6-3「ボクも呪われてるよ!」
目を閉じて、願い、開く。
街を埋め尽くす金貨の黄金とは違う、淡い輝きの粒子が視界に浮かび上がる。
煌めきは風に乗り夜空へと舞い上がった。
冒険者を追って飛来した、謎の遺跡のミイラ型ガーディアンへと辿り着いた光達は、その左胸に纏わりつき標へと変わる。
「……見つけた!
左胸……そこにキラキラが集まってく!
たぶん核だと思う、お宝だよ……!」
「良くやったぜ、マト!
ンなら、仕事に掛かろうじゃねえか。
どうやらよ、あのミイラは再生するみてえだしな」
「ん……!」
注視する必要もない。
切り落とされた筈の腕が少しずつ伸びて来ている。
焼け焦げ崩れた腹部の顔も、しわがれた老人に戻り。
「……脆すぎると思ったのだ。
何度でも試し切りが出来る、という利点はあるが……酒の肴には向かんだろう?」
「ガダルさんよ、違いねえ。
良い感じに削り飛ばしたんだ、2回目の作業になると飽きが来る。
こいつは、クゥさんのお手並み拝見だなあ?」
「あっしはまだまだぶっ壊せやすが、再生する敵は今ひとつ闘技場でも盛り上がらねえ。
引き伸ばしに見えますぜ」
「キーヒッヒィ、火も使う、それに火で燃やしても戻ってしまう……再生を止めて叩く相手では無さそうですよォ!
おや……? なんだか、上手く出来そうな人がァ!」
「クゥの良いとこ〜! 見てみたい!」
ボクは両手でわしゃわしゃとクゥの顔を撫で回した。
「うわっと! マトまで何なんだよ、そうやって期待を高めるんじゃねえよ!
しくじったら示しがつかねえだろうが!」
「おー? 弟子よ、弱気だなァ! しくじったらどうするんだ?」
ジョッキのエールをあっという間に片付け、樽飲みを始めたオルドがクゥを煽る。
「あん? じーさんよ、盗るまで繰り返すだけだってあんたが言ったんだぞ」
「心構えはバッチリだな!
おっと、無駄話してるとオモチャが元に戻っちまうぞ」
「あん……?
マジで再生すんのかよ、すげえな!
じゃ、行くぜマト!
今日は吹っ飛んでも誰かが拾ってくれんだろ」
「説教もなし!」
「説教はする」
「えー!」
ボクがしがみつくと同時に、クゥが走り出す。
上空を漂う、人体をいくつも合わせて作られたようなミイラも動く。
ミイラは再生が終わった片腕を大きく振り回す。
腕は伸びてしなり、ムチのような軌道でクゥへと襲いかかる。
「おっと!
なかなか良い軌道だったぜ、惜しかったな!
だが、その腕が戻る前にカタをつけてやるぜ!
『加速』……『超化』!」
上半身を反らし攻撃を避けながら、技の力を体に満たす。
鳥の羽毛が舞い散るように足元から噴き上がる緑の輝き。
踏み出した次の一歩は縮地の如く。
敵の真下へと疾風が吹き抜ける。
「行くぜ……! 『超跳躍』!!」
「キラキラは胸の真ん中よりちょっと左!
たぶん、人で言う心臓のとこ!
後……首飾り?
あれも少しだけ光ってる!」
「おうよ、なら分業だ!
弟子もじーさんに見せてやれ!」
超跳躍が敵ミイラの頭上へと到達。
クゥとボクが見下ろす姿勢に。
ミイラはその速度に反応できず、まだ地上を探しているようだ。
明確に好機である。
ボクらは落下しながら手を伸ばす。
「行くぜ……『奪取』!!」
「『奪取』!!」
声が重なる。
大きな獲物はクゥ、小さな獲物はボク。
開いた掌から風が溢れ出し、狙いの宝へと巻きつく。
指に小さな感触がある。
届いた、触れた。
それを合図に強く握って、思い切り引っ張る!
「――盗った!」
手の中に握るのは、ミイラの首に下がっていた首飾り。
オーバルにカットされた青い宝石は、何色にも輝き清流を閉じ込めたが如く。
飾る黄金のフレームに刻まれた波のような模様も相まって海の秘宝のようだ。
「もちろん、オレも盗ってるぜ!」
笑顔のクゥと目が合う。
彼の手の中には黒と赤の中間のような、禍々しい宝石。
まるで心臓を模したかのような形状は、その不気味さを後押しする。
黒い霧のような何かが溢れているような気も――。
「クゥ、なんかそれ」
「マトのおそろいだな、これ」
「言い方!! 言い方ぁ~!!」
「うわっ、呪われた顔になった!
くしゃくしゃだよォ……」
足音も無く、クゥが着地する。
核らしきモノを奪い取られたミイラは、その事実にすら気づいていない。
振り返れば、ボクら目掛けて腕を伸ばしてくる。
「墓荒らしを、墓守――に。墓荒ら……」
ミイラ……何処かの遺跡のガーディアンが零す、うわ言が掠れていく。
言葉はもう、聞き取れない。
「……良い仕事してたのに勿体ねェな。
ペンダント、持って帰らなきゃいけなかったんだよ。
自分の手じゃねぇ腕なんか伸ばしても――無くしたお宝は掴めねえ。
悪ィな、お前らプロよりウチの弟子のが何倍も出来るって事だ」
一歩も動かず、クゥが寂しそうな声でミイラの顔を覗いた。
「悔しそうな顔も出来ねえのかよ」
「……クゥ、ちょっと気にしてあげたの?」
「うんにゃ? オレらはそういう生き物じゃあねえよ。
時々口にしたほうが良いんだ、オレらはいつも失敗と向き合ってんだからな」
「じゃ、ボクもそうする」
「チビッコにゃまだ早ぇよ」
その言葉の瞬間、眼の前でミイラが前のめりに倒れ崩れ落ちていく。
砂へと代わり、砂は輝く透明な欠片として空へ舞い上がっていく。
「……ほぅ、やるじゃねえかマト。
いつの間にそんな手癖を覚えた?
クゥも良くやった。だがその宝石は――」
「やべぇなこれ!」
「おい、この馬鹿野郎!! 投げ捨てるやつがあるか、クゥ!」
「クゥ~! お宝捨てた!」
「待て待て待て! じーさんでも捨てただろうがよ!
あの宝石、どう見ても呪われてんだろ!」
「ボクも呪われてるよ!」
「ワッぷ、顔に張り付くんじゃねえ! マトの呪いは良いんだよ!」
その様子にため息1つ、アードがボクらの横へと歩いてくる。
「なぁ……お前さん達よぉ、何やってんだ……。
俺が見てやるからちょっと離れとけ。
欲【鑑定眼】……!」
アード指で窓を作り、転がった宝石を覗く。
光り輝く羊皮紙が手元に現れ、その宝が何かを語り始める。
「ふむ……呪われてるのは事実だな、
これは『心の代わり』――リザル王国で作られた人工魔石。
王の蘇生を目的に繰り返されていた研究の遺物。
魂へと与えた苦痛は意識を繋ぎ止めるために役に立つ、というデータから生み出されたもの。
罪人へと行った罰を蓄えた石は、死体に埋め込むと動き始める事が見つかり――」
はぁ、とアードがため息を吐き出す。
羊皮紙の枚数がいつもより多い。
「情報が多すぎるが……細かく話必要はねぇな。
これは有名な『伝承』……『お伽噺』で出てくる、『死者を復活させる石』だ。
だが、お話通り失敗している。
死体に埋め込めば蘇るが、恨みと執念で動き回るだけの存在になってしまう。
で、使い道がなかったんだが、『罰と恐怖の記憶』を加えて縛り付るとある程度の手駒になることがわかった。
結果、今飛んできたミイラガーディアンの誕生だ。
呪いは俺達には影響しねえ。
この宝石に封じられた苦痛を増し、隷属するために付与されたものだ」
「良く分かんねぇが……アレか、罪人を苦しめて殺して封じて、死後も脅かして道具にする石みたいな」
「そうだな。なんかムカツクぞ、クゥさんよ……俺より綺麗に纏めやがって。
そういう石だ。価値は2万リーヴ金貨、理由は考古学者が探しているから、だそうだ」
「アードのおっさん! これ触っても大丈夫?」
「特に問題はねぇ。見た目が最悪なだけだ」
「……最悪な見た目の宝には慣れてるんでな、儂が後で処理しといてやる。
その学者様が、知り合いに居るんでな」
「お、じーさん、それは助かるぜ。任せた」
「クゥ! 馬鹿野郎、宝を投げるんじゃねえ!」
ン? ……投げた?
今何が有った?
確かにクゥが宝石を拾ったまで見えたけど。
なんでオルド町長の手の中に、あの心臓型の宝石があるんだ?
「みえなかった」
「じーさんが盗ったんだろうさ」
「でも、『霞の腕』は3回……」
「良く数えてんなぁ、マト! そのうちお前にも分かる時が来る。
だが技術ってのは見て盗めだ、励めよ!」
「むぅ、クゥのお父さんいじわる」
「アレでもマシになった方だぞ」
「そっかぁ……」
「まぁまぁ、マトさんクゥさんよ。マトさんが盗ったペンダントも見ちまおう」
「あ、うん! アードのおっさん、よろしくね!」
「おうよ、ご依頼承るぜ!
欲【鑑定眼】――!」
再び手元に現れた輝く羊皮紙を覗くアードの顔が、引き攣っていく。
「どうしたの?」
「マトさんよォ……やっぱ呪われてるのはマトさんだなァ……。
これはヤバい品だ。
宝飾品としての価値だけで500リーヴ金貨……これでも優秀だが。
今現在、売るにはその方法しかないゆえ価格のようだ。
青冠の石……リザル王国へ『青の竜』から送られた流れる水を閉じ込めた魔装――」
「青の竜? マガロみたいな他の竜のお宝ってこと?」
「そういうことだ。友好の証だった、と書かれてる。
今は力を失い、リザル一帯は砂漠と変わった……ってな」
「アード殿、何を言っている!? リザルは遥か昔から巨大な砂漠だったと言われている!
砂船や宝瓶など特別な文化も、伝統だと……」




