2-9「……薬は完璧だと思うよ!」
グリフォンに跨るマヌダールが、空から何かを投擲する。
地上に落ちた丸い玉は弾け、中から薬液を辺りに撒き散らした。
薬入りの水風船と言った所。
「乾燥させたスライムの皮で作った袋に、大ミミズ殺す君を詰めたモノですよォ!」
水風船が直撃した辺りのツタが、一気に茶色く枯れてシワシワになっていく。
「どんどん投げていきますよォ! どこに本体が潜んでいるか分かれば簡単なんですがァ~」
破裂音が響くたび、風音のような鳴き声をあげてツタが崩れ落ちる。
「マヌさんよ、マジで効いてるじゃねえかよ……!
胡散臭えとは思ったが……コイツは一泡吹かされたなぁ」
「あのジジイ、腕は確かだからよ。話が長ぇのが最悪だけどなぁ!」
「確かにクゥ、途中で飽きちゃいそうだし。
マヌさん、すごい人だよ。森でも助けてもらった」
「……それなら仕方ねぇな、ウチの宝物が世話になっちまった。
本体ってのを探せば良いんだな、ジジイ!」
クゥが叫べば、マヌダールがグリフォンの上から顔を出す。
「ええ! 本体の真上から薬液を垂らせば、触手を一掃出来るはずですよォ!」
「なら出番だな、弟子よ! オレが運ぶ、マトが観る……いけるな?」
「観る……?」
首を傾げる。
欲で出来るのは、宝物を探すこと。
敵のボスは宝物ではない……。
「オレの欲と同じように小細工で――使えるんじゃねェか?
マヌさんよ、倒した後全喰い種は何に使える?」
「キーヒィ! なるほど、流石ガルドリアスさん!
全喰い種は食らった食べ物の分だけ質の良い肥料になりますよォ!
これだけの畑の土を食らったなら、それはそれは良い土を作りますゥ!
しかし、それはマトくんが危険になりますからねェ……」
「ってことだぜマトさんよ。 全喰い種はこの畑を豊かにする肥料になる。
学校ってやつで子ども達が農業を学べるなァ?」
「肥料……! そっか、それなら!」
「マトの欲で探せるな!
早速行くぜ、弟子よ! しっかり掴まって、しっかり見ろよ!」
「分かった!――欲【宝の在り処】!」
一度目を閉じ、開く。
辺りに輝く光が溢れ、飛んでいく。
もちろん皆は輝いている。
大切な人々も宝物だと、強く感じるようになった。
風に乗った光の粒達は、畑のツタの中へと飛んでいく。
「――クゥ、ここから真っ直ぐ奥に飛んでいってる……!
でも、ツタで見えない――!」
「なら、突入だな! いくぜェェェ!」
クゥの肩や頭にしがみつくのは慣れてきた。
おっと……一番気持ちいい時ほど気をつけろ、だ。
両手のダガーナイフを逆手に構え、クゥが跳ぶように走り出す。
「マト、飛んだり回っても……しっかり掴まってられるな?」
「えっ……う、うん! ちゃんと掴まる!」
「っしゃぁ、それなら余裕だな!!」
茂るツタの海へとクゥが飛び込む。
身体を傾けるだけで一撃を避け、最低限の攻撃で道を切り開く。
「キラキラ、このまま真っ直ぐ続いてる!」
「さぁて本番だ、がっちり掴まってろよ! 『超跳躍』!」
クゥの足に力が籠もるのが分かる。
身体を縮め――思い切り跳びあがる。
跳ぶ、というより飛ぶ。
畑を見下ろせるほどの高さだ。
「流石ですねェ、クゥさん……! マトくんも、油断せず気をつけてェ!」
「きゃあああ~~!」
マヌダールとキャアの声もかなり近い。
キラキラを見失う訳にはいかないので、畑を注視し続ける。
「このまま真っ直ぐ! ちょうど畑の真ん中あたりにキラキラが吸い込まれてる!」
「かしこまりだぜェ!!」
クゥが着地位置を決めたようだ。
いよいよ、ジャンプが落下に入る。
「んんんん!!!!」
風に耳がめくれ上がり、今にも吹き飛びそう。
喋ったら舌を噛みそうなので、とにかくクゥの頭にしがみつく。
「ブっ飛ぶなよ? 大丈夫、マトなら出来るってもんよ!」
テンションがブチ上がった、とても楽しそうな声。
そのまま加速しながら地面へと近づいていく。
「しゃあああい!」
轟音が響き、土煙が上がる。
けれど、振動は一切無かった。
完璧な着地だ。
「すっごい……! さすが大泥棒だね!」
「なんせサイキョーだからな! さて、この辺か……?」
クゥがツタを切り落とせば、キラキラが地面に集まっている場所がある。
「そこ……この真下!」
「んなら、本気で行くぜ! ジジイ、今から刈り取る!
ハゲた場所が狙いの場所だァ!」
大声を出し、マヌダールに連絡。
同時に両手のナイフを交互に繰り出し目の前のツタを切り落とす。
まるで斬撃を纏って踊るような動き。
周囲が丸く開けた。
「あとは任せたぜ、ジジイ!
じゃ、オレらはとんずらだ!――『潜駆』!」
視界から色が消える。
周囲で蠢いていたツタがクゥを見失い、暴れまわり始めた。
全喰い種の焦りが伝わってくる。
「3……!」
クゥの走る速度が上がった。
ツタとツタの隙間を抜け突き進む。
「2……!」
目の前の太いツタを跳ねて飛び越える。
「1……マト、しっかり掴まれぇェェ! 『超跳躍』!」
目の前の色が戻った瞬間、クゥが思い切り跳ね上がる。
空中を走るように足を動かし、飛距離を伸ばす。
街を望むような高度。
軽やかに空を舞い、アードとピートの真横に着地する。
「おおおッ……マジかよ……!? お前さん、どんだけ跳ぶんだ……」
「聞いたことがねぇ高さですぜ、『超跳躍』つったって、屋根くらいじゃあ」
「どんなもんだ! オレは出来る盗賊だからな!」
「うん! 出来る盗賊だもんね!」
クゥの言葉に合わせて、ぽん! と肩を叩く。
嬉しそうに微笑む顔を見ているだけで元気が出る。
「さて、お二人とも避難完了ですねェ! それじゃあ、本番ですよォ!
全喰い種を! 畑という大地から! キィーーーヒッヒッヒ!
召喚して見せましょうゥゥ!」
凄いへっぴり腰でマヌダールが霊薬を投げている……。
「お、おい、ジジイ……なんだそのやべェ動き」
「……さっきまで上手く当ててたように見えたが、ありゃなんだったんだ?」
「あれ落としてただけですぜ。語りが上手すぎて、狙ってるように見えてただけですなァ」
「うわぁ……」
とにかく下手なのだ。
投げると上に飛ぶ。
そのまま何処かに風で飛ばされ……畑の隅で割れる。
足元に投げたものがキャアに当たり、起こったような鳴き声も聞こえてくる……。
「だ、大丈夫ですよォ! このマヌダール、作った霊薬は完璧!
間もなく全喰い種を召喚出来るハズでございますゥ!」
「……薬は完璧だと思うよ!」
「オレもそう思う」
「――」
アードが黙って頭を抱えている。
「でも、当たるかもしれねェ。なら……油断なく、ですぜェ!」
ピートが武器を構え、ツタを睨んだ。
「こいつでェ、決めますよォ! 必殺……!
まとめて真ん中に落とせば何かいい感じに当たるかも知れませェん!」
ひどい言葉を叫びながらマヌダールが水風船を投げる。
いい感じに風に流され……目標地点に降り注いだように見える。
たまたま直撃した、ようだ。
「ヒットですよォ! 流石偉大なるマヌダール! 完璧な仕事でしたァ!
キャアさん、皆の所へ。
ここからが本番……大ミミズ狩りですよォ!」
グリフォンが羽ばたき、こちらへと戻って来る。
「まどろっこしい事やめやがれ、ジジィ!
お前絶対、手品のつもりでワザと不安にさせやがったな!」
「ワザとだァ!? インチキジジイ、いい加減にしやがれよ!
しかし当たったなら問題はねぇ!
お前ら、準備はいいか――全喰い種は手強いぞ……!」
マーさん、多分本当に当てられなかったんだと思うよ……。
あの胡散臭いハッタリ、地味に効果あるんだな……。
「ギュエエエエエエ!!」
叫び声。
詰まった排水溝みたいな鳴き声。
同時に地鳴りが起こる。
「来やがるな……!」
当たり一面のツタが一気に茶色に染まり、枯れて崩れる。
本体以外の部位が土に還った。
そして――飛び出してくるのは大ミミズ。
「でっか!!!!」
4人で手を繋いでようやく一周届くか?という太さ。
長さは長すぎて分からない。
もはや見えているだけでも、畑の幅くらいある。
「厄介ですねェ……やはり育っていましたかァ!
街に向かわず良かったですよォ、ここで仕留めれば、の話ですがァ!」
「ジジイ、どれくらい弱ってんだ?
冒険者が束になっても食われたって話があるんだぞ」
「特別な霊薬です、森の獣に勝てるならいけそうですがァ……大きいですからねェ!」
「……なら、こうだ。
俺とクゥ、ピートは前に出る。
ジジイ、魔法は使えるな?」
「それは――」
ボクが答える前に、マヌダールが割り込んだ。
「ええ、使えますよォ! 大魔道士マヌダールの力、お見せしましょう!」
「マーさん……」
「マトさんよ、その顔――ワケありだな。なら、最低限の支援で構わねえ。
マトはキャアに乗ってインチキジジイと空だ。
そのジジイなら――あのデカいミミズの弱点を、宝物に出来んだろ」
アードが素早く的確な指示を出す。
「畏まりましたァ! それは名案、名案ッ!
では――こちらへ!」
クゥの肩から、キャアのお子様席へ飛び移る。
「――それじゃ、いくぜ!
いっちょ街、守っちまおうか!」
クゥの叫び声と同時に、全員が動く。
ブクマや評価、本当にありがとうございます!
初作品で緊張している中、とても励みになっております!
これから先もどうぞよろしくお願いします!




