2-10「やりましたかァ!?」
再び地鳴りが轟いた。
ツタが枯れて崩れ、茶色く染まった地表が振動し亀裂が走る。
「……想像よりやべェ気がしてきたぜ……」
「あのバカでかい頭を見て何を想像したんだクゥさんよ……。
どうみても、やべェしか答えは無ぇだろ!」
「大将、地下でも何か動いてやがりますぜ……!」
走り込む3人を、空へと舞い上がったグリフォンの背から見下ろす。
「キヒィ……正直予想以上ですよォ!!
あの大きさはァ……この辺りでは存在した記録がほとんどありませんッ!
南の砂漠、移動するオアシスを生み出す養分となった、もしくはオアシス自体が――」
「マーさん、めちゃくちゃ興味ある! 興味あるけど!
あいつの弱点を――『宝物に』してよ!」
「おっと……そうでしたねェ!
全喰い種の皮は熱耐性が高く、良い防具に……いや、それではァ……。
目は退化し、感覚器で周囲を認識している――ダメージを受けると暴れまわる……」
マーさんが必死に記憶を辿っている。
クゥ達なら大丈夫だ、空から見下ろして焦らず待つ。
最大のダメージを与えられる場所に、宝物であるエピソードさえあれば……!
「来るぞ、おっさん!」
「ああ……分かっちゃ居るんだが、しんどいなァ……!」
アードが小剣を構え直す。
上からではっきりは見えないが、先ほどのような光も力も纏って見えない。
「泣き言かァ? オレも『超跳躍』はあと1回だぜ!」
「消えるヤツは3回使ったか……!
小剣だけでなく俺の欲も使えねェ!
『手に入らない』が『倒せない』に認識されたらおしまいだからなァ!」
その瞬間、大ミミズの頭部にビシビシと亀裂が走った。
隙間から透明の液を垂らしながら、4つに割れていく――。
中にはびっしりと細かい牙。
ふしゅう、と煙めいた息を吐き出す。
その口内は暗闇のよう。
遥か奥、地獄へと続く穴だ。
「……こりゃ、ヤベェな」
「ですぜぇ……」
「流石にコイツはよ……」
先に動いたのは大ミミズ。
3人をまとめて飲み込めそうな口を開き、真っ直ぐに突っ込んでくる。
単純な動き。
だが――。
「なん――だ……!?」
「ボーっとしてんじゃねェよ!」
唖然として立ち止まっていたアードをクゥが体当たりで吹き飛ばす。
1秒前に二人が居た場所は、地表まで削り取られていた。
「……恩に切るぜ、クゥさんよ……!」
「いんや、おっさん商人だろ……!
戦うのが仕事じゃねえのに、見えてる方がおかしい速さだからな」
クゥが伸ばした手にアードが掴まり、立ち上がる。
「行かせはしねェ、こっちだ! 体勢を整えてくだせェ、大将、クゥ!」
ピートが大声を上げると、全喰い種の狙いが変わった。
音に反応している――そう一瞬で分かるような、明確な方向転換。
「……お前は最後まで最高の剣でしたぜェ!!」
引き抜いた鈍器……錆び、刃こぼれだらけの廃品を構えて、投げ飛ばす。
何か特殊な力を使った訳では無い。
それにピートは欲を持たない。
純粋な腕力と身体能力での投擲。
まるで鉄の弾丸の如く飛んだ剣が、全喰い種の口内へと飛び込んでいく。
石で果物を潰すような音が響く。
「ギュウウウウウ!」
絶叫のような鳴き声。
開いていた口を閉じ、全喰い種が頭部を振り回して悶える。
効いた、苦しんでいる――!
「は……? ピート、料理人じゃねェのか?
なんだあの威力……」
「ウチの雑用係だよ、それ以下でもそれ以上でもねぇ。
ただし、りんごは片手で絞ってんな」
「どうかしてるぜ……」
ピートについて全喰い種並のヤバい話が聞こえた気がする。
その時、マヌダールがボクの肩にそっと手を置いた。
「思い出しましたよォ……マトさん、コレは噂です。
だから――インチキジジイの話ですよォ!
全喰い種は体内を移動し続ける宝石を持っている――。
宝石は食べた大地の力を溜め込み、豊穣を司る宝石となる……!」
「流石マーさん……! ボク、そういう宝物好きかも……!
欲【宝の在り処】――!」
ゲームで言えば敵の特殊弱点かつ、破壊すればレアドロップってやつだ。
こんな状態でもワクワクしてしまう。
視界の中に生まれた輝く光の粒子は、風を無視して真っ直ぐに全喰い種へと飛ぶ。
周囲をくるくる回った後、口を展開する亀裂へと滑り込んでいった。
「キラキラが、口の中へ入ってく!」
「――正解、でしたねェ! キィーヒッヒ、流石大魔道士マヌダール! 物知りですよォ!」
口に吸い込まれた光は敵の体内で光球と変わり、その位置を示す。
マヌダールの話の通り、光はゆっくりと移動していた。
「動いてる……凄くゆっくりだけど! 身体の中……!」
「大きく育った個体だからこそ、持っている器官――宝石……!
しかし、マトくんにしか見えません。
全喰い種に近づけるのは危険、ポイントを示してもらう事はできませんねェ」
「……うっ……! でも、でも……!」
「もちろん、この私には策があるのですよォ!
さあ――魔法書を開きましょう。
インチキだと言わせぬように……見せてあげましょう、マヌダールの大魔法を!」
「マーさん、でもそれは……!」
「知識も本も、使い尽くせば土に帰り。それは肥料になりますよォ!
マトくんが思い悩むことではありません!
土が足りなければ運んでくれば良い! 失われたら作れば良い!
問題は有りませんよォ!」
「欲【司書無き図書館】――」
マヌダールの手元に輝く本が現れた。
彼の意思に答え、求める魔法の頁を自動で開く。
「縷縷たる書庫、棚は魔法。開くは呪文書――視覚術。
異界階位、花――賢者の法。
エリクシール・エリクシール・アリア・ティアーナ・ルゥ・アリアック――。
永久なる命紡ぐ雫よ――黄金生む神秘の秘薬よ――!
力満ちるは賢者の石、我と汝の瞳を繋げ」
マヌダールの周囲に黄金色の光が満ちる。
キラキラも相まって、なんだかとても神々しい。
「君の瞳から永遠に――!」
「……暫く、マトくんの目をお借りしますよォ!
なるほど……キラキラ! こういう風に見えているのですねェ!」
「んっ!? マーさん、どういう……!」
「おお、素晴らしい大魔法使いが見えますねェ!
ではなくて……マトくん、全喰い種を見てください!
私は今、マトくんが見ているものを見ているのですよォ!」
「わかった……!」
ジッと全喰い種を見つめ直す。
宝石の位置は頭部より少し後ろを体の方向へ移動している。
「まだですよォ!
蔵書の出し惜しみは致しませんッ!
マトくん、これは一番簡単でとてもとても大切な魔法!
一回きりですが見て覚えてくださいよォ!
欲【司書無き図書館】!
縷縷たる書庫、棚は魔法。開くは呪文書――生活術。
第一階位――色、灯……『印』!」
マヌダールが指差せば、全喰い種体に真っ赤な光の球が生み出される。
それは、キラキラが集まって動いている場所。
「目印をつけ光らせる魔法!
マトくんの欲を分かりやすく伝える事が出来ますよォ!
……後で、先生と練習しましょうねェ!」
「マーさん、ありがと!」
「いえいえ……! うーん、胡散臭くて気味の悪い笑顔ですねェ……気をつけましょう」
あ、まだ視界共有してたんだ……。
「うお! なんか光ったぞ!」
「ほほう、あのジジイ本物の魔法使いじゃねえか……!
いや……欲だな、全く……。
どいつもこいつも、一生の願い事をするなって言われてんのによ!」
アードが極悪な笑みを浮かべて、走り出す。
運動会のお父さん競技の再開である。
「おっさんだって使ってんだろ、願い事!
夜も出歩いてるしなァ!」
クゥが並走する。
「二人とも何言ってやがるんですかい!
顔が怖ぇのも盗みも罪ですぜ! ……様子が変わりやした、また来やがりますぜぇ!」
ピートが腰から錆びた手投げ斧を手に取って構える。
これも、古びた処分品だろう。
「ギュイイイイ!」
全喰い種が、再び口を大きく開いて吠えた。
ピートの一撃から立ち直り、威嚇している。
「治りやがったか……? ですが2発目もくれてやりますぜぇ!」
ピートがすかさずブン投げた斧、いや鈍器が口の中に飛び込んでいく。
鈍い衝撃音、破壊力は折り紙付き。
「良くやったピート! 殴るのは、顔の話の1発分で許してやる!」
――隙!
暴れ回る大ミミズの頭を避け、走り込むアード。
輝くマーカーのある位置を小剣で連続で突く。
皮膚が剥がれ、中から赤い光が溢れる――!
「ちっ、俺じゃあ奥まで届かねえ!
動く前に……ぶんどっちまえ、クゥさんよ!」
クゥとスイッチするようにアードが飛び退く。
「任せとけ! そいつはオレの本業だアアアアア!」
駆け込んできたクゥが、姿を消したように見えた。
あの技はもう使えないのでは……?
「『超跳躍』!」
高跳びではなく、幅跳びに使う。
あの高度へと跳ねる技、横向きに使えばそれは縮地。
瞬間移動が如く、敵の懐へ肉薄する。
「……『奪取』!」
クゥが手を伸ばし、何かを掴む。
握られているのは赤く光る印がついた、橙色の宝石。
全喰い種のコアだ……!
マヌダールが叫んだ。
「やりましたかァ!?」
『クソジジイ!!!』
地上の3人がマヌダールを見上げて絶叫する――。
マーさん、それはダメだって自分で言ってたのに……。




