2-11「呪われてる、からなのかな……」
あたり前のことだ。
言ってはいけない言葉、というのは何も1つだけではない。
『一生のお願い』が禁じられた言葉だと言うのはこの世界の常識である。
だが、異世界から来た者も、この異世界の者も常識としても避ける言葉がある。
それは――やったか!?
皆、宝石を抜き取られた全喰い種は、動かなくなって欲しいと思っていた。
けれど、それは推測に基づいた願望であり、事実に基づいた考察ではない。
つまり、良い感じになってくれ、と心の中で願い続けていたのだ。
何事もなく上手く行って欲しい。
だから、口を塞いで結果の行く末を見つめるつもりだった。
余計なことは言わないつもりだった。
「ジジイ、余計なこと言ってんじゃねぇ!!」
「マヌさんよ……言っちゃダメな事ってのがあるだろうがよォ!」
「こいつはダメですぜ、また動く奴だ!」
「……ま、マーさん、ダメだよ、それはさぁ……」
ズゥゥゥン、と大ミミズの頭が地面に落ちる。
砂煙が上がる。
これは、やっぱり――。
「やりましたかねェ!!!!」
マヌダールが再び叫ぶ。
渾身の二回目である。
その声と同時に、地鳴りが聞こえる。
土煙の奥から、咆哮が響いた。
「ギュウウウウウ!!」
瞬間、煙から飛び出してくるのは大ミミズの頭。
ガパァと4つに頭を割るように口を開き、鎌首をもたげている。
「クソジジイがよぉ!!!!
二度も言いやがるからこうなるんだぞ!」
クゥが全喰い種を睨みつけ、姿勢を低く構える。
いつでも飛び出せるように。
「ったくよぉ、賢者様かと思えばやっぱりインチキ手品師じゃねェか!」
そろそろ限界だと訴える苦笑いでアードも小剣を敵へと向けた。
構えが崩れ始めている。
「マヌダールさんは一言多いんじゃねぇですかね」
ピートが腰の鞘から、折れて刀身が半分になった剣を引き抜く。
持ち込んだ武器全てが廃棄品、けれど――それは武器としてしっかり輝いている。
「……マーさん、ボクにも言うなって言ったじゃん」
「そうですよォ、マトくん! あの全喰い種ほどの大きさの個体ですゥ。
宝石を抜いたくらいで、そのまま倒れるワケがありませェん!」
「マーさん……あの、それ……」
「はぁい! なんでしょォ!」
『どうしてジジイは普通に伝えられねえんだ、物事を!!』
地上の3人の声で言葉が掻き消された。
けれど、言いたかったことは同じなので大きく頷く。
「それはァ! モチベーションという言葉がありましてねェ!
こうした方が、雰囲気作りとしてより良い空間がァ~!」
「生まれる訳がねぇだろ、クソジジイ!」
クゥが大ミミズに走り込む。
開いた口を避け、宝石を引き抜いた胴体の傷を狙う。
が、学習能力が高い――そう言われていただけはある。
瞬時に頭部が反応、クゥ目掛けて巻き付くように攻撃を放つ。
「ちっ……学習してやがる……!
だが、こんなド太いロープで捕まるワケがねぇだろ!
なんせ、オレはサイキョーだからな!」
後方に飛び上がり、軽やかに空中で一回転。
見事に攻撃を避け、着地する。
そのまま一気に肉薄、胴体へと一撃を叩き込む。
「――!?
弾かれた、だと……!?」
カァン! と金属音が響く。
ナイフが弾かれた――!
「くっそ、さっきと硬さが全然ちげぇ!
岩を殴ってるみたいだ……!」
「……硬化しはじめている、ですかァ……。
なるほど――豊穣の宝石を抜くと一度固くなる――。
ははァ、分かりましたよォ!
皆さん、その全喰い種は間もなく倒れます!
ですが――その時まで動く!
耐えて下さいねェ!!!」
「なるほどなァ……身体が固くなって砂のように崩れ落ちる。
で、そいつが肥料になるってェのは分かったぜ、マヌさんよ」
「ええ、間違いありませェン!」
「だがよォ……疲れてる今に! この硬度は! ダメだと思うぞ!」
全喰い種が動く。
硬化しているが、その速度に曇りは無い。
鎌首をもたげ、アードを攻撃対象に選んだ瞬間。
ドオオン、と地面から轟音が響き土煙が上がった。
「アードのおっさん!」
マトの叫びに反応して、アードが何とか答える。
「……無事だぜぇ、死んだかと思ったがなァ!」
紙一重、飛び退いて一撃を避ける。
地面にはその破壊力を示す、大きな穴が残されていた。
「しかし、どのくらい耐えれば良いんですかい!
大将も魔装は使えず、クゥさんもワザは使い切ってますぜェ」
折れた長剣をピートが投げる。
凄まじい衝撃音が響く。
突き刺さりはしないものの、その身体の横に一筋のヒビを走らせた。
「ギュアアア……!」
効いている。
そろそろあの個体は限界だ、そう感じ取れる鳴き声。
「やるじゃねえか! すげぇなお前!
料理はパワーなんだな……」
「大将、褒められやした!」
「馬鹿野郎! 褒めてんのも馬鹿野郎で、そこに何もねぇ!」
その間――マトの視界には、輝く光の粒子が溢れていた。
「なんだか皆がキラキラしすぎてて良くわかんない!
ミミズもめちゃくちゃ光ってる! 全身!」
宝物である、という証。
「ほほう、既にお宝って事らしいぜ、ミミズさんよォ!
んなら、ちゃんと持って帰らねえとな!」
「そうですぜ、宝石は盗まれちまいましたから……デカい方はあっしらで頂きましょうぜ!」
「そうはいかねえ!
全部頂くのはオレだぜ!」
一言で雰囲気が変わった気がする。
ただ……士気が上がった、というよりは。
やっぱり運動会のお父さん達が張り切っているだけなのだ。
「マトくん、先生もォ、魔法撃った方が良いですよねェ!」
「きゃああ〜」
隣のマヌダールもキャアもテンションが高い。
ふと、脳裏をよぎる。
世の中に存在する『呪われた』宝物。
手に入れた家を絶やす絶世のルビー。
美しい刀だが殺人衝動を煽り手放せなくなる、とか――。
好かれている理由は――。
「呪われてる、からなのかな……」
声に漏れる。
呪われているから、優しくされる。
呪われているから、愛されている。
それは魅了の力で、周りを不幸に……。
「良いですねェ、呪い!
呪いは入念に作られた魔法の儀式ですよォ!
感情だけでは効果は及びません!
入念な準備、そして力の操作、知識、全部が揃ってようやく形になる工芸品ですゥ〜!
……それに特別ですよォ?」
マヌダールの手が優しく頭に触れる。
耳横を掻くような撫で方は、動物が目を閉じるような上手さ。
「トレジャーハンター駆け出しのマトくん。
呪われた宝物が眠っている遺跡があると聞いたらァ?」
「……行きたいし、気になる」
「ほらァ! そんなもんですよォ! リスクなんてのは世の中に沢山ありますしィ。
……そういう生き方の人には、呪いはただの勲章ですよォ!」
ぽんぽん、と頭を叩いてからマヌダールが下を見下ろす。
「魔法は要らなそうですねェ……良い所、見せたかったのですがァ!」
「いっぱい見たよ、ありがと」
「キーーヒッヒッヒ!
気持ち良いですねェ〜!!
生徒が! 感謝して!
褒めてくれますよォ!」
「うるせーよジジイ!
うちの弟子だぞ!」
クゥが疾風の如くミミズに突撃し、一点に連続で斬撃を叩き込む。
1発の威力が低くとも、積み重ねればダメージとなる。
ヒビが広がる。
「クゥさんよ、マトはよ、ウチの見習いでもあるんだが?
お前さんじゃあ、ちぃと常識が足りねえからなあ!」
張り切ったアードおじさんが、悶えるミミズに小剣を放つ。
威力も速度もクゥより遅いが、武器が高い。
そう、高い武器は強いのだ!
甲高い美しい音を響かせ、硬化したワームの皮膚を切り落とす。
内部はまるで腐葉土のよう。
「お三方がそう言うのなら、あっしもマトさんに料理を教えましょうかねェ!
美味い果物も魚も、見つけるのが得意そうですぜ!」
ピートがしゃがみ込んで石を拾う。
足を振り上げ、投球姿勢に入り。
ただ真っ直ぐにブン投げた。
ゴオオオン! と銅鑼を叩くような音が響き、ミミズの頭部が砂となって崩れ落ちる。
「つっよ……」
「お父さんお兄さんは、ちびっ子が見ていると張り切る者ですよォ」
「きゃああ〜」
突如、指示もなくキャアが大きく羽ばたく。
「ちょっと!? えっ、えっ!?」
突然の事態に必死にしがみつき、飛ばされそうな風に耐える。
「きゃあああん!」
インコ顔のグリフォンは流星の如くミミズ目掛けて突進。
前足の鉤爪をその体目掛けて叩き込んだ。
斬撃音が何度も響く。
砂となった外皮があたりに降り注ぎ、豊かな土も広がっていく。
「キャアさん、ストップですよォ!
飛ばされます、飛ばされますゥゥゥ!」
「きゃっ」
ビタァ!と、一瞬で停止。
当然、マヌダールがすっ飛んでいく。
様子を見ていたピートが駆け込み見事に抱え、事なきを得た。
「大将……空からジジイが!!」
「マトさんの宝物なんだろうから、大事にしまっておけ」
「分かりましたぜ……!」
「じゃ、後は任せたぜェ。
やるんだろォ?」
パン、とアードとクゥがハイタッチし。
「ああ、もちろんだ!
こいつで! 山分けだぜ!!!」
クゥが飛び込む。
もはや、大ミミズはほとんど残骸。
走り抜けるように斬撃を放ち、宝石を掲げながら叫ぶ。
「欲【幸運の分け前】……!」




