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2-5「上にキラキラがあるよ!」

「キィーヒッヒッ、しっかり掴まっていて下さいねェ!

 このまま西の森まで進みますよォ!」


「きゃあ~」


 空へと走るキャアが、アルクバーグの街全体が見下ろせる高度へと到達した。


 空の移動のお約束は、ゲームではいつも後半。お話の最後の景色だと思う。

 この世界に来たばかりのボクが見られるなんて思っても居なかった。 

 

「マーさん、凄いね……!

 めちゃくちゃ街おっきい……!」


「ヒッヒ……この街は、歴史が長いんですよォ。

 もしかすると王国よりも昔にあった国の一部だったかもしれないんです~!

 キャアさん、西へお願いしますねェ」


 とんとん、とマヌダールがキャアの背を叩くと進行方向が変わる。


「昔にあった国……えっと、古代イルイレシア――」


「なんとォ、ご存知でしたかァ~! 物知り博士ですねェ、偉いですよ~!

 クゥさんから聞きましたかねェ~?」


「うん、クゥから街の裏の遺跡で教えて貰ったんだ。

 でも、名前を聞いただけだよ。

 マーさん、ボクがさ、異世界から来たって言ったら信じる?」


 少しだけ長い沈黙があった。


「そういう、事でしたかァ。

 だから(デザイア)をお持ちなんですねェ。

 今はトガ――では、他の世界ではヒトですかァ?」


「うん、そうだよ。

 子どもっぽくしていてすみません、楽しくて……。

 ボクはその」


 マヌダールはその言葉だけで察したようだった。


「お子様のウサギさんで良いじゃないですかァ!

 自分の好きなように居れば良いのですよォ、けれどォ~~!」


「けれど……!?」


「胡散臭いって言われないように気をつけてくださいねェ~~!」


 気にしてたんだ、この人……。


 ちょっとした会話をしていれば、景色はあっという間に森の上だ。


「森、すごい広い……!」


「ええ、知る人は減りましたがァ、この森も古代イルイレシアの遺跡なんですよォ。

 その時代の薬草や鉱物、動物が生息していると言われているのですよォ!

 大人として、マトくんに頼むのは気が引けますゥ、けれど今は頼るしかありませェん。

 ――(デザイア)、お願いできますかァ?」


「大丈夫、任せて!」


(ギヴン)は大丈夫ですか?

 マトくんが安全に使えないなら、使ってはいけません。

 その時は、3人で森を歩いて探しましょう!」


 とても優しい声色。

 ワザとらしいしわがれた声ではなく、穏やかで澄んだ声。

 まるで賢者のような雰囲気だった。


「う、うん!

 ボクのは、ボクが宝を見つけられるかわりに、ボクが宝物になっちゃうってやつ。

 だから、任せて! (デザイア)宝の在り処(キラキラ)】!」


 キャアの背中の上、輝きが溢れている。

 その光の粒子が風に乗り、森へと流れ輝く道が生まれた。


「マーさん、森の中に宝物――その薬草あるよ!」


 振り返ってマヌダールに笑えば、彼もまた輝いていた。

 優しい微笑み、賢者に見えた。


「キィーーヒッヒッヒ! 素晴らしいですよォ!

 捜し物の達人、探偵さんですねェ!

 いや、クゥさんのお弟子さんなら泥棒さんですねェ!」


 前言撤回。

 眉間にシワを寄せ、広角を釣り上げ、奇っ怪な笑い声をあげる姿は胡散臭い。


「マーさん、キャア、あっちだよ」


「きゃああ~」


 マーさんがボクの指差しをキャアに分かるように伝えているのだと思う。

 ぱんぱん、と背を叩く音が聞こえた。

 楽しげに羽ばたいたキャアは、森へと一気に降りていく。


「道案内は大事です、けれどォ!

 飛ばされないように、しっかり掴まってくださいねェ!

 小さいうさぎさんはすぐに飛んでいってしまいますからァ!」


「うん!」


 そう言って振り返れば、マヌダールはしっかり両手でキャアに掴まっている。

 クゥが両手を離して馬に乗ってたのは、彼特有のワザだったと今知る。


「そろそろ森に入りそうですねェ!

 中に入ってからは飛ぶのは危険です、キャアさんがケガをしてしまいますよォ。

 ですので、ここからは皆で歩きましょう!」


 森の中の開けた場所へキャアが降りる。

 光の粒は、森の深くへと続いているように見えた。


「それではマトくん、この森は初めてですねェ?」


 そう切り出すと、マヌダールは色々な知識を話してくれた。

 森の歩き方や危険な動物、はぐれた時の対処。

 困った時に食べられるもの、傷薬になる草――。

 森が危険なものである、と再認識させられる。


「夜になれば、人拐いも出ますからねェ。

 マトくんの世界には無いルールかもしれませんがァ、夜の暗がりに近づいてはいけません」


 ボクはそれを先日見た。

 もしかしたら、マヌダールなら何か分かるかもしれない。

 ……今は薬草が大事。この仕事が終わったら、聞いてみよう。


「注意事項は分かりましたねェ! それでは、出発しましょう!」


 話の長い学校の先生のようだった。


「分かった! ボクが前に出て案内するよ!

 マーさんとキャアはついてきて!」


「充分に気をつけてくださいねェ!」


 草を掻き分け、木の間を進む。

 途中には流れる清流があり、マヌダールが水を汲んでいた。

 何か特殊な薬草に使えるらしい。


 キラキラと輝く道標に従って進めば、森だって一本道。


「なんだか光が大きくて強くなってきた!

 宝物、近いと思う!」


「なんと! 嬉しいですが、少し残念ですよォ。こんな森の奥へは中々入れませんからねェ」


 マヌダールは道中、ホクホク顔で商品になる薬草やキノコも集めていた。


「きゃあ〜あ!」


 もちろんマヌダールは木の実にも詳しい。

 美味しい理由をキャアに説明しながら与えていた。

 当の本人は美味しくてぴょんぴょん喜んでいるだけだが……。


「マーさん、目の前の木の……上! 上にキラキラがあるよ!」


 ふと気づけば、輝く道は木の上へ。

 枝の先端、丸い球のようなもの。

 ヤドリギっぽい草に光が集まっている。


「……キヒヒィ……!

 本当にありましたねェ!

 とても珍しいのです、お手柄ですよォ、マトくん!

 アレはトリノスモドキ、全喰い種の毒になり、草木には良い肥料になる寄生樹ですよォ!」


 周囲はキャアが飛び上がるには狭い。

 木の枝や細い木に激突してしまうだろう。


「マーさん、ボク取ってくるよ」


「泥棒さんの見習いでしたら、お任せ出来ますねェ!

 冗談はさておき、かなり高い場所です。

 『危ない』ではなく『怖い』と思ったらすぐに戻ってくださいねェ」


「分かった!」


 木登りの経験なんてない。

 でも、なんとなくできる気がした。

 木のコブが、ちょうど掴めそうな感覚にあったから。


「……キャアとマーさん居るから、怖く無いや。 よし……!」


 体も小さいし、力もない。

 だから進むのは遅い。

 けれど辛くも怖くもない。

 宝探しみたいで、楽しいくらい。


「そこから隣の枝ですよォ!

 キャアさん、こちらの位置に居てくださいね」


 フワフワなので落ちても安心ですよォ、と続くはずの言葉は無い。

 失敗を示唆させない事が、彼の気遣いだと思った。


 にじりにじりと枝を進む。

 冒険物、探検物。

 天高くそびえ立つ巨木の枝の、不老不死の花を取りに行くシーン。

 そんな大層な物では無かったけど、ボクは同じくらいの興奮を感じていた。


「……枝、細くなってきた。

 だけどよ、問題ないぜ! ちょちょっと採っちまおう!……っと」


 クゥの真似をしながら、両足で枝を強く挟む。

 ここからは両手の作業。

 クゥと同じ位置、腰のベルトにつけた小さなナイフを引き抜いて右手に持つ。


「手を切らないように、気をつけてやりましょうねェ!」


 ボクが時間を掛けている間、周囲で採取も出来たはずだ。

 けれど、マヌダールはずっとボクを見上げ応援とアドバイスをくれた。


 胡散臭くなければ、もっと頼られそうな人柄なのに……。


「……! 上手く、出来たかも!」


「油断はダメですよォ!

 最後の締めはいつでも大事、だからクゥさんは捕まらないのです!」


 クゥの扱いはやっぱり泥棒。

 街で愛されている、人柄がウリの大泥棒って所かな。


「わかった!」


 丁寧にトリノスモドキを枝から離し、採取に成功。

 キラキラと輝くこの草は、自分の手ではじめて手に入れたこの世界のお宝だ。


「下に落とすよー! 拾ってー!」


 ナイフをしまい、ボタンを止める。

 それから目的の薬草をマヌダールに投げる。


「おっとと……!

 キヒヒィ、確かに受け取りましたよォ!

 後は安全……」


 言葉が止まる。


「マーさん!?」


「……キャアさん、マトくんを受け止める準備を。

 マトくん、今すぐココに飛び降りてくださいッ!」


「ンッ……!?」


 声は極めて真剣、胡散臭さがないほど張り詰めている。

 危険が迫っていると、すぐに分かる。


「シャアアアア……」


 振り向かずとも、ウサギの耳は鋭い。

 鳴き声にも呼吸にも聞こえてしまう音を捉えてしまう。


 それが何であるか、ボクはすぐに分かった。


「……ヘビ……」


 飛び降りるのは怖い。

 けれど、ヘビのがもっと怖い。


 振り向いて確認しよう。


「……!? ヘビ……!? 何これ!?」


「いけない!

 目を見てはいけませんよォ!

 マトくん、すぐに飛び降りてください……!」


 音もなくボクへと向かって来ていたモノは、蛇なんかじゃない。


 足が何本もあるカメレオンのようなトカゲ。

 渦を巻いたような目が特徴的。


「目を見てはいけませんッ!」


 マヌダールの叫ぶような大声が森にこだまする。

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