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2-8「俺だって張り切っちまうんだよ!」

「古代イルイレシア遺跡の宝物、古代の魔法を封じた剣だぜ……!

 ガハハ! 良いだろう、俺の自慢の名刀だ!」


 レイピアや小剣に向いた、突き重視の素早そうな構え。

 大柄で丸っこいアードのおっさんゆえに、爵位を持つ貴族のように見える。


「しっかり掴まってろよ、俺も人拐いが相手じゃなけりゃ……それなりにゃあ戦えるんだぞ」


 一本のツタを切り落とした事で、全喰い種(ワーム)が活性化したような気がする。

 奥から2本、手前を走ってくるツタが1本。

 先端を4つに開いて向かってくる。


「数が多いが、本体じゃなけりゃ俺でも少しは――」


 重量級の大男とは思えぬ軽やかな動きで一歩後ろに飛び退いた。

 美しい構えで狙いをつけて、先行してくる1本へと攻撃を放つ。


「二発目、喰らいなァ! 魔装開放――風打ち(エアロスラスト)!」


 周囲に生み出した風の刃が飛ぶ。

 直撃を受けたツタがバラバラに崩れ落ちる。


「……ッハ……ちぃと張り切りすぎちまったなぁ!

 お前さんが見てるってんで――つい、な――」


 アードの肩が大きく上下している。

 体力、魔力――そういう何かをリソースに魔法の力を発動しているのだろう。

 明らかに疲れが見える。


「かっこいいから! かっこいいから……おっさん、無理しないで」


 ぎゅ、と肩に掴まり直す。


「――いいねェ、そういう言葉は言われた事がねェ!

 ガハハ、労られるのは悪くねえぞ!」


 ジャケットの裾を翻しながら、右へ大きくステップ。

 噛みつこうと向かってきた2本のツタを、ギリギリの所で避ける。


「っと、危ねェ――クゥならもっと上手く避けるんだろうがね!」


 今までの鋭い突きとは違う、薙ぎ払いの剣。

 左から右へと切っ先が半月を描く。


 口を開いたツタ1本が切り飛ばされる。

 だが、もう1本が迫っていた。


「いやぁ、流石に――おっさん酷使させすぎじゃねえか!?」


 身体を逸らし、ツタが繰り出すムチのような一撃をギリギリで避ける。


「アードのおっさん、めちゃくちゃ強いじゃん!」


「そりゃあどうもだが……!

 ッハ……ハァ……めちゃくちゃ疲れんだよ!

 ただの商人のおっさんだって言ってるだろうが!」


「めちゃくちゃ顔怖い奴隷商人だけど」


「ピートだったらぶん殴った所だぞ、マトさんよ!」


 ツタが再び持ち上がり、勢いよく振り下ろされる。


「普通にキツいんだよ! こんな仕事は、冒険者にさせやがれ!

 三発目もくれてやる! 魔装開放――風打ち(エアロスラスト)!」


 既にアードの構えは突きへと戻っていた。

 一歩踏み出しながら伸ばした剣が、疾風を巻き起こす。


「まとめて雑草刈りだ、お代は高く付くぜ……!」


 放たれた風が目の前のツタを切り刻み、首を落とされ蠢いていたもう一本も巻き込む。


「やったかな!?」


「油断するんじゃねえ、やったか、と思ったときは――大概やってねえ!

 俺達商人ってのは、一番気持ちいい時ほど気をつけろって習ってんだよ!」


 アードが一歩だけ下がる。

 畑から外へ全喰い種(ワーム)を出さない為に、一定の距離からは離れない。


「おっさん、息が……」


「ええい、年寄りみたいに言うんじゃねぇ!

 ハァ……ハァ――」


 アードの肩の上下が激しい。

 顔の汗も凄い。

 限界の顔だ。


「でもなァ……そこで応援されてんのはよォ、悪くねぇんだ。

 俺だって張り切っちまうんだよ!」


「ありがとね! 頼りにしてる!」


「……良いねぇ、悪くねぇ、悪くねぇ!

 まだまだぶっ倒れるワケにはいかねぇなあ!」


 大きく息を吐き出し、アードが再び剣を構える。

 その時。


「何が悪くねぇんですかい? 避難は終わらせましたぜェ、大将!」


「盛り上がってじゃねえか、おっさん! 混ぜてくれよな!」


 駆け寄ってくるのはピートとクゥ。

 周辺の避難誘導を終わらせたのだろう。


「……ったく、良いとこだったのによ。

 悪いのはタイミングだよ、タイミング。

 だが、助かったぜ。

 見ての通りだ、クゥ、マトを頼む。

 俺は歳だからなぁ!」


「おうよ、任せときな!

 マト、こっちに!」


 本当は自分の足でなんとかしたいが、今は頼ることが最適解だ。

 アードの肩からクゥの頭へ飛び移る。


「……来ますぜ、大将……!」


 ピートがアードの前へ駆け込み、ショートソードを構える。

 小ぶりで両刃、魔法の武器っぽくはない。


「どりゃあああああ!」


 威勢の良い叫び声と共に、高く振り上げた剣を思い切り振り下ろす。

 剣というより、鈍器。その一撃は凄まじく重い。

 正面から迫ってきていたツタが、地面に轟音を立ててめり込んだ。


「ったくお前さんは! どうしてちゃんと磨いてねぇんだ!」


 アードが額に手を当てながら溜息を吐きただす。


「いんや大将! こいつは廃品ですぜェ!

 それでも勿体ねぇですからなァ!」


 衝撃で動きが鈍った眼前のツタへ、クワを振り下ろすような勢いで剣を叩きつける。

 錆びてナマクラ……けれど、武器として死んでいない。

 ピートの腕力が鈍器としての著しい威力を引き出す。


 ゴォン! という激しい金属音の後、ツタは動かなくなった。


「荷物もたくさん持ってたし、ピート力持ちだね!

 すごいよ……!」


「そいつは照れますぜ!」


 満面の笑みで親指を立てたピートが振り返る。


「しっかり掴まってろよ、マト――!

 ピートはよ、戦い慣れてねぇだろ……油断すんな!」


 言葉と同時に、クゥがピートの前へと走る。

 両側からツタが気配を消し、静かに迫っていた。


 腰のベルトから2本のダガーナイフを引き抜き、回転しながらツタへと斬撃を放つ。


「不意打ちとは中々やるじゃねーかよ!

 だが刃は通る。

 つまりバラバラに出来るってことだぜ!」


 クゥの武器はリーチも短く、威力も小さい。

 舞うような一撃も、両方のツタが一瞬動きを止めた程度の威力だ。


「『潜駆(ステルス)』――!」


 視界が一瞬、白黒になったような感覚。

 風の音も、うねるツタの音も聞こえない。


「クゥ……?」


「しっ……黙ってろ。

 後で説明してやる」


 真横に迫っていたツタは、その場で獲物を見失ったように(うごめ)いているだけ。

 目の前のクゥとボクに気付けない。

 ツタの後ろ側にクゥが走り込む。


「残り1秒……じゃあな。

 こいつがサイキョーの一撃よ!」


 視界に色が戻ってくる。


 ツタは何の反応も出来なかった。

 クゥが連続で繰り出すナイフの斬撃を受け、バラバラになる。


「草刈り、まだまだ続けていくぜ!

 『潜駆(ステルス)』――!」


 再び視界から色が消えた。

 クゥは時間を数えていた気がする。

 なるほど、時間制限付きの透明化……かな。

 クゥらしい技。

 自分だけでなく、乗っているボクの気配も消えているのだろうか。


「動くなよ、オレと持っている荷物しか消えねえ」


 小さく呟くクゥ。


「――それに1日3回だぜ。

 とっておきってやつだな!」


 もう一本のツタへと走り込んだタイミングで、潜駆(ステルス)の効果が切れる。


「――刈るぜ! 反応なんて出来ねえだろ!」


 くるりと両手のナイフを逆手に持ち替えて、拳で殴るように連続で叩き込む。

 ツタはただの動かぬ植物かの如く、切り刻まれ崩れ落ちる。


「やるな、クゥさんよ……! だがそいつは取っておけ!

 お前さん達は張り切りすぎだぞ、まだ……本体が残ってんだ!」


 どちらかと言えば一番張り切っていたアードの声が聞こえてくる。


「おっさんも張り切ってたじゃねえか!

 風の斬撃なんて、滅多に見れたモンじゃねえからな!」


「ったくよ……」


「で、なんで暴れてんだこれ!」


「そこの呪われた宝物のせいだよ!

 全喰い種(ワーム)から見ても、美味そうで我慢できない宝物って事だろうよ!」


「ははぁん、納得だぜ!

 悪いな……マトはオレのお宝だからな!

 泥棒は許しちゃおけねえぜ!」


『お前が言うんかい!』


 ボクとアードとピートの声が重なる。

 ボクもつい一緒に突っ込んでしまった。


「つまり、マトさんを街に入れるとコイツが着いてきちまうってことですかい?

 だから、ここで食い止めてると」


「そういうこった!

 マヌダールが薬を作りに戻っている……俺達でそれまで食い止めんぞ!」


「言われなくても、だ!」


 クゥが畑の周囲を走りながらツタを引きつける。

 誘導されたツタを横からピートが殴り、倒す。

 アードは離れて休憩中。

 無理をしてでも良い所を見せたかった、運動会のお父さんみたいな雰囲気。


「減らねえどころか増えてんじゃねえか!?」


「どぉりゃぁああ!

 確かにいくらブッ倒しても減ってる気がしませんぜ!」


「クゥ、奥からまた来る!」


「おうよ!」


 クゥは難なく避け、ツタを切り落とす。

 しかし、ジリ貧である。

 敵の増える速度の方が、草刈りより速いのだから。


「きゃあああああ!」


 その時、空からグリフォンの鳴き声が聞こえた。


「お待たせしましたァ!

 偉大な! マヌダールが! 丹精こめて素早く仕上げた魔法薬、準備出来ましたよォ!

 キーヒッヒッ!」


 魔法使いの大声が(とどろ)く。

 あまりにも胡散臭い登場に、この場の全員が肩を落とした。

 ダメかもしれない、と。


「触手を枯らして肥料にィ、その本体を地中から引き摺り出す!

 土は豊かに……全喰い種(ワーム)は外に!

 名付けて霊薬(エリクシール)『大ミミズ殺す君』!」


 仰々しい言葉の末に出てきた名前がコレ。

 マヌダールが水風船のような物を何個も掲げている。


「さあ、草刈りの本番ですよォ!」

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