2-4「擬態した……はらぺこ全喰い種……!」
「対処法はどうすんだよジジイ! 大事な所で止まるんじゃねえ!」
思わせぶりな言葉で突然黙ったマヌダールに、アードが声を荒げる。
「キッヒィ……焦っても状態は変わりませんよォ!
土の質を劣化させ周囲一帯へと広がってしまう雑草と思われますがァ。
アレらだけを枯らす方法も存在しますよォ~!」
「だから、それを話せって言ってんだインチキじーさんよ!」
「インチキかァ、手品かァ、それとも魔法かァ~。
お見せしなければなりませんねェ~~!」
クゥの目がみるみる死んでいく。
彼は常にアクセルを踏み込むような生き方だ。
このまどろっこしさはダメなのだとハッキリ分かる。
「おいジジイ。必要なことと、出来ることをまず話してくれ……」
「説明は最後までさせて頂きたいんですけどねェ~~!
畑の状態はどうなっていますかァ?」
「……畑全部、うねるツタだらけだ。 昨日に刈り取ったが、今朝また芽が生えていた。
作物は無ぇ。 空いた土地を譲ってもらったんで準備し始めたらこうなったんだ」
「作物は無し、つまり一度ひっくり返してしまっても構わないですねェ!
キーッヒッヒ、根絶やし! 根絶やしにしましょう!
畑獲種は、周囲の栄養や水を沢山吸いますのでェ。
森に生えている一部の草が苦手で、煎じた液で枯らすことが出来ますよぉ」
「だがよ、また生えちまうんじゃねェのか?」
「薬液を吸わせれば、中央の球根が弱りますよォ~!
掘り出して焼いてしまいしょう! 火炙りです、キーッヒッヒィ!」
「……畑はプロじゃねェ。
オレが連れてきたガキや、ここのガキが出来ることを増やしてえだけだ。
その薬液……これから先、ガキが土に触れたり、出来た作物を食っても大丈夫か?」
アードの眉間にゴリゴリのシワが寄る。
指でヒゲを弾きながら、唸り声を上げる姿の迫力が凄い。
「キーーーヒッヒッヒ、大丈夫ですよォ!
人を売っていそうな極悪商人かと思いましたがァ!
ご安心下さい、むしろォ――畑が豊かになりますよォ!!!」
その人、本当に人を売ってる商人なんだよなぁ。
「……ジジイ、正解。正解だわ。その顔が怖いおっさん、奴隷商だぞ。
ガルドリアス商会とか言ったか?」
クゥが横で笑いを堪えている。
「クゥさんよ、今すぐ張り倒してやりてぇが……。
俺はアード・ガルドリアス、奴隷商なのは確かだ。
その奴隷がな、これから先に市民や国民として困らんように学んで欲しいんだよ」
「あのガルドリアス商会の大将さんでしたかァ!
改めまして、しがない魔法何でも屋のマヌダールです、ご贔屓にィヒーーッヒ!」
マヌダールは喋るたび大げさに動く。
本当に胡散臭い。
「……マヌさんよ、どうにか出来そうか?」
「まずは畑に向かいましょう!
草の種類を調べ、薬を作り、明日撒く。
その後、本体の球根を掘り出して対処はおしまい。
これで根絶やし、ヒーャアッハッハッハ! 根絶やしです!」
「死ぬほど胡散臭えな……。商売するのに致命的だぞ、マヌさんよ。
だが分かった、急がねえで良いんだな?」
「お食事をしてから、ゆっくりで大丈夫ですよォ。
アードさんは、少しお疲れのようですし、休憩致しましょう。
今なら……マトくんのもしゃもしゃが見られますよォ!」
ン?
「そうだな、ちぃと張り切りすぎたな。
ふむ、もしゃもしゃか……なるほど、もしゃもしゃなぁ」
美しくテーブルに盛られたサラダ。
ボクの居た世界で食べるレタスのような……美しい緑の葉野菜をアードが一枚取る。
「ほれ」
そのまま、ボクの口元に差し出してくる……。
スープや肉ではなく、迷うこと無くレタスを選んだのはボクがウサギだからなのだろう。
しかし、なんとも……。
「う~~ん」
恥ずかしかったので躊躇う。
「!? 嫌いか!? 悪いな、トマトか? 玉ねぎの揚げたやつはダメだろ?
……どれだ! どれが好きだ!」
困った顔で大慌てするアードを見ていると、申し訳なくなる。
目の前に差し出されたレタスを咥えることにした。
もしゃもしゃもしゃ……。
「オッ!!! やべえな、マヌさんよ! これか! これだな!」
「キィーーーヒッヒッ!! これですよォ!」
あっ、二人でハイタッチしてる……。
「負けねぇぞ! オレはこのポタージュをもしゃもしゃしてもらう!
マト、あーんしろ!」
クゥがスプーンから溢れるほどのスープを差し出してくる。
何故こうなったのかは分からない。
結果的に、皆から囲まれ食事を食べさせられる形になった。
この後ピートも揚げたてのフライドポテトを持ってやってきた。
皆が満面の笑みだったので、食べるのが楽しくなってしまった。
確認できた食物はレタス、トマト、たまねぎ、じゃがいも……とうもろこしに白米。
恐らく先輩転移者のおかげだ。
感謝して、ごちそうさま。
「人手は多い方が良いですよォ! クゥさんも、ピートさんも手伝って下さいねェ!」
マヌダールがそう言うので、全員で出発である。
「弟子は休んでても良いんだぞ? 今日は盗みじゃねえからな!」
「人手が必要みたいだし、行くよ! 手伝わせてね!」
「お前さん、盗賊に育てるんじゃねえよ……。
墓荒らしとかトレジャーハンターくらいにしておけ、な?」
「墓荒らしは極悪だろ!」
「極悪なら大将ですぜ!」
そしてピートが殴られ。
横で何かを語り出したマーさんを見なかった事にし。
畑に到着した。
話に聞いていた通り、蠢くツタで埋め尽くされている。
「きゃあああ〜〜!」
ツタの中から聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきた。
「ヒイッ……!? 女性の悲鳴ですよォ、皆さん!
何か悪い魔女にでも追われているかもしれませんねェ……!」
マヌダールが顔を真っ青にしている。
気持ちは分かる。
「キャア、畑に居たんだ。
お手伝い?」
「ああ、助かってるぜ。
みかんが給料の新人ってところだな。
さて、マヌさんよ。あの声はウチのグリフォンだ、安心してくれ。
このツタ、調査できるか?」
「グリフォンを従えていらっしゃるのですかァ!?
……おおっと、取り乱しましたァ。
ええ、早速調べてみましょうねェ!」
マヌダールがずるりずるりと動くツタへと歩み寄り。
瞬間、大声で叫ぶ。
「……!!
近づいてはいけません!
グリフォンさんもすぐにこちらに呼んでください!」
「……なんだと!?
ええい、何も分からんが……!
キャア、こっちだ!」
アードが躊躇いなくキャアを呼び寄せる。
胡散臭いと罵りながらも、マヌダールを信用している証。
ほどなく、キャアがアードの横に飛んできた。
「……これは、畑獲種ではありませんねェ……!
畑獲種に擬態した……はらぺこ全喰い種……!
人間も喰らいますよォ!」
マヌダールが走って戻って来る。
「はぁ!? マジかよ、ジジイ……! でもオレらは大丈夫だったぜ!?」
「捕食行動は2つ!
昼間は植物と土を。
夜は……地中を移動し人間を。
畑としての質が良かったので、夜間に人を喰わなかっただけだと思いますよォ!」
「じゃあ、夜まで放って置いたらまずいよね!?
マーさん、何とかできる?」
「全喰い種は、それなりの冒険者でも肉弾戦では厳しい相手ェ!
一部の薬草を取り込ませれば、倒せますがァ……」
「ますが!?」
「貴重な薬草ですよォ! 持ち合わせなどありません!」
「外の森に、生えてる可能性はあるの?」
「何処にでも生える代わりに、数が少なく小さいため見つからないのですよォ」
クゥが、ニィ……と盗賊めいた笑顔を浮かべて、マヌダールの肩を叩く。
「このマトなら……探せるかもしれねえ。
なんせオレの弟子、宝探しの欲が使えるんだからなあ!」
「こんなに小さいのに欲をお持ちなのですねェ……。
感心はしませんがァ、力は借りられますかァ?」
「もちろん! ボクも力になりたい!」
一生懸命で大きな声。
力を貸すのではない、力になりたいんだと頭を下げる。
「良い子ですねェ……! 偉いですね!
それではクゥさん、お弟子さんをお借りしますよォ。
グリフォンさんもお借りできますかァ……?」
「おう、ジジイ!
マトはオレの宝モンだから、大切にしてくれよな!」
「キャア、あの胡散臭いジジイに力を貸してやってくれ。
頼れる何でも魔法屋だよ」
「恩に切りますよォ!
さて、キャアさんですね、乗せて頂けますかァ……?
おや……こちらが欲しいのでしょうか?」
キャアがマヌダールの胸を突いている。
その位置から取り出されたのは飴玉のような物。
オレンジ色。
間違いなく、みかん飴……!
「きゃっ!」
可愛い鳴き声でキャアが受け取る。
ご機嫌なグリフォンの背中にマヌダールがボクを乗せ、続いて自分も跨る。
グリフォンの背中、前側のお子様席からの景色は最高だ。
「皆さんは、街の人に連絡を! 夜までに対処できないと危険ですからァ!
それまでは、このままで大丈夫ですゥ!」
「おうよ、分かったぜ。
マヌさんよ……2人と薬草、宜しくな!」
アードが親指を立てている。
「かしこまりましたァ!
おや……キャアさんにも毛玉がありますねェ、これは後でお手入れですねェ」
「行ってきます!」
ボクも皆に手を振る。
インコ頭のグリフォンは、空へと駆け上って行った。




