2-12「不幸は当然降りかかるんだけどな!」
黄金の閃光が辺りを包んだ。
「これでまた、金貨が山盛りだぜ!」
クゥの欲は、手に入れたお宝と同じだけの幸運を周囲に分け与える力。
が――マトや魔剣『切り裂く願い』の時とは異なり、金貨は1枚も現れない。
「んん……何も出てこねぇぞ!?
……しくじる、ハズがねぇ、ぞ……?」
ただ輝いただけ。
何の変化もない。
「おい、クゥさんよ……失敗する事なんてあるのかよ」
アードが呟いてクゥへと歩み寄った時。
「う、うおおお!?
何ですかい、この袋は!」
一番最初に叫び声をあげたのは、ジジイをお姫様のように抱き抱えたピートだった。
「お、おやァ! 何か現れていますねェ!
クゥさん、失敗なんてしていませんよォ!」
抱かれたままマヌダールも叫ぶ。
畑より少し離れた場所。
今まで無かった、大量のズタ袋が転がっている。
中身はパンパン。
「ふふーん! あるじゃねェか!
流石オレ、サイキョーの欲ってトコだな!」
らしくないほど落ち込んだ様子だったクゥが、普段通りの態度に戻った。
腕を組みながら大股で、ご機嫌そうに袋へと向かう。
「ったくよォ、お前さん意外とナイーブか?
地獄でも見たような顔だったぞ……」
その後ろをアードが続く。
「っしゃあ!! 開けるぜ、オラァ!」
クゥが袋の口を開いて中を覗き込めば――。
「なんだこれ……つぶつぶ……」
「ハァ!? つぶつぶ……!?」
慌ててアードも駆け寄る。
ここまで、部下ではない、と我慢していた。
が――限界に達していたのが良く分かる。
ごん、とクゥの頭を小突く。
「馬鹿野郎! 種だよ、種! なんだつぶつぶって!
お前さんコレ見て、なんだか分からんかったのか!」
「痛ってぇ! 殴る事ねぇだろ、つぶつぶだろ! どう見ても!」
中身は大量の種だ。
慌てて他の袋も開けば、種、種、種。
何の種だか分からない。
けれど、山積みになって現れた袋の中身は、全て種。
「種とは助かりますぜ!
で、マヌダールさんはいつまでそうしてるんですかい……」
はぁ、と溜息1つ。
ピートがそれなりに優しくマヌダールを地面へと放り投げる。
大ミミズを討伐した効果だろうか、土はふかふかで柔らかかった。
「ヒィィエェ……! 死んでしまい……ませんねェ。
ふかふかですよォ、これは良い土ですゥ!」
地面に転がったマヌダールが、そのままの姿勢で土を握りしめ叫ぶ。
胡散臭いを通り越して奇っ怪な動きだ……。
「マーさん、アレをやらなきゃ賢者さんだと思うんだけど……。
キャア、近づいてくれる?」
「きゃっきゃっ」
インコグリフォンの背をマトが軽く叩けば、楽しそうな鳴き声が返ってくる。
楽しそうではあるのだけれど、その鳴き声は相変わらず女性の悲鳴のよう。
ばさりと羽ばたけば、あっという間に地上へと降りる。
袋のそばに着陸したキャアが袋に首を突っ込んだ。
「きゃっ」
「おい、あっ、アッ!!
キャアやめろ、駄目だ、それは畑で使う奴だから!」
クゥが反応して駆け寄るが間に合わない。
一瞬の出来事である。
キャアが首を突っ込んだ袋の中には、見覚えのある種。
ヒマワリの種のような、爪くらいの大きさでシマシマの種が入っていた。
インコが顔を突っ込んだ、ということは、だ。
「きゃああ~ん!」
可愛くない微妙な鳴き声の後に聞こえてくるのは、バキバキという破砕音。
「食べちゃってる……!
いっぱいあるから、あげてもいいと思う!
キャアも沢山頑張ってくれたし!
おいしい? おいしいねー!」
ピンクのもふもふが、水色のもふもふの背を撫でている姿は後光が差し込む尊さである。
それだけで、全てが許される空気が生まれた。
「マトがそう言うなら仕方ねぇなあ……。
んでもよ、食べすぎて太って飛べねェとかには気をつけろよな!」
「きゃっ!」
袋から頭を出したキャアが、クゥの頭をクチバシで小突いた。
ほぼアードと同じ行動……。
「痛ってぇな!! おっさん! おっさんのせいだぞ!
キャアが覚えちまっただろ! パカパカ殴りやがって!
キャアも突くのはやめような、お前デカいんだからな?」
キャアはプイ、と横を向いてから再びヒマワリを食べる作業に戻った。
しばらくこのままだろうと思い、ボクはグリフォンの背中で立ち上がる。
身体が小さい分、結構高さがある……。
「……ていっ!」
うさぎらしく、ぴょんと跳ねて土に降りる。
マーさんが投げられて大丈夫だったのだ、問題ないハズ!
ぽふん、と毛玉は地面に着地。
100点満点だ!
お兄さんも、おじさんも、満場一致の笑顔。
無言で大きく頷いている。
やはり、今日一日は運動会のお父さんを見る日だったのかもしれない……。
「さてさて、種、ですかァ! 小洒落た欲ですねェ、クゥさん!
良い畑になる土を得た幸運は、育てる種で分ける……。
キィーッヒッヒ、流石ですよォ!」
転がっていたマヌダールが立ち上がり、袋一つ一つを覗いている。
「ふぅむ、コレは……この辺りの田舎では取引されていない種ですよォ。
霊薬で処理されている、病気に強く芽の出やすい種ですねェ……!
何の種か、は分からない物がいくつがございますがァ……!
素晴らしい物なのは確かでございますよォ!」
早口で何を言ったか今ひとつ分からなかったが、良い種だというのは分かった。
「やっぱオレがサイキョーだからな!」
「お前さんが選んで出したワケじゃねェだろうが!
霊薬で整えた種は王都でも献上品の類だぜ、それがあるなら畑はほぼ失敗しねェ。
悔しいが、その欲は最強かもしれねェな」
「でも、さ? クゥ……赦が……」
「まぁ、不幸は当然降りかかるんだけどな!」
「クゥさんよ、その不幸……前兆とか分かるのか?」
「分からねェ!
そもそも、おっさんが追いかけてきたのも不幸だと思ってたんだよ」
「……どれだけ積もったか、負債があるかは分かるのか?」
「分からねェ!
なんとなくヤベェことは全部、赦って事にしてたぜ……?」
「……フッ、泥棒なんだろ、勘定くらいしときやがれ。
ま、お前さんなら大丈夫だろうよ。
で、マヌさんよ、この後の指示はあるかい?」
「種を、隠れ家の暗くて風通しが良い部屋にィ運びなさいッ……!
寝かしてやるのです、キヒヒッ……!」
ザ・胡散臭い笑顔。
ただただロクでもない事に聞こえる。
「キヒッ……倒したミミズが良い土になりましたァ!
それに、クゥさんが盗んだ宝石と、生み出した種ェ!
明日からでも頑張ればァ、畑は豊作でしょゥ!
……ので、今からするべきはァ!
種を持ち帰る事と、休む事ですよォ!」
確かに、大ミミズがいた痕跡は無い。
雑草というか、動くツタに埋め尽くされていたなんて信じられない状態。
「柔らかい土の山になっちゃったね。
すごい……畑みたい」
「まだまだ畑では有りませんよォ!
地面を整え、植え付けが出来るようにしますゥ!
種も苗に育ててから植えるのですゥ!」
マヌダールが早口になり始めた。
これは止まらなくなる。
皆もそれに気づき、種の袋を担いで帰りを急ぐ。
その時である。
赦は必ず訪れるのだ。
遠くから走ってくる人影がある。
「おおい! 薬屋、見つけたぞ!」
それは、この前見た門兵。
「マヌダールという男を探している、薬をよこせ、早く、と門で騒ぎ始めてな……。
今、同僚が抑えているが……ただの暴漢には見えん」
「……キヒィ……私ですかァ!
しかも薬とォ」
「薬か!」
「薬か……」
「薬ですかい」
「くすり」
門番の言葉から聞き取れた、その言葉だけをピックアップする集団。
「お前達、その顔でその反応はやめた方が良いぞ……。
暴れている狼より、悪人にしか見えないからな……」
「暴れている狼……?」
ボクは首を傾げる。
「二足歩行の狼男、毛並みはボサボサで臭え!
すげえ疲れた感じがするおっさん狼だよ!」
『あー……』
クゥを指差せば、クゥもまたボクを指差している。
アードとピートは交互にクゥとボクを見て。
言いたい事は分かった。
「呪われた宝物を探す探検家と、足の生えた不幸。
その矛先は、巻き込まれたクソジジイって絵面だな」
アードが上手くまとめた、というドヤ顔。
隠れてブツを取引していそうな満足げな顔だ。
「キヒィッ、あの人かもしれませェん! それは面倒、面倒ですよォ!
何故こんな田舎に来たのですかァ!」
マーさんがワザとらしく騒いでいる。
「って事だから騒いでないで、ちょっと来てくれ」
クゥもボクも、なんとなく自分の責任を感じ同行する事にした。
アードとピートは、種を屋敷に運び、休憩したい、との事。
お父さんはよく頑張りました……!
二人と分かれ、ピートに美味い飯を約束されて。
門番と共に向かった先には、2mを越えるバカでかい狼の獣人が抑えられていた。
毛並みはシルバー。
髪のように長く伸ばした鬣、ブルーの瞳。
鼻先は長く、凛とした顔つき……ではなくて。
目の下が、意味分からんくらい真っ黒。
毛皮だけど、ネトゲをやりすぎた朝の顔みたいだ……。
近づけば悲痛な遠吠えが聞こえてくる。
「マヌダールを出してくれ! 寝れん! 寝れんのだ!
怪我も治らん、何も出来ん! マヌダールを、出してくれ……!」
ジジイ編前半おしまいです!
狼さん編もよろしくお願いします!
ブクマ・評価本当に嬉しいです! ありがとうございます!
あっあっ、これ書くのすごい緊張する!




