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6-10「マトを抱っこして後ろに向けとけ」

「おうよ……」


 観光じゃないことなんて、全員分かっている。

 気を引き締めて、遺跡の情報収集だ、とは思っているのだけれど。


 いかんせん、頑張りすぎた。

 商人のフリをするつもりが、しっかりと商人をしてしまった。

 疲れた顔で皆が歩き出す。


 そういえば、何かアードが見せたい場所があった……気がする。


「アードのおっさん、おすすめの場所ってどこなの?」


「この大通りを真っ直ぐで間違いねぇ筈だ。

 お前さんが驚く顔が楽しみだ、マトさんよ」


 笑顔が苦笑いみたい。

 遅かったじゃねえか、やっと……来てくれたのか……なんてそのまま倒れそうな、やりきった笑顔だ。


「驚く準備しとく!

 ……おっさん、疲れてる?」


「バッチリ疲れてるぜ!」


 ガハハ、と笑って親指を立てるアード。

 髭を指で弄りながら、ボクの顔を覗き込んで言葉を続ける。


「マトさんもよぉ、半分くらいくしゃくしゃに足突っ込んでるがな?

 もう一度、あの『らっしゃっせー』の顔してくれよ、ほら」


「えっ」


「ほれ。皆を見てみろ、楽しみにしてる。

 マトさんの両手(あんよ)で顔モチモチと同じくらい元気が出そうだろ?」


「い、いらっしゃっせー!」


 一番の笑顔で皆に頭を下げる。


 ぱああ、と空気が明るくなった。

 皆の背筋がシュッと伸びる。

 何かの補助魔法なの? 皆に元気が満ちていく……の……?


「これだよ、これ。

 やっぱクゥさんよ、マトさん貸してくれねえか」


「ったく仕方ねえな、おっさん。時々だぞ?」


「日雇いなら俺の(ギヴン)の影響も受けねえだろ!」


(ギヴン)の抜け道……!」


 話しながら、大通りを進めば大きな噴水に出る。

 辺り一面が砂や岩造りの建物なので、この水はとても目立つ。


「あれはよ、魔装とかで動かしてる訳じゃねえらしい。

 昔から此処で噴き上がった湧水らしいぜ」


「おっさん詳しいな、流石だぜ。

 砂漠なのに凄いな……いや、こんなに水があるのに何で砂漠なんだ?」


「キーヒッヒッ、そこは私がお話ししましょう!

 ミアレ王国で伝わる歴史では、これを『命の水』と呼びルピル神が人に与えたもの、と教えていますよォ」


「ふーん」


 クゥの興味が薄いのが良くわかる。

 尋ねた手前、聞いとくか……みたいな雰囲気。


「ですがァ!」


「!」


 クゥの顔が一気に明るくなった。

 こういう切り返しに弱いの!?


「歴史では、水を盗む竜を封じ、僅かながら残った『命の水』で人々は国を再建しリザルとなった、と言われていますねェ。

 砂漠になった原因は、竜のせいとされています。

 なんだか変じゃないですかね?

 マガロさん曰く、この地に居るのはハルナスという青色を司る竜ですよォ?」


「……なるほど、私にも分かって来た。

 シハの街の地下にマガロ殿が捕えられていた。

 つまり砂漠の下にハルナス殿が捕まっている可能性がある、と?」


「はぁい、ガダルさん、ご明察ですゥ!……この水は……」


 マヌダールが周囲を警戒し声を絞る。

 彼を囲むように皆の隊列が変わった。


「青の竜ハルナスさんの力を制御しているか、ハルナスさんが与えた力と想定できますよォ。

 リザル王国が作られる前、この辺りは湿地帯だったとマガロさんから聞いていますゥ。

 ハルナスさんが、ジメジメしていて面倒臭いやつだ、とも。

 砂漠を作るタイプの(ドラゴン)さんでは無さそうですよォ」


 クゥの顔がさらにワクワクに満ちる。

 盗賊の興奮なのか、ボクもワクワクが溢れてくる。


「つまり、そのハルナスも盗んで帰るって作戦か!」


「しっ……声が大きいですよ、クゥさん。

 泥棒は黙って、静かに、上手にやるものでしょう?」


「お、おうよ!

 つい興奮して盛り上がっちまった、すまねえ」


「なら宝物の一つだね!

 マガロの友達、もしかしたら寂しかったり苦しんでるかもしれない青の竜さんもかっぱらう!」


「良い意気込みですよォ、マトくん。

 だから、青の竜の話はしっかり調べましょう。

 王国での歴史、この町での言い伝え、他の砂漠の街での伝承……嘘であれ真であれ、全部が大事な情報ですよォ。


「……本当にヤベェ歴史の話に触れてる気がしますぜ!

 気にはなりやすが、真実を知るのはちいと怖いですぜ」


「ええ、ピートさん。

 どんな採掘者や学者より、歴史の深淵に踏み込んでいるのが我々ですよォ!

 水の秘密も、いずれ解けるかと……!」


「ったくよぉ、お前さん達、俺のとっておきよりも面白そうな話しやがって……。

 マトさんが『おーッ』って言わなくなっちまうかもしれないだろ」


「大丈夫だよぉ、アードのおっさん!

 教えてくれることぜんぶ、キラキラして楽しみだよ!

 (デザイア)使ってなくても!」


「照れくせえから!

 あーもう、ンなら期待してやがれ!

 とっておきだぞ、とっておき!」


 キラキラと輝く噴水の水を背に、ボクらは大通りを歩き続ける。

 遠くに、何か白くて大きな物が見えてきた。


「おい、クゥさんよ。マトを抱っこして後ろに向けとけ。

 もう見えちまうからな」


「ん……! おお! そりゃあいいな!

 マト~ほらこっちだ~!」


 視点が一気に下がって真っ暗に。

 クゥの肩に居たはずなのに……抱かれている感覚。


「えっ? うわ、ぅっぷ! 見えない~!」


「んじゃ、お前さん達! あそこまで走るぞ!」


「は!? おっさんどうした? なんだそのテンション!

 一番疲れ切ってただろ!? 俺だけ転移して戻って良いか? って聞いてたじゃねえか!」


「大将!? 走る!? 何か面白え奴隷でもいやしたか!」


「ほほう、アード殿!

 走れば先程の疲れも取れそうだな! 参るぞ――『加速(ラピッド)』!!」


「キヒィ~!? なぜ? 今走る必要があるのですかァ!?

 マトくんも抱っこで見えない状態、サプライズは整ってますよォ!?

 キャアさん、飛ぶ準備を――ォアーーーッ!

 今日はキャアさんハウスでしたァ!!」」


「ガハハ! 俺は一刻も早く見せてえんだ!

 俺が好きな景色なんだよ!」


「おっさんがそう言うなら、すげえんだろ!

 良いぜ、付き合ってやる! 『加速(ラピッド)』!!」


 身体に伝わってくる風が変わった。

 っていうかガダルとクゥ、今特技(スキル)使ったよね?


「!? んわーッ!! 速!!」


「オレが最初に到着して、一番にマトに見せてやるからな!」


「フハハ、私も久しぶりの競争――負けはせぬぞ!」


 何をしてるの? この人たち、初めての街で何をしてるの!?


「馬鹿野郎!! 技使うのは反則だろ!!

 俺は、いっぱいいっぱいなんだよ!」


「大将遅れてますぜ!」


「うるせぇ! お前も遅えじゃねえか!」


「それよりマヌダールさんがヨレヨレですぜ!


「クゥさんよ、ガダルさんよ!

 俺らが着くまでマトさんに見せんなよ!」


 遠くから声が聞こえる。


「だそうだ。んじゃ――行こうぜ、ガダル!

 お前と走れて楽しくなってきた!」


「望む所だ、クゥ殿! 私から盗んだ『ラピッド(加速)』の力、見せてもらおう!」


「……うわーッ!!」


 程なくして、クゥの動きが止まった。


「着いた、な……! 今回はオレの勝ちだな!

 それより、これか……!!! これはすげえよ――!」


「クッ……足では勝てぬか!

 ……ああ、クゥ殿。これは、アード殿も見せたがる訳だ。

 マト殿、もう少し我慢していろ。皆が来た時に、見ると良い……!」


「う、うん……」


 仕方ないので、クゥに抱かれたまま物思い。

 どんな景色なのだろう。砂漠だし、やっぱりピラミッドみたいなものなのかな……?

 スフィンクスみたいなものかも……?


「はぁッ……はぁ……! お前さん達、速すぎんだよ!

 加減とかそういうのが分からねえのか!

 ……と、とりあえずコレが見せたかったんだよ!」


 アードの声だ。


「マヌさん、しっかりしてくだせぇ! 到着ですぜ!

 マヌさん!」


「……キヒ……。

 もうだめかもしれませんよォ……ああ、凄い、こんな景色、本でしか……。

 船が――」


「馬鹿野郎! ネタをバラすんじゃねえ!」


 船……?


「よぉし、クゥさんよ! マトさんを高く掲げてやれ!」


「おうよ! マト! すげえぞ!」


 眩しい。

 抱かれて真っ暗だった景色が光に溢れて、一瞬真っ白で見えなくなる。

 目が慣れ、眼前に広がるのは――。


 何隻もの船。


 砂漠の上を走る船――その白い帆がキラキラと陽光を反射して。

 帆だけじゃない。なんだろう、あのガラスの玉のようなもの――。

 船の上に、虹色に輝く玉が沢山ある。


 砂の中へ船から何本もロープが繋がっている。

 漁だろうか……何を捕まえているんだろう?


「おぉーー!」


 声が漏れる。


「よしッ……!!」


 アードの嬉しそうな声が耳に飛び込んで来る。


「すごい、すごいよ……!! 船が! 船が砂の上を走ってる……!!

 光る玉みたいなのも綺麗! 絵みたいだ……!! おぉーー!!」


 水平線でいいのだろうか……砂の果て、砂漠の果てまで見える。

 波のように動く砂が白波のようで美しい。


「これが見せたかったんだ、マトさんよ。

 シャハディアの砂海船団……俺が知っている世界の中で、一番派手な場所だぜ」


「すごい――」


 語彙が足りず、すごい、きれい……この2つに収束する、絵画のような風景。


「ああ、凄いな――」


 クゥの声に、頷く。

 皆と見たこの景色は、目と心の奥に色濃く焼き付いた。


 その時。

 遠くで爆音が響く。

 船から、何かが射出された――?

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