6-14「輝石瓶はどうだ?」
ボクたちはイスミルの招待を受ける事になった。
船の周りは部下だろうか? 若者たちに任せ、港を歩く。
彼の家は近かった。
そもそも……港にある大きな建物が彼の家だったのだ。
この立地、感謝されるのも分かる。
ガダルが食い止めなければ、砂鰐が突き刺さっていたであろう場所だからだ。
「ウチくらいあるじゃねえか……デカい家だな……」
「確かに……」
確かに大きさはクゥの孤児院、今やボクら全員の家と変わらないくらい。
しかし、細かな彫刻が彫り込まれまるで美術品のような佇まいだ。
「凄い綺麗……! 宝物みたい」
「おっと、家は盗まないでくれよ、2人とも」
「家はダメか。ならあの石なら持って帰って……!?
痛ッてぇ!!」
「良いワケがねえだろ! 流石に失礼だって思いやがれ、クゥさんよ!」
はぁ、という深い深いため息と共にクゥがアードに小突かれていた……。
「でも、このくらいの岩の彫刻ならあっしが運べま……痛えッ」
「お前さんもか! ピートよぉ、帰ったらたっぷり説教だからな」
2人目。
頭を抱えてしゃがみ込んだ……。
「はっはっは! 豪快だな! 流石、詩人が語る登場人物達だ!
それでは招待させて頂こう、此処が我が家だ!」
扉が開く。
中は特に派手だとか、黄金色だとか、石像や柱が立ち並んでるとか、はたまたボクの世界の建築だ、なんて事はなく。
石造りに鮮やかな絨毯が敷かれた、お金持ちだけどやりすぎていない……居心地の良さそうな空間だった。
しかし、どうにも我慢出来ない。
インテリアが気になってしまった。
「欲【宝の在り処】……」
小声で呟いて。
目を閉じて、そっと開く。
「……!? ったく、マトさんもかよ……。後で説教だな、こいつはよ」
後ろでアードのため息が聞こえる……。
改めて部屋を見回せば、至る所に美術館にあるようなガラスの壺や瓶が飾られている。
視界に現れた光の粒子は煌めきながら舞い、それらの工芸品を宝だと示す。
輝きも強い。
これは価値ある物だ。
「マト。君はシャハディアは初めてだったな?」
ボクの目線の動きに反応したのだろうか?
イスミルが顔を覗いてきた。
「う、うん」
「輝石瓶はどうだ?」
「ん? ハルナス……グラス……?」
「なるほど、知らないのに……か。 素晴らしいな、マト!
流石大盗賊の相棒と言った所だ。
この場で一番価値のある物から順番に視線を送っていた。
目の付け所、というヤツかな」
「う、うん? うん! お宝だと見抜いた、よ!」
慌てて、えへん、と偉そうな顔を作る。
両手に抱えたぷにぷにの『輝石袋』がだんだん重くなってきて、えへんの姿勢が取れない……。
「どうだ、これがオレの相棒の目だ!」
かわりにクゥがえへんしてくれている。
「故にその『輝石袋』を完璧な状態で砂鰐から奪い取った、ということか……!
砂海の生き物は必ずこの『輝石袋』を身体に持っているが、傷つけず取り出すのは極めて難しいのだ」
「これ……?」
うんしょ、と掲げて見せる。
重くなってきた。
ちょっと腕がプルプルする。
「マトには、ちぃと重かったな。とはいえ、オレも片手埋まっちまってるしなぁ」
「盗賊は宝に触れられることを嫌うというが、大丈夫なら俺が預かろう。
必ず返すので安心してくれ」
「う、うん! イスミルさんなら大丈夫! 持ってほしい!」
「分かった、しっかり預かろ……ん!? なんだこの重さは――確かにこれは重い。
素晴らしいものだ……! クゥ、君の持つ『輝石袋』も触らせてくれないか?」
「おうよ、全然構わねえぜ。価値もイマイチ分かってねえ。
これがどんなモノかも教えてくれよ」
イスミルがクゥの持つ『輝石袋』に手を触れる。
むむ、と寄っていた眉間のシワがぐっと深くなり……弾けるような笑顔へと変わる。
「素晴らしい弾力と温度、そして傷一つ無い滑らかな表皮。
なるほど、クゥ……素晴らしい仕事だ。まさに大盗賊だ……!!
簡単に話そう。
職人が『輝石袋』を使い作り出すものが、シャハディアの美術品であり魔装『輝石瓶』だ」
「魔装……だって?」
「ああ、そうだ! マトが舐めるように見ていた、このコレクション!
これらは全て魔装『輝石瓶』!
何も入れなければ、中には水が満ちてくる。
湧き水の如く冷たく、汚染などもない。
中に液体を入れれば水は湧かず、液体の温度だけを湧き水のように冷やす。
中の液体は蒸発せず、腐らなくなる。
我々の生活に欠かせぬ道具なのだ、遥か昔より」
無限ウォーターサーバーで、冷蔵庫でもある……そんな認識で聞いていた。
クゥは今ひとつ分かっていない顔。
アードとマヌダールは頷いている。
この2人は知っていた……!
ピートは何も分かってない顔だけど、しっかりアードの横で付き人をしている。
ガダルも同じく。この2人の礼節は確かだ。
「袋に傷がつくと、良い『輝石瓶』には成り得ない。
この袋を取り出すのが一番難しい解体なのだが、クゥとマトが完璧に熟してしまった、というわけだ」
「わっ……」
「にしし、オレも中々だろ!」
「ああ、違いない!
どうだろうか、この2つの袋……俺に預けてくれないか?
職人達にグラスへと仕上げさせよう。
礼……になるかは分からないのだが」
「えっと」
「あー」
どうしようか? とアードに尋ねる顔。
商人の鑑定眼に頼る顔。
「お前さん達はどうして、このタイミングで俺の顔を見やがるんだ……。
しかも、くしゃくしゃだぞ!
ご招待頂いた家の中でくしゃくしゃの顔をしやがって!
そこはまず『ありがとうございます』だろうがよォ
すまねぇ、イスミルさん……ウチの若いのがこの調子で。
礼だなんてとんでもねぇ、ただ……その魔装、作って頂けるなら是非お願いさせて欲しい。
なんつっても、この2人が喜ぶんでな!」
「ああ、分かった! それなら任せておいてくれ!
さて……立ち話よりも、食事は如何かな?」
「えっと」
「あー」
「またかお前さん達! いただきます、で良いんだよ!」
「わかった! いただきます!」
「ああ、頼むぜ、イスミル! 飯、実はすげえ楽しみにしてた!」
「では、こちらだ!」
イスミルの案内に皆で着いていく。
建物は孤児院と同じくらい。
奥には食堂があるが、広い。
テーブルも多く、レストランバーのよう。
「ひろい!」
「ああ、広いだろう! 俺達はデカい漁のあと、騒ぐ場所が必要なんだ。
昔は港でやってたんだが、大分昔に砂鰐の襲撃で崩れてな。
今は俺の家でやることになった、というワケだ!
さあさあ、適当に座ってくれ!
おっと、テーブルは1つで頼む! この後、仲間たちが集まってくるからな!」
「わかった!」
「もちろん、君達が倒した砂鰐も運ばせているぞ。
鰐は貴重な肉で、いい値で買い取らせ――」
「イスミルにやるぜ」
「うん! あげる!」
「そうだな。イスミルさんよ、肉は全部とっとけ。
俺らはグラス2つで充分だ」
「違いないですぜ、そんなに皆さんが集まるなら、肉は多い方が良い!
調理の手が必要なら手伝いますぜ!」
「ええ、ぜひ皆さんで召し上がってくださいねェ!」
「ああ! イスミル殿達で美味しく食べて頂けるのが一番だ!」
「……なんということだ、まさか、そんな……。
しかし、砂鰐肉は高額なもので――」
「じゃあ! 一緒に食べさせてよ! ボク、シャハディアのご飯を知りたい!」
「そうだな!」
ボクらの意見は一致。
満面の笑みでイスミルを見る。
「ならば、ありがたく頂こう!」
漁師は豪快に笑った。
ピートが、料理を覚えたいと手伝いを申し出て厨房に案内されていく。
その隙を見て、アードが魔装にて携帯倉庫を開き、ガダルが中から樽を数個取り出す。
マガロ用の酒樽……ここの食事に合うかは未知数だが、所謂エール。
高級酒ではないが、振る舞うにはちょうどよいものだろう。
「船員達が来る前に、俺達も出せるもの並べてくぞ!
ここは仲良くなるべきだ、お前さん達!
あの瓶は『輝石瓶』――。
俺達が知った青の竜の名もハルナス。関係ないわけがない。
お忍びの情報収集は失敗したが、俺達らしくなかったな!
宴会で! 情報収集……ばっちりやるぞ!」
「おうよ、それのがオレも楽しいぜ! なあ、マト!」
「う、うん! 皆と美味しいご飯食べてお話は大好き!」
「食こそ、心を豊かにするもの! 最高の判断だ!」
程なくして、漁師たちが雪崩込んでくる。
大騒ぎ、大盛りあがり。
最初から酔っ払ってるんじゃないか? というくらいのテンション。
食堂に入れば、皆が一斉に駆け寄ってきて。
褒められたり撫でられたり、ハイタッチしたり歌ったり。
砂鰐を仕留めるのは凄えぞやら、ここを守ってくれて助かったなどと。
各々が席につく頃、厨房からは良い香りが漂い始めた。
もう少し掛かりそうだが、何とも言えない高揚感。
行商、戦い……2つの仕事の後だ、お腹も鳴る。
けれど、そう上手く話が進まないのが『悪運』と『呪われた』2人なのである。
騒がしい中でも聞こえるほどの、1人の男の大声が響く。
「聞いてくれ!! 今、傷だらけの男と、神官が港に流れ着いた……!
2人とも意識がねぇ! 動かして良いのかも分からねえ!
誰か助けてくれねえか!」




