6-5「みんなとの時間も、出来事も、全部キラキラにするから!」
その頃――。
ここは大砂漠の遥か南。
湖の幻影の下、隠された遺跡――真なるリザル王墓。
中の空気は薄く、冷たく。
吸い込む一口の息は、まさに命の一息。
壁は四角い長方形の石を積んで作られている。
道は複雑だ。
進むと何故か入口に戻される場所。
ガーディアンほどでは無いが、無数のアンデッドが襲いかかってくる場所。
財宝部屋だと思って手を伸ばせば、宝石は羽虫に変わり人の肉を喰らおうと襲いかかってくる。
そんな探索を繰り返し、ようやく辿り着いたこの遺跡にしては広い場所。
3人の冒険者が、壁によりかかっている。
喉を枯らし、叫び続ける杖を持つ女。
諦めるな、と声をあげながら、膝をついて剣を構える男。
深手を負い、意識のないルピル神官服の女。
「まだ……なの!?」
「カーナ、待つんだ。ボクらは耐えることしか出来ない。
必ず、必ず戻って来る」
「もう何時間も経ってるのよ!? 逃げたのよ! 逃げたのに違いないわ!」
「カーナ……! ボクだって不安なんだ! 大丈夫だ、絶対に……!
それに、ガーディアンだって戻ってこない。
きっと上手くやったはずだ……!」
「でも! でもよ、アイツ……アイツ、シーフなんでしょ!?
泥棒よ? 逃げたのかもしれない、胡散臭かったもの!」
「……カーナ……!」
「……」
魔術師風の服装のカーナと呼ばれた女は、崩れ落ちるように座り込む。
シアン――剣士か、騎士か。盾を背負う剣使いの男も黙ってその場にしゃがみ込んだ。
神官の女性の処置は終わっている。
危険な状態には違いないが、今何かをしたから特別に助かる、という訳でもなさそうだ。
「くそ、斥候無しでこれ"以上"は無理なのか?」
シアンが扉を握った拳で叩く。
その時――部屋の中央に現れる、電撃のような球体。
ギュリギュリという耳障りな音を響かせながら、ゆっくりと落ちる。
床に触れた瞬間、激しい閃光と共に爆発。
煙が晴れれば、中から1人の斥候風の男が飛び出してくる。
「……仲間を助け……! 仲間を、どうし――仲間……?」
どさり、と前のめりに男は倒れた。
うわ言のように「仲間」と繰り返しながら。
「リュート……!! リュートじゃない!!!
戻ってきたのね!? ガーディアンは? 助けは呼べたの!?
ねえ!」
カーナが絶叫する。
現れた男は彼女が探していた仲間、斥候のリュート。
彼は甲高い声で叫ぶ女を見つめ、顔を顰めて言う。
「うるせえな……! ……お前、誰だ……?
助け……? 何を言ってんだ……!?」
「リュート? どうしたのよ……!!?
まさかアンタ、記憶が……」
「記憶……?
記憶だと……リュート……? 分からない!
黄金郷に居たんだ。
オレは黄金郷で――。
何も、何もわからない!!!」
リュートの絶叫が、地下遺跡に木霊する。
「……チッ。
この先には仕掛け扉。斥候なしでは、これ以上先に進めないわ。
シアン、帰るわよ。雇った分の金は稼いだでしょう」
「そうだな、帰ろう。……奥が見られないのは残念だな」
男は部屋を後にしようと立ち上がる。
「……ちょっとシアン! 帰る前に遺品取るの手伝いなさいよ。
放置していったら面倒が増えるじゃない!
ルピルの聖印と……あと戻ってきたコイツは?」
「ふっ、生きているのに遺品とはな。
そうだな、短剣でも持ち帰ろう、斥候の遺品にはちょうどいい――」
男と女は遺跡を後にする。
傷つき倒れた神官と、記憶喪失で錯乱する斥候をその場に残して。
一方、金貨に包まれた盗賊たちの街、アルクバーグ。
「はぁい! 失敗ですから、大丈夫なんですよォ!
この術式で転移した後――賢者は、二度と賢者に戻れなかったのです!」
マヌダールの熱弁が始まる。
仲間たちも、街人も集まり、事の顛末を知ることになった。
「賢者に戻れなかった……って?」
ボクは首を傾げる。
「この転移の魔法は……記憶を置いていってしまうんですよォ。
その研究された転移術のメモ。それを使いましたァ」
「わすれちゃうってこと!」
「はぁい、マトくん、大正解です!
先ほどやってきた、胡散臭いのに嘘をつけなそうな青年の記憶は吹き飛びました」
「アルクバーグの素性やデカブツお2人さんを、世の中に出すわけにゃァいかんのさ。
此処はただの田舎町……アルクバーグですよ、皆さん、ほっほっほ!
……なんてな。
儂は首を刎ねちまうつもりだったがマヌさんからの恩情って奴だな」
「刎ねちゃうつもりだったんだ」
「ん、マト冷静だな?
わー! とか無いのかよ」
「ココはオルドさんの街だし、ボクもクゥも『盗賊』なんでしょ?
なら、腹を括って……」
「おっ! くしゃくしゃじゃねえか!!
クゥ、これか? マトの顔のくしゃくしゃ」
「おう、じーさん。いつもよりマシなほうだぞ、くしゃくしゃ。
くしゃくしゃは良くない。やり直しておくか。
首を刎ねちまうつもりだったが~?」
「わー!」
「はい、かわいい~!」
ひょいと掴まれると、胸元に引き寄せられ簡単に抱っこされてしまった。
「クゥ~」
「良いじゃねえか。
それに、余計なことしちまった、オレも」
「余計なこと……?」
「リュートって冒険者の懐に、ジジイ特製のポーションを突っ込んどいた。
あの慌て方はよ、誰かがケガしたか危ねえ時の感じがしたからな」
「儂の目にゃあ見えてたぞ、クゥ。
お前はそういう所がいつも甘ぇんだ、全くよォ。
それに、気づいてんだろ」
「ああ、じーさん。
あいつ、騙されてたってことだろ」
「……騙されてたの……?」
「ああ。
やっとパーティに入れたか、わっしょいされたか、とにかく仲間って言葉で傷を癒やされた顔だ。
だから……頑張っちまったんだろうな」
「気にしてあげてたんだ。
クゥやさしいね。……義賊、かぁ」
ボクを抱いているクゥの腕を、両手でぎゅっと抱きしめ返す。
「にしし、そうだな」
「ほぅ、そんな事まで考えてたのかよ、クゥさんよ。
あの冒険者のガキは訳ありだと思ったが、流石の盗賊だなァ?
潜入任務まで出来ちまいそうだ」
「アードのおっさんは顔が怖い良いおっさんだって事くらいしか分かんねえけどな」
「……」
あっ。
ナチュラルに褒めた! アードの髭面が、酒のせいか少し赤い。
照れてる? クゥ、そういうとこだぞ……!
「……なんだか、聞いてて辛い話ですぜ」
「ああ、ピート殿。私にも苦しい話だ。
……この街に現れたのは確かに迷惑ではあった。
だが、仲間の為に走り、頭を下げ……本来は命を。
今は記憶だが、それを捨てたのに……」
「うん、ボクも苦しい。
だから……ねぇ、みんな聞いて」
クゥの抱っこを抜け出て、頭の上に乗る。
皆の顔色が少し暗く見えた。
だから、ボクが出来ることをするんだ。
「皆も、この街も、みんなとの全部がボクの宝物。
ボクの欲の願いは『宝物が欲しい』なんだ。
だから、これからも一緒に冒険して! 手伝って欲しい!
みんなとの時間も、出来事も、全部キラキラにするから!
苦しくなんてしない!」
精一杯の声で叫ぶ。
「お、この街のやり方、心得てきたな? 勿論だぜ、マト。
オレもこの街と皆と……マトが大好きだからな。
これからも良い仕事、やろうじゃねえか!
おーし、もう一回だ! みんな、準備しろ!」
「わかった! みんなとの時間も、出来事も、全部キラキラにするから!」
『おうよ!!』
街中の声が1つになる。
大騒ぎの中のちょっとした影、そんなモノは簡単に晴れる。
良い余興だったと空気が変わっていく。
宴会は再び始まり、夜遅くまで続いた。
ニラルゲの精算や学校を立てる話も進めなきゃいけない。
次の宝探しは「リザルの遺跡」で決まりになった。
リュートが逃げてきた遺跡の場所は、マヌダールが把握した。
ボクらはいつでも転移術で迎える。
砂漠の遺跡だ、今までとは少し違う。
「しっかり準備をしねェと、ミイラにされんぞ!」というアードの冗談も、冗談で済まなくなる。
だから、明日から準備をして……リザルを目指すことになった。
夜も更けてきた。
ボクはいい歳だから眠くならないはずなんだけど……ふわふわする。
ちょっと、眠い。
「ん、マト? お眠か? 暖かくなってきたな」
「おやァ! お目々が閉じちゃいますねェ」
「おいお前さん達、デカい声出すんじゃねえよ。
気づいたら『寝てないよ!』とか言ってくしゃくしゃになるだろ」
「そうですぜ、くしゃくしゃは避けなきゃいけねぇ」
「ああ……守りたい寝顔だ……」
「おいクゥ、マトを部屋で寝かせてこい!
お前も寝ちまっていいからな、儂が居る! ガハハ!」
「んだよ、オレは子供じゃねえんだ、戻ってくるぞ。
じゃ、ちっと外すぜ」
ひょいと抱きかかえられ、ボクは寝室へと運ばれていく。
眠くて力も入らない。
だるん、と腕の中で柔らかくなりながら。
「……クゥ、ひとりで大丈夫だよ」
「んにゃ、オレも疲れたから一緒に休憩だぜ」
「そっか。いつもありがと」
「んだよ、改まって。
オレもだ、ありがとな。
さ、仮眠だ仮眠!」
「でも二日お風呂入ってないよ……ぉ……」
「……じゃ、浴びてから……。
ん……寝息か? 寝ちまったか?
チビッコだもんな、これは先に布団直行だな」




