2-3「もしょもしょしていますねェ!!!」
「ほ、本日はお日柄もよく――」
こんな経験、今までにない。
それっぽいことを言わなければ、と必死に声を絞り出す。
「んだよ、ガーディアンと戦うより緊張してるじゃねーか」
クゥが優しく撫でてくる。
落ち着くけど、思い切り人前だ。
恥ずかしい――。
「え!? ガーディアンって遺跡の危ないやつ?」
「えー、そんなにちっちゃいのにウソでしょー」
「でもでも、クゥも見てたんじゃない? 凄いんだよー!」
クゥの言葉で子ども達も盛り上がってしまった。
確かに、ガーディアンから盾で殴られそうになった時より怖くない。
精一杯の声で叫んだ。
応援団が名乗りを上げるかの如く。
「えっと、マトです。この辺りも、この街もはじめてなので――。
色々教えてください!」
両耳がぺたん、と倒れるくらい大きなお辞儀で締める。
「よろしくね!」
「ちっこいのに偉いね!」
「誰でも出来んだろ……ま、頑張ったな」
拍手と沢山の声が聞こえる。
「よーし、良くやった。出来るじゃねえか」
ぽん、とクゥの手が再び頭に乗る。
「そりゃあ、ボクだってそのくらいの経験はあるよ」
「街でやってる、クソつまんねえ演説みたいなスタートした時はビビったけどな。
ホントにガキじゃねえのかよ……」
「じゃないって言ってるじゃん」
「ガキで良いだろ、ちっこいのに偉いね、で良いんだよ」
わしゃり、頭を撫で回された。
どうにも抗えず、安心して長い耳が垂れてしまう。
「――もう」
ぷい、と目を逸らす。
目を逸らした先で、さきほど部屋の前に居てくれたレオと目が合う。
いつもなら目を逸らすレオが、なんだか深く頷いている。
ああ、これか……クゥのこれが恥ずかしいからあの態度が出来上がったのか、と理解する。
「はい、っちゅーことでだ!
今日からマトも一緒に暮らすから、よろしくしてやってくれよ!
ちなみにオレの弟子一号だぜ!」
「えっ、うさちゃん泥棒になるの!?」
「小さいから忍び込むのが上手いのかも」
「えー! 悪いことはオレだけで良いって言ってたじゃん!」
うんうん、分かるよ。
ボクも分かる。
子ども達もしっかり盗賊を理解していた。
「キィーヒッ……ダメですよォ!
クゥさんは良い人ですがァ……お仕事は関心出来ませんねェ!
私のお店のお手伝いでもする方が、マトくんには向いていると思いますがァ~!」
マーさんの声は意外と通る。
確かに、ボクも関心出来ないなぁ、とは思うけれど。
「泥棒じゃなくて、宝探しを教えてもらうことになりました!」
そんな話はしていないけれど、ボクがこの世界に来た願いは"宝物が欲しい"。
だから、そう言葉にしてみた。
今、頭を撫でて来るクゥも、顔が怖いアードとその子分ピートも。
途中で襲ってきた……いや、ジャレて来たグリフォンのキャアも、みんな宝物だけど。
「あー! それならいいね!」
「人の宝物はクゥ以外盗っちゃダメだよ!
クゥは後で返してるからね!」
「上手くなったら、ここで宝探しごっこしようねー!」
子ども達の反応が真っ直ぐで、とても可愛い。
素直で元気で温かい、学ぶ所ばかりだな、と見つめてしまう。
「マト、顔。めちゃくちゃおじさんっぽいぞ。
あだ名がジジイになっちまうぞ、その顔してると」
「えー……そんなコトないよー」
「うん、そっちのがオレは好きだわ」
照れくさい。
なんというか、やっぱりキラキラした笑顔で覗き込まれると照れくさいのだ。
「それじゃ、飯にしちまおうぜ。
お前さんをここに連れてきた時から、ピートが飯作ってくれてよ。
オレの何倍も上手いってチビ達が言うんだ」
「へぇ……じゃあ、今度クゥのも食べさせてね」
……ん?
あれ? クゥ?
目を逸らしたぞ……?
「良いから食え食え!」
何かを誤魔化すように、ボクを抱き上げると椅子へと座らせる。
子どもたちが多い場所、椅子の高さも丁度いい。
目の前に並んでいるのは――。
サラダと、蒸した鶏肉っぽい何か。
ポタージュっぽいスープもある。
後……白米だ――。
スプーンとフォーク、ナイフに――箸もある。
「クゥ、ご飯ある」
そう表現するしかなかった。
ファンタジー飯……質素なパン食を想像していた。
どうにも、元居た場所の食事に近い。
「おう、あるぞ! 凄いよな、水で育てる植物だぜ。
昔、どこかの世界から来た女の子が広めたらしい。
作ったやつにも、伝えたやつにも感謝して食えよ!」
これ、ボクの世界から来た人が伝えたやつだ……。
異世界でも和食が食べたいので米から作ることにしました。
『農業知識で二毛作、チート収穫で食卓を豊かにします』……みたいな……。
この食べ物が伝わっているなら、普段通りの感謝が一番だと思った。
きっと、その女の子はこう言ったはずだ。
「分かった! それじゃ、いただきます!」
「おー、よく知ってるじゃねえか! オレもいただきますだ!」
早速、異世界初めての食事に箸を伸ばす。
白米。
間違いなく白米。
甘みが強く、一粒一粒を感じるタイプ……。
これは、美味い。
「もしょもしょしていますねェ!!!」
危うく吹き出す所だった。
テンションがブチ上がってしまったマーさんが、真剣にこちらを見つめている。
「うっせえよジジイ! 静かに食わしてやれ!
……にしてもマト、箸使えんのか。すげえな」
「ん、ずっとコレだったから!
ナイフとフォークのが難しいかも……」
スープがある。
作法が怖い!
入っている容器がお椀っぽい。
手に持つか、そのまま掬うか、どっちだ、これ――。
「ん、どうした? これも美味えぞ。
ピートが何かの魔法で調理してるっぽいけど、すげースープだぞ!」
飲んで!
クゥ早く飲んで!
手に持って箸でいいのか、スプーンで掬うのか、見せて欲しい!
「なんだよ、初めて見たのか~?
ほら、飲んで見ろって!」
違う、そうじゃないよ……。
クゥがスプーンで掬い、口元まで持ってきた。
あーん、と言われそうな位置。
折角だし……。
「ん」
そのまま咥える。
甘い。そして滑らかだ。
明らかにトウモロコシのポタージュ。
インスタントなんて比にならないくらいの、幸福な味。
「おいし……」
「だろ! だから安心して飲めよな!」
その言葉と共にクゥがお椀を持ち上げ、スープを掻き込むように飲んでいる。
作法とか気にするほうが間違っていた気分だ。
同じようにお椀を持ち上げ、口をつける勇気はなかったのでスプーンで掬う。
とろける舌触り。
ピート飯はめちゃくちゃ美味い、そう一発で理解させる逸品。
部屋の隅で、じっとこちらを見ているピートに気づいた。
きっと子ども達なら声に出す。
だから、ボクも大きな声で伝える。
「ピート! 美味しい!」
笑顔で手を振っておく。
オシャレなお辞儀が返ってきた。
仮にも商人の右腕だと再認識させられる。
下っ端顔の彼でも、素敵に見えてしまうほどの所作だ。
「そう言えば、アードのおっさんは居ないの?」
「あのおっさん、めちゃくちゃ忙しそうに走り回ってるからな。今朝も出掛けちまったよ」
「そっかー」
「オレが居るから寂しがるなよな。
おっさん、一日に何度もお前の様子見に戻ってくるんだよ」
「心配かけちゃったね、おっさんにもクゥにも」
「盗まれそうだったからオレも横に居たし、心配はしてねえ」
「心配、そこなんだ……」
その時、食堂の扉が大きな音を立てて開く。
噂をすればなんとやら、だ。
「……おい、クゥさんよ! この辺に仕入れができる薬屋はねぇか?」
額に汗を浮かべ、焦った様子のアードが駆け込んでくる。
「大慌てじゃねえか、どうしたんだよ?」
「例の畑だが、やっぱり雑草じゃねえ。ちゃんとやらねえと、街中に広がるぞ」
雑草……?
話すアードと目が合った。
「おおお! マト起きたか!
良かったぜ……ずっとクゥが付き添ってんから、何かやべえのかと思ったがよ。
すまねえな、バタバタしてて」
あっ、なるほどね……。
謝るアードに、そんな事ないよ、と首を左右に振っておく。
「んでよ、例の畑、今朝はどうなんだ?」
「刈り取った場所全て、芽が出始めた。本体は全然元気だ」
「……やっぱり刈ってもダメか」
「ああよ。そも、畑に魔法薬をぶち撒いて絶やすわけにもいかねえだろ?
土を痛めねぇ良い薬の持ち合わせがねえんだ。
早い方がいい……王都へ仕入れに行く手間は避けてえ」
「……キィヒヒ……お話聞こえましたよォ!
クゥさん? なぜ最初に私に相談しなかったのですかァ?」
気配を消して忍び寄ったのだろう、突然真横で声がする。
「ジジイいつの間に……! いや、そうか。お前が居るじゃねえか!
面倒臭ぇから記憶から消してたわ……」
「おい、クゥさんよ。何だこのヤベえ魔法使いっぽいジジイは……」
「ジジイとは失礼ですねェ、私はマヌ」
「マーさんだよ。薬屋さんで、魔法とかできるみたい」
完璧なタイミングで名乗りに割り込む。
アードが急いでいるのだ、ここで寿限無させるわけにはいかない。
「胡散臭え!」
アードの一声。わかる。
「キヒヒ、失礼ですねェ!
聞くにそれは畑盗種と思わしき雑草!
キヒヒィ……根絶やしにせねばなりませんぞ!
対処法は――」




