルさん!」


「あ、洗いだと!?

 身包みを剥ごうとも、もはや金なぞ無い……! 盗賊共め!

 うさぎッ……か、かわいい姿をして罠か!

 美人局(つつもたせ)だな!?」


「えっとね、ガダルさん。

 お話をするのに、とっても汚れてたから綺麗にしてます!

 寝てる間に済ませようと思ったけど、起きちゃったし……」


「寝て!?

 私は何日も眠れていない!

 ゆえ、怪我も治らなければ体調も……くっ……!?

 治っている!?」


 泡だらけの腕で頭を抱えるデカいおっさん狼。


「狼さんよ、悪ィんだけど……怪我なんて何処にもねーぞ。

 どちらかと言うと有るのは毛玉だ」


「貴様ッ!! 私の身体と金品を漁ったのか? 何も持たぬ私で残念だったな!」


「クゥ、面倒になるから黙ってて……」


「おう……」


「ここは、クゥが世話をしている孤児院であり、彼の家。

 ガダルさん困っていたし、倒れちゃったから運んできた。

 でも汚れてて臭かったからお風呂です」


「お、おい、マトさんよ……相手はお貴族様だぜ、言葉を選んだ方がよぉ」


 アードが困った顔で耳打ちする。

 顔が怖すぎて、マフィアの密談のよう。


「……倒れ……?

 くっ、嘘は言って居なそうだ……。

 こんなに可愛いうさぎが嘘をつくはずなどない……」


 あ、目を逸らしたぞ……。

 さっきは美人局(つつもたせ)とか言っていたのに。


「まだ、洗ってるから我慢して。

 そしたら、ご飯もあるから、ゆっくり食べながら話してください」


「……分かった。

 だが、飯……毒が」


「飯作ってんのはあっしだ、聞き捨てならねえ!

 毒なんて入ってねえですぜ!

 子ども達も居るんだ、いい加減しやがれ!」


 ピートが珍しく語気を荒げる。

 チンピラ子分感が増してしまった。


「囚われの身ということか……」


「うるせえ! つべこべ言ってねえで洗われろ!

 俺はガルドリアス商会のアードだ、忘れたとは言わせねえぞ!」


 アードが割り込む。

 犬と取引した事はねえが、と小声で続けながら。


「ガルドリアス商会……! 世話になった、だが……! くっ……」


 なんだこの、負けた姫騎士総集編みたいな反応……。


「諦めよう、好きにしてくれ。だが鼻に泡を乗せるのは……」


 ガダルはブルブルと全身を震わせる。

 水と泡を身震いで辺りに撒き散らす。

 シャンプー中の一番の暴力、水飛ばしだ。


「てめぇ! 何しやがる!」


「お前さんよぉ……水浸しだぞ、この野郎……」


「うわっと……! 大将とマトさんがビチョビチョじゃねえですかい!」


「ガダルさん……あの」


 頭に泡を乗せ、耳もびしゃびしゃ。

 クゥから貰った服もびしゃびしゃ。


「違う、私に悪意など無い! これは自然の摂理で!」


「クゥ、こうなったらやるしかないよ」


 クゥに目線を送る。

 彼は即、察した。

 そして躊躇いなく実行した。


「くらえ! こうなっちまったら、このまま全員で風呂! 終わったら飯だ!」


 シャワーで満遍なく全員を狙撃する。


「てめぇ! ふざけんな、この服、いくらすると思ってんだ!

 てめえの着てる雑巾とは違うんだぞ!」


 憤慨しながら服を雑に脱ぎ捨て臨戦態勢入るアード。

 素早くピートが回収する。


 ボクもビチョビチョなので、仕方なくヨチヨチ脱ぐ。

 素早くピートが回収してくれた。


 クゥがスネを蹴られて、早く脱げとピート急かされている。


 そして、ブラシを持ったマヌダールが素っ裸で戻ってくる。

 賢者はコレを予知していたのかもしれない。


「みなさん、盛り上がっていますねェ!」


『盛り上がってねえよ!』


 満場一致のシャワー集中攻撃でマヌダールがずぶ濡れになる。


「くふ……くはは、面白い、面白いではないか!

 ならば、悪党共に負ける訳にはいくまいな!」


 ようやくガダルの表情が明るく変わった。

 立ち上がりシャワーを掴む。


「私はガダル・リーシオン! シハの領主であり、自警団長……!

 悪党共を迎え撃とうではないか!」


「ああ! 思い出しましたよォ!

 脱税がバレそうで眠れないと言っていた、あの……!

 秘密に薬を作れとやってきた貧相なお貴族様のご家族ですかァ!」


 ん? この人もダメなパターンか?


 ガダルが目を逸らす。


「それは……私――」

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