表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/129

6-9「忘れてたぜ、完全によ。マトさんはよォ……」

 観光。

 実は、この世界に来てちゃんと街の中を歩くのは初めてだ。


 ずっと大騒ぎだったし、アルクバーグの中は追いかけっこで走ったくらい。

 だから、何だか緊張してしまう。

 部屋に戻って支度……と思ったのだけれど。


「んにゃ、それで良いなら今行けるぜ。

 道具もあるし、いつでもな!

 マトもだよな?」


「えっ! な、何支度したら良いんだろう!

 け、携帯食料?

 傷薬とか、あと砂漠?

 砂漠だから暑くならなくなるポーションとか?

 あと……」


「マト、どれも要らねえよ……。

 アードのおっさんが言ってたろ、観光気分で良いって。

 気軽に遊ぶくらいの感覚で良いんだよ」


「おいクゥさんよ。

 遊ぶ感覚で、その腰のポーチは何入れてやがる?」


 アードが指差すのは、七つ道具の入っているポーチ。

 言わば泥棒セットだ。


「七つ道具。で、これが8つ道具めのマト」


「……絶対やるんじゃねえぞ。

 見つからなくても、だ。

 今はリザルの事を知り、遺跡の情報を得るのが目的だからな?」


「おうよ、分かった」


「うん、分かったよ! でも、街の金貨とかは大丈夫なの?」


「ああ、昨夜のうちに全員が持って帰った。

 オルド町長が『街で使わねえで、外で使ってこい』って言い聞かせてたから、問題はねえぞ、マトさんよ」


「わかった!」


「キヒヒィ! それでは一度、部屋に戻って確認して庭に集合しましょうねェ!」


『おうよ!』


 皆で拳を突き上げてから解散。

 全員、軽装で庭に再集合した。


「みなさん! 準備は良いですかぁ!

 キーヒッヒッ、このマヌダールが集めた秘技の数々ご覧に入れましょう!

 (デザイア)司書なき図書館(ライブラリーアウト)】!」


 マヌダールが魔本を代償にゲートを生み出す。

 光の粒が門と変わり道を繋ぐ。

 帰る、と念じれば移動地点へと戻れる転移らしい。

 景色が一瞬で変わり、転移が終わる。


 ボクらはシャハディアへと踏み出した。


 当たり前すぎて、ボクら全員『忘れていた問題』に気づかないまま。


「わ、わああ!すごい! すごいよ……!!」


 そこに広がるのは、砂の街。

 さらさらとした白い砂地に、美しい白い岩で作られた家が並ぶ。

 空は雲一つない真っ青。


 出店も多い。

 素晴らしい絨毯の上に並ぶ食物や道具、いわゆるバザールのような景色。


 奥には噴水だろうか、水場も見える。

 この命の水を起点に広がった街がシャハディアなのだろう。


「おう、オレもびっくりしたぜ……。

 砂漠の街は初めて来たんだ」


「おうおう、お前さん達のその顔いいねェ。

 俺も初めて来た時、開いた口が塞がらなかったが……もっとすげえものがある。

 行くぜ」


「大将も驚くくらいのものですぜ! あっしもそれはそれは驚きやした!」


「……キーヒッヒッ、文字で読む、絵で見る、知っているつもりでは居ましたが……。

 本物はその何倍も素晴らしい、と言う事ですかねェ!

 美しい街ですよォ!」


「マヌダール殿、声が大きいのだ。目立ってしまうぞ。

 私も吠えそうになったのを抑えている。

 砂漠の国、これほどに美しいとは」


「目立ってしまう……?

 うん……? 目立つと良くないの?」


「当たり前だろ、静かに情報を集めに来たんだぜオレたち……ヴッ」


『ヴッ……』


「みんな、何その声……?

 クゥ、顔くしゃくしゃだよ?

 どうしたの?」


「マトォ……。

 もう目立ってるよォ……。

 めちゃくちゃ見られてるよォ……」


「忘れてたぜ、完全によ。マトさんはよォ……」


「キヒヒ……! そうでしたよォ、マトくん。

 先生も失念していましたァ」


「……マト殿に布でも被せた方が良いのではないだろうか?

 こう、シーツに穴を開けて」


「……みなさん、どうしたんで? マトさん……?

 ああ、トガですぜ……」


 そこでやっと、ボクも気づいた。

 そう、だった。

 皆が優しくて、当たり前に接してくれて、問題も起こらなかった。

 けれど……『呪われた宝物』なのだ。

 ボクは、この世界で貴重とされている『遺跡へと誘う地図』……トガだ……。


「ボクさぁ、呪われてたよ……」


「おうよ、オレも忘れてた。どうするんだコレ……。

 めちゃくちゃ見られてるし……。

 うわ、人が来たぞ!」


 慌ててクゥの身体を登って、背中に張り付く。

 顔だけ出して覗きながら。


「な、なぁ! あの、お前達、と、トガを持ってるのか!?

 見せてくれ! そんな貴重な――!」


 走り寄ってきた男が大きな声を上げる。

 その言葉に町の人々が次々と反応する。


「トガだって? それじゃあ、王墓に何かあるってことか!?

 どこでそんな姿に変えられたんだ? 罠のある部屋はどこなんだ?」


「罪人でしょ、あんなの。何の価値があるっていうのよ!

 ……でも遺跡を知ってるんだっけ。

 教えなさいよ、罰当たりの墓荒らし!」


 取り囲まれるまで、あっという間。

 クゥは即座にボクを抱きあげ、守る姿勢。


 その時だ。


「キーヒッヒッヒ、お集まり頂きありがとうございますゥ!

 こちらの桃色うさぎ、こちらはこの私が染めたもの! 当店の看板……!

 探し物が見つかる魔法薬店の看板うさぎですよォ!

 あなたの『お宝』が見つかりますよォ!」


 胡散臭い語り口と声色、目深に被ったフードに光る眼鏡。

 マヌダールがいかにも、な設定を声高らかに語りだす。


「今日は大将もおいでです、欲しい品物が他にもあるかもしれません!

 ご興味、ご興味ありませんかァ!?

 トガを見た、トガを見たとお伝えください! お値引き致しましょう!」


 マヌダールの言葉と対応に乗っかるしかない。

 ボクだって、かつてはサービス業……やろうとして出来ないことは無いはずだ。


「らっしゃっせー!

 トガじゃないけど、トガくらい宝物ご案内できますっ!

 だけど大変、前の街でいろいろな品物が売れてしまって……!

 こちらの、傷を癒やすポーションなら、すぐにお渡しできますよっ」


 クゥの抱っこから滑り出て、頭の上に移動して声をあげる。

 ワザとらしく手を広げたり、大振りな動き。

 偽物感を出す!


「……ンだよ、偽物かよ!」


「やっぱりねー! でも良く出来てるねー、綺麗に染めてる!」


「こんな街歩いてる訳ないか! 面白えから薬は買ってやんよ!」


 マヌダールの機転は完璧だった。

 ブツブツ文句を言いながら去っていく人、興味で見に来る人。

 商人の一団だと理解して買い物に来る人。


「うさちゃん以外、胡散臭くて怖いのも上手ね。

 やるじゃない、おじさん達。顔が怖いのも良い演出!」


 盗賊、奴隷商人、奴隷商人見習い、インチキ魔法使い、脱税領主に桃色のトガ。

 たしかに、この顔ぶれは……。


 持ち込んでいたマヌさんのポーションは全て完売になった。

 それでも人の列は絶えない。

 アードが魔装で収納空間を開き、倉庫にあるポーションも売る。


 数時間、商人として皆で働いてしまった。

 ようやく人が居なくなったので、移動。

 日陰のある石造りの階段に皆で「よっこらしょ……」と腰を下ろす。


『つかれた!』


 全員の声が重なる。

 なぜ、観光という名の調査に来たのに行商しているのだろう。

 半端なく忙しかった……。


 全員がゲンナリとした顔で俯いて動かない。


 ボクもマスコットのトガ風うさぎ、を演じきった疲れが溢れてきている。

 けれど、今こそ力を振り絞るタイミングなんだ……!


「……おつかれさま、クゥ。

 助けてくれてありがと。最初に抱っこしてくれて安心した」


 両手(あんよ)でクゥの顔をもちもちする。

 いっぱいいっぱいもちもちする。


「別にそんな大したことしてねぇって。それに呪いじゃぁしょうがねぇ!」


「悪運ってことにしよう」


「オレのせいか~? んじゃ、呪われたから悪運ってことで」


 つん、と指先で眉間を突かれた。

 続けてお互い笑顔でハイタッチ。


 そのまま、アードの前に走る。

 かつて何回か見た、頑張りすぎた運動会のお父さんだ。


「アードのおっさんもありがと! ほんとの商人だった!

 凄いね、完璧な接客! かっこいい!」


 肩に飛び乗り、両手(あんよ)で肩を揉む。


「……マトさんよ、悪ィな、助かる。

 あんま褒めるんじゃねえよ、俺も照れるんだよ」


 続いてピートの手を両手(あんよ)で包んで、ぶんぶん振りながら。


「ピートもありがと!!

 品出しの手際、素早くてびっくりだよ。見習いなんて嘘みたい」


「そんな褒められても、照れるだけですぜ……。

 嬉しいですぜ」


 ハイタッチの後、ガダルの肩へと駆け登る。


「ガダル〜!領主様の対応で、女性がめちゃくちゃ買ってたじゃん!

 人気の領主様、ホントだったんだ!」


 もしゃしゃ、と頭を撫でくりまわす。

 おっきなワンちゃんだ。


「――」


 尻尾振るんだぁ……。


 そして、ゆっくりと疲労困憊で燃え尽きているマヌダールの前に。


「マーさん。

 本当にありがとう。

 一時はどうなるかと思ったけど、マーさんのおかげで助かった!

 ありがとね、お疲れ様!

 でね! 観光したいし……疲れてて悪いけど街の事、教えてくれる?」


 優しくその手を両手(あんよ)で取って、顔を覗き込む。


「マトくん……。

 いえいえ、大したことはしていませんよ。

 ……元気が出ました。

 それじゃ皆さん、観光に行こうじゃありませんかァ!

 今ならお金を使っても、稼いだ商人にしか見えませんよォ!」


「確かに……!

 行こうぜ、みんな!

 改めて街を見に、な!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ