6-1「トガだと? 本当に存在しているのか??」
「す、すまない……!
俺はリュート、何でも屋……いわゆる冒険者をやっている……!
見つけた遺跡で、手に負えないガーディアンと出会ってしまって……。
仲間たちを救う為に、一番足の速い斥候の俺が外に出たんだ。
辺りを見回せば、遥か先に夜にも消えぬ強い灯り。
救いだと思い走り続けて此処に着いたのだ。
だが、こんな黄金郷があるなど、世界の噂にも聞いた事がない……。
どうか黄金郷の長殿よ……これが現実だと言うのなら、力を貸して欲しい……!」
「リュート、か。
ちゃんと名乗れるなら問題はねえさ。
だが、なんだァ? 黄金郷だ?
此処はただの田舎町アルクバーグ……」
町長"霞の腕"オルドが周囲を見渡し、言葉の意味にようやく気づく。
「おぃ、クゥ。ここは黄金郷らしいが?」
クゥの脇腹をオルドが肘で小突きながら耳打ちする。
「んだよ、じーさん。……確かにオレが町中金貨だらけにしちまったけどよ……」
「クゥよぉ、どうやら面倒くせえ匂いが溢れてきたなァ?」
「……おうよ……」
「クゥ〜、これはさぁ」
「マト……。オレとマトの合わせ技で呪われた悪運の始まりってやつか……?」
「ぷぅ」
「しゃっ」
「ほら見てみやがれ! お前ら2人の相棒も『そうだ』って言ってんじゃねえか!」
「うさちゃんも、ロトくんも目が光ってるぅ……」
「乗り越えるべき赦って事だな、仕方ねえか……」
「ちゅうことで、儂らは宴会中だ、めんどくせぇ話はクゥ、お前が聞いてやれ」
「ったく、しょうがねえな!」
息を切らせ、へたり込むリュートの前にクゥがしゃがみ込んだ。
カツアゲみたいな雰囲気になってる……。
「聞いて、聞いてもらえるのか?」
懇願するように声を昂らせるリュートに、頭を掻きながらクゥが答える。
「まぁ、聞くぞ。
オレはクゥ、クゥ・パーダだ。
斥候みたいなモンだ、同業者かもな。困ってんのも分かる。
だが、単刀直入に言うぞ。この辺りに遺跡はねえ。
走って来れる事が違和感なんだ、何処から来た?」
リュートが食い気味に口を開いた。
「か、街道から外れた、森の中だ!
い、いや! ……待ってくれ、入り口は此処じゃない!
俺たちはリザルの街から出発し、4日ほど歩いた所にある砂漠の巨大墓地を探索してたんだ」
クゥが首を傾げる。
知らない名前なのだろう。つまり、リザルなんて街はこの辺に無い。
「おぅおぅ、もう悪運は始まってんのか、クゥさんよ。
話は聞いてたぜ、冒険者のガキんちょ。
俺はアード・ガルドリアス、ただの商人だ」
ただの商人って名乗るんだ……。
髭を弄りながら、クゥの後ろに立つその顔は決して良い商人の顔では無い。
悪徳……まるで奴隷でも売ってそう。
「此処からリザルは大砂漠を越えた先……東にあるミアレより遥か先の街だ。
数日足らずで、このアルクバーグに辿り着くのは普通には不可能だぜ?」
「……なんだと……??
俺は入り口に戻る転移陣らしきまで、ガーディアンを引きつけて……地上に……」
「キーヒッヒッ、祭りの最中に興味深い話が始まったので来てしまいましたよォ!
私はマヌダール、偉大な魔法使いですよォ!
古代のトラップか、古代の移動魔装かは分かりませんが巻き込まれたのでしょう。
リザルの大砂漠の新たな遺跡、と言うなら何があっても驚きません」
「……分かってもらえたか?
なので、今すぐ助けに行きたい……! どうか、どうか力を貸して欲しい……!」
大騒ぎをしていれば、ウトウトしていたガダルもしっかり目を覚ます。
倒れていた耳をピン、と立て凛々しい狼が話に混ざる。
「話は聞かせて貰った。私はガダル、リーシオンの守りの剣。
クゥ殿、リュート殿を助けるのだろう?
クゥ殿はそういう男だからな。
……だが、リュート。振り返って空を見よ。
何を連れてきた……?」
真っ直ぐにリュートの後ろの空を見上げ、鼻を動かすガダル。
ボクは慌ててクゥの頭によじ登り同じ方向を見上げる。
何も見えない。
なら、と耳を澄ませる。
何かがバサバサと揺れる音……?
大きなシーツが風で揺れるような……。
「……名乗りが遅れちまってすいやせんね。
あっしはピート、宴会の飯作りで忙しいガルドリアス商会の雑用係ですぜ。
……リュートさん、連れてきちまったみたいですぜ?」
「連れて……来た……?」
顔を真っ青にして、リュートが立ち上がり空を見上げる。
まだ、敵影は見えない。
ボクの耳は音だけをしっかりと捉えている。
布のような何かが、来る。
「……おー、リュート。紹介忘れてたわ。
今頭に乗ってる、このトガがマト。
オレの弟子だ。絶対触るんじゃねえぞ」
「紹介されたマトだよ!
よろしくね、リュート。
駆け出しの盗……斥候だよ!」
ナチュラルに盗賊と言う所だった……クゥも暈してたし、気をつけるトコっぽい。
ゲームなんかで親しんだテキトーなジョブ名を言ったけど、上手く通じてくれると良いな……。
「……!? トガ……の斥候……??
確かに、此処に来てから桃色のウサギを気にしていなかった訳ではない……!
だが、トガだと? 本当に存在しているのか??
何処で手に入れた!?
し、しかも喋るのか? ………!?」
「ほら見ろ、マト。こうなるんだよ、どんなピンチに晒されてても。
コイツも『手に入れた?』って言ったろ? 怖いなぁ、よちよち」
「よちよちじゃないよ、クゥ~」
撫でてくる右手を両手でキャッチして押し返す。
「ガハハ! マトさんよ、学んだか? これが普通の奴の反応だぜ。
それだけの宝物なんだよ、呪われてるがな!」
「普通の奴の反応ですかい? 大将も最初、同じ反応を……痛えッ」
余所者が居てもお構いなし。
アードがピートをいつも通り小突いた。
「キーヒッヒッ! だから危ないと先生は心配していたんですよォ、マトくん。
良い経験になりましたねェ! 知らない人には着いていかない、話も聞かない。
怖いですねェ~」
「……助けを求めに来た者の言葉とは思えん、が……。
そう狂わせる程の力があるのは事実だ、マト殿。
安心するのだ、私や皆が必ず守ろう。毛玉も」
「ガダル! お前が一番危ねえんだよ、まず毛玉集めるのをやめろ!
さーて、オレにも見えて来たぜ、敵影がよ。
マト、最初に遺跡に入った時に言ったよな。
ガーディアンは追いかけてくるって」
「うん。だから何とかするってガンバったんだよね」
「おう、そうだ。 ちゃんと覚えてて偉いな。
偉くねぇのはリュートてめぇだ。
オレら墓荒らしは知ってるはずだ、ガーディアンを外に出すなと。
責任はきっちり取れ、と言いたいところだが……オレは優しいんでな?
遺跡の情報や宝、根こそぎ譲るなら助けてやるぜ?」
「おっと、クゥ、それじゃ足りねえぞ。
リュート、お前の身柄もだ。どこの馬の骨か分からねえ盗人だからなァ」
オルドが横から顔を出す。
「まて、斥候だ! 盗人などではない……!
黄金郷の物を盗みに来たわけでもないのだ、俺は……」
ボクの仲間は、こういう反応するんだとニコニコしてしまう。
けれど、楽しんでばかりはいられない。
「クゥ、布かぶった雑なオバケが来てる」
「甲冑みたいなの見すぎて、これは新鮮だな……マト……」
「待て待て、お前さん達よ。ちゃんと目のトコの穴を見てみろ、少し迫力あるぞ」
「確かに血走った不気味な目ですぜ! しかも悪そうですぜ、まるで大将――」
「どれだけ不気味だろうと布切れなど一瞬で切り裂いてくれよう!
だが……この貸し、高く付くぞリュートよ」
ガダルが剣を引き抜き、構える。
街人達も武器を構えはするが、完全に祭りの延長。
乱入者をぶっ倒す喧嘩祭りの様相だ。
町長オルドも腰の短剣に手を添えた。
遠くでマヌダールがキャアによじ登りながら叫ぶ。
「リザル周辺の遺跡は、ミアレとは別の文化が多く見つかりますが――アンデッドによる防衛装置を軸にしているそうです。
特に当時の神官をガーディアンに改造した個体などは、イルイレシア王国のゴーレム型ガーディアンを凌ぐとも言われています。
油断せず、やりますよ」
言葉が凛として、胡散臭さが無い。
これは、彼が危険を感じ何かを伝える時の声。
「ガーディアン程度、汝らに任せて良さそうだな。
街への被害は防ごう、我らも住んでいるのだからな!」
咆哮とともに巨竜マガロが立ち上がり、槍を構えた巨大石像、タパも横に並ぶ。
アリさん甲冑は、修道院の入口で立ち塞がっている。
現状を理解できないリュートが、震え始めた。
周囲で、言わばボスラッシュが起きているのだから。
そして、皆の前へ白き布を被った巨大な影が舞い降りてくる。
頭部らしき部分には穴があり、血走り真っ赤になった瞳が爛々と輝いている。
布の隙間から見えるのは、シワシワで枯れ枝のような腕、足。
その手首や足首には、黒鉄色の枷。
「……墓荒らしは墓守に。墓守は民に。
墓荒らしは墓守に。墓守は民に……」
うわ言のように、謎のガーディアンは言葉を繰り返している。
オルドが、一歩前に出ながら叫ぶ。
「ああン? ああ、そうか。
自分の仕事も熟せなかった上に、別の仕事を押し付けられて働いてんのか?
――ダセぇ話だ、逃げ出してでも自分の仕事に戻るもんだろ。
今、眼の前の黄金に何も感じねえんじゃ――もう、救いもねぇなァ!」




