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異世界無理やりシリーズ化シリーズ

スキル『ペン回し』で最強へ!

作者: gaea


最初に言っておきます。


思いつきで書いた文章なので絶対に納得いかない最後になっています。



ご了承ください




 スキル



 それは、1人に一つしかもらえない、その人の唯一の特徴。


 時に、そのスキルは人を冒険へと駆り立て、人の夢を叶え、そして人の人生をぶち壊す。


 スキルは15歳の誕生日、生まれたその時刻に急に発現する。



 この俺、《カイテ・スーピン》と双子の弟、《ルリク・スーピン》の15歳の誕生日。


 俺の《スーピン家》は貴族だ。

 俺のスキルのせいで家の評判を落としたくはない。




 それに、俺は、言わば《弟の劣化版》と見られている。


 何でもかんでも、弟は出来て俺には出来なかったからだ。





 だから、今回のスキルによっては、俺の家での立場が変わるのだ。


 

 


 いいスキルであればいいのだが………



 俺たち二人はドキドキしてその時刻、11時18分を待っていた。



 そして、ついにその時がきて……




「「………発現した!!!」」


 その日は家族全員で休んで、俺のスキルを見るために集まっていた。


 スキルが発現すると同時に、自分の『ステータス』というものが見れるようになる。



 そして、自分のスキル欄を確認すると………






「「「「「……え?」」」」」



 俺も、父も、母も、妹も、双子の弟も、全員固まってしまった。



 俺のスキル欄に書いてあったスキルは…………









 正真正銘の雑魚スキル、『ペン回し』だったのだから。






  >>>




「緊急家族会議を始める」

「「「………」」」


「どうせ出来損ないの兄さんのことでしょ」



 拝啓、我が友へ。


 今、俺の家は地獄の底のような空気が漂っています。




「議題は、俺たちの息子、カイテ・スーピンの処遇についてだ」


「なんてことなの……昔から活発な子だったから戦闘スキルが発言すると思ってたのに……」



「だから言ってたんだ。こんな兄さんよりもなんでも直ぐにできる俺にしたほうがいいって」



 弟のルリクのスキルは《賢王》。


 《賢者》や《賢人》などのスキルの頂点だった。



 簡単に言ってしまえば、稀代の天才の頭脳を数十人集めたとしても敵わないほどの『頭の柔軟性』と『頭の回転』を得る。


 もう、えげつないほど頭が良くなるってことだ。




 これで、俺の処遇はもう決まったようなものだ。







「ににのスキルはいわゆる『雑魚スキル』でしょ?」

「グサッ」

「お父さんもお母さんも戦闘スキルだから」

「グサグサッ」

「にには落ちこぼれだったんだね!」

「グサグサグサッ!」



「《ニーナ》、あなたもどうなるかわからないんだから、お兄ちゃんと違ってちゃんとしてくださいね?」


「はーい!」



「まぁ、カイテのそのスキルは、使い道がないスキルだ」


「………」



「言っちゃなんだが、世間に出ると役に立たないカスのような扱いを受ける」


「……………」



「そんな扱いをされると、俺たちの家の評判が下がるんだよ。わかるか?」



「そんなの…俺も………」


「俺たちの家は貴族階級だ。お前のせいで評判が下がるのはいただけないんだ。弟も、妹もいるしな?」



「……そんな……………」


「だからお前は、今日からここに帰ってくるな」


「い、いやだ………」



「お前は大事な妹を危険に晒したいというのか!?」


「そ、そんなわけじゃないんだ…」




「わかってくれ、カイテ。お前の分も、ルリクとニーナは育てる」



 やめて、やめて………。






「お前は、いわゆる《追放》だ」





 その日から、俺はただのカイテになった。








  >>>



「はぁ………俺はこれからどうすれば…………」



 追い出された俺は、行くあてもなく街頭をぶらぶらしていた。


 家の荷物は最低限のものだけ持たされて家から追い出された。

 金もない、無一文状態だ。



「まず、生きていくためにやらなきゃいけないことは……稼ぎだな」



 《スーピン》の名を無くし、ザコスキルの俺でも、子供の頃に受けていた護身術の剣と格闘術がある。



 これを上手く使い、魔獣を倒して金を稼ぐとしよう。




 そうなればすぐに実行だ


 俺の足はすぐに、西の《冒険者ギルド》へと向かい始めた。



  >>>




 結論から言おう。


 クエストは見つかった。




 それも初心者用のかなり難易度の低い【ゴブリン×5の討伐】だ。


 クエストを受諾する時、《ペン回し》を試してみたが、まぁこれがすごいこと。


 みたことがないくらい超素早く回るもんだからびっくりしていた。




 目で追えなかったほどだ。これはこれで戦闘で役に立つかもしれない。


 この考えのもと、ダーツの矢を持っていき、そいつでペン回しを試して、魔獣に攻撃できないかを試してみる。








  >>>




 と、言うことで。



 早速ゴブリンがいたから手始めに護身術(?)が効くか試してみる。


「グッ!グギャゴガ!ガ!!」


「…せい!」


 ドン!



 先制で腹に一発ぶち込んでやった。



 まぁ、様子を見る限り効いてはいるが決定打にはなり得ないだろう。


 魔獣の硬さを甘くみていたな。



 じゃあ、次はこのふざけたスキルの《ペン回し》でダーツの矢を投げてみることにする。






 今、ゴブリンはさっきの腹パンで怯んでいる。



 スキルに慣れるために少しダーツの矢を回して感覚を掴んでみる。




 クルッ、ヒュルルルルル、スルスル…



 うん、ペンと同じくらいのサイズなら大丈夫そうだ。


 《ペン回し》はペンに固執しなくても、ペン程度の大きさや形、まぁ、形状が回しやすい感じだったらなんでもOKだろう。



 ナイフも多分使えるかもしれない。





 次は投擲だ。



 ペン回しと投擲。

 そこまで関係がないと思うだろうが、必要なのは『器用さ』だ。




 俺は、《ペン回し》のスキルをもらった直後から、『手の器用さ』が超上がった気がしたのだ。




 ……うん、気がしたのだ。



 試しにゴブリンに向かって投げてみる。









 するとまぁ、見事にゴブリンの硬い肌に突き刺さった。


 ストッ、と普通のダーツをしたときの音ではなく、ズドッとブスッが同時になったような鈍い音がした。




 それに、自分でも視認出来ないほど速い。


 例えるなら、最近できた『銃』という兵器が高速で放つ弾、弾丸と見間違えるほどのスピード。





 そのせいだろう。


 ダーツの矢はほとんどゴブリンの額にめり込んでいた。






 このとき、俺は確信した。


 このスキルは使える、と。







 その時、脳内にこんなメッセージが浮かび上がった。




《スキル『ペン回し』の複数回使用を確認。スキルレベルの上昇を実行します》



「ん?え、ちょ、えぇ???」




《スキルレベルの上昇、完了。スキルレベルが1→2となりました》

《それに伴い、次の能力を使用できるようになりました》



「なんか、勝手に話が進んでるが、強くなったってことで……良さそうだな」






《使用できるようになった能力》

《→非生物をペンに見立てて回す》






 まぁ、とりあえずゴブリン倒そ。














  >>>





 俺はスキルレベルの上昇とともに、できることも増えたようだ。


 なんでも、非生物のくくりであればどれほど大きくても自分の手元なら自由自在に動かせるらしい。





 一回、試しにそこらへんの岩で試してみる。








 スポッ、と手の中にハマった。


 自分から手は出していない。

 勝手に手に吸い付いてきた?のだ。


 つまり、一瞬浮いた。






 次に手元で回してみる……。


 手を離して指で勢いをつけてやるとくるくると手のひらに張り付き、回転しながら手のひらから手の甲へ移動。




 本当にペンを回しているように手元を回り始めた。


 木に投げようと思い、手を木の方に振り払ってみると、岩は一瞬で木へ飛んで行き、木を貫いた。






 …ダーツの矢よりも数段早かった。


 ダーツの矢より重いにも関わらず、だ。






 確信した。


 もうこのスキルは『雑魚スキル』呼べるものではない。








 この日から、俺の修行の日々は始まったのだ。









  >>>




 修行一日目。




 今日はあらゆる非生物を回してみることにする。





 剣、槍、鞭、水。


 生きていなければ、ほぼ全てのものが回せることがわかった。



 回る範囲が広すぎて危ない場面はあったが、それはそれ、これはこれ、だ。




 特に、水が回せるようになっていたことが一番驚いた。



 だって、水が自分の手から落ちずにずっと自分の手の周りをぐるぐるしているもんだからびっくりしていた。




 その日は一日中、戦い兼スキルの研究で忙しかった。



 ものすごいスピードで【ペン回し】が上達していった。




 一説によれば、『非戦闘スキルでなにかモンスターを倒すと、《その者は命を賭けるレベルの非戦闘職の域に達した》とされスキルレベルをあげる経験値が大幅に上がる』らしい。







 例えば、スキル【ギャンブラー】が説明しやすいだろう。





 普通、ギャンブルといえばお金をかけて遊ぶ娯楽だ。


 そのお金で人生が破綻することはあるが、それは『ギャンブルの結果』ではなく、『ギャンブルの結果の副産物』となる。





 だが、ギャンブルで命を賭け、その勝負で負けて命を落とした。



 となると、この命を落としたという事実は『ギャンブルの結果』となり、その『ギャンブラー』のスキルを持った人が《命を賭けるレベルの非戦闘職の域》となる。








 今回のスキル【ペン回し】もそうだ。




 これは、《ペン回しの新しい技の一種で相手に刺さってしまった》と言う体で片付ければ、それは《ペン回しの結果》となり、スキルレベルアップの経験値が大幅に増大するのだ。







 だから、このスキル【ペン回し】のスキルレベル上げは比較的簡単だったのだろう。




 すぐに2→3になった。







 そして、《生物として活動しているもの以外を回す》というところまできた。



 これからも、スキルレベルを上げていきたいものだが、ここで一つ問題があった。




 スキルレベルの上がりが突然遅くなったのだ。



 1→3に行くまでの間は、かなり育てやすかったが、3→4は非戦闘職でもかなりの時間をかけてレベルを上げなければいけない。







 俺が目指すべき場所はスキルレベル5だ。



 そこに辿り着けば、どこまで見下していても、あの《スーピン家》を見返してやることはできるだろう。





 俺を家から追放させたこと。


 身をもって後悔させてやる……!








  >>>



 一方、《スーピン家》では。



「ねぇね、ママ。にに、どこ行ったの?」


 その言葉を聞き、母は顔をしかめながらも柔らかい笑みでこう言った。


「ににはねぇ?昨日この家から出て行っちゃったの。だから、使用人さんを呼んで遊んできなさいな?」



「にに!ににがいいのぉ!」



 これには母も少し疲れてきていました。


 ストレスで周りが見えていない母は、ニーナに強くあたりました。



「だから、そのにには、昨日どっか行ったって言ってるでしょ!?もう帰ってこないの!静かにしててちょうだい!!」



 この時、ニーナはショックと、喪失感と、罪悪感で胸がいっぱいになりました。




 兄がいなくなっていたこと。


 ルリクは、カイテと違い遊んでくれないから、遊び相手もいなくなってしまい寂しくなってしまいました。


 そのおかげか、(義妹ということもあるのかもしれないが)ニーナは兄のカイテが大好きでした。


 だから、そんな兄に、昨日心にも無いことを平気で言って、そのせいで家を追い出してしまったことを後悔していたのでした。






 その日のうちに、ニーナは荷物をまとめて家を出ました。



 兄を見つけるために隣国まで行ったが、その時に心優しい老夫婦に保護されて生活するのでした。











  >>>




 













 修行九ヶ月目。



 俺はついにここまで至った。



 スキルレベル4。




 ようやくだ。


 1→3に行く100倍なんて比じゃないくらいの月日が経ったが、俺はやり遂げた。



 もう半年ぐらい経っているのか。



 スキルレベル4になった時の特典は、《どんなものでもを回すことができる》だ。


 生物も回せるようになり、対人戦では相手の腕を強制的に回して骨を折ったりすることができるようになった。



 ここ最近はかなり魔物狩りにも慣れてきた。




 剣を投げ飛ばし、相手の魔法を回して受け流し、そのまま相手に返す。


 槍も、果ては武器の入ったコンテナを真上に飛ばして武器の雨を降らせた。


 毒物を投げ、相手を苦しませながら倒したこともある。






 二ヶ月前、魔王とか言うものが復活して、魔物が活性化している。



 各国は『勇者』がいないか、と言うものを国で呼びかけている。



 まぁ、そう簡単に見つかるわけがない。



 冒険者の中でも優秀な実力者な俺は、魔王復活による魔物の活性化に対処できる数少ない冒険者として重宝されている。




 今日も、活性化した魔物を倒して、倒して、倒しまくるのが日常となっていた。







  >>>













 さらに二年後。


 俺は成し遂げた。





 一生かかっても到達できる人はそうそういないとされる、スキルレベル5まで約三年足らずで到達したのだ。



 スキルレベル5で得た特典。

 それは、《どのような物、生物、事象、概念でさえも手のひらで転がすことができる》



 もう、もはや回転させる域にはとどまらず、操ることが可能になってしまう規格外っぷりであった。




 もはや【ペン回し】ではない。







 15歳から、一人暮らし。


 姓も剥奪されていることから、《孤高の天才》的な立ち位置にいて、かなりここ周辺では顔が広かった。




 とはいえ、あの《スーピン家》にばれるわけにはいかず、今は移住して2つの国を跨いだ《メグ・マーレン王国》に滞在させてもらっている。





 スキルレベル5の到達により、冒険者ギルドからの評価も上がり、最高難易度のクエストも受注できるようになった。






 だが、そのクエストも最近多くなってきている。



 それもそのはず、幼体だった魔王が急速に成長を始めたからだ。



 結論から言うと、勇者はもう見つかっている。




 だが、あまりにも幼すぎるのだ。



 魔王と勇者は同時に生まれるもの。

 そして、共に成長して旅の最後に雌雄を決するために戦う。






 だから、勇者は今、大切に育てられている。



 いずれ成長し、旅に出たら、いずれこの国にも来ることだろう。


 今頃はもう3歳だ。






 勇者が旅立つ前に、この国を終わらせないために俺は死力を尽くしてこの国を守ることにする。





 もしかしたら、勇者の旅についていく、なんてものもありかもしれないな。




 そうだ、あと三ヶ月でもう俺も成人だ。


 祝いに初めての酒をめちゃくちゃに飲んでやろうか………。







  >>>



















 三ヶ月後。


 誕生日の直前。



 《メグ・マーレン王国》は陥落した。



 俺が活性化した魔物を倒すために国外の森へ出ていた時だ。



 魔王軍がこの《メグ・マーレン王国》に大量に攻め込んできたのだ。





 王国の兵士はなすすべもなく次々と倒され、国は蹂躙されていったと言う。










 生き残りの兵士が死に際に報告してくれた内容はこうだ。



 【『憎き『カイテ』はどこだ!勇者に力を貸す強力なニンゲン!!《スーピン家》を追い出された落ちこぼれ!!我ら魔族に情報を提供した《スーピン家》の唯一の汚点!!探せ、探せ!探せ!○せ!○せ!!○せえぇぇ!!!』と叫び、ただただあなたを探しながら住民を殺していました。あなたは、早く…に、げて………!】






 無性に腹が立った。



 魔物に肩入れした《スーピン家》に。

 国民を皆殺しにした魔物達に。









 そして、こんなことになることを予想できなかった自分自身に。




 腹が立ってしょうがない。





 俺は、すぐに行動に移した。



 勇者が育ち切るまで待つことなんてできない。








 魔王は勇者でないと倒せないのはわかっている。



 だから、せめて魔王を倒せるほどのチカラをつけられる『環境』と、心の底から憎き魔王軍の『殲滅』を。




 これから、始めるのだ。











  >>>





























 一つ目はすぐに終わった。



 もう、魔王軍の残党はいない。



 スキルレベル5まで上げた俺にはとるに足らない相手だった。



 勇者に倒させるようにもう少し残しておけばよかったかと思っている。





 まぁ、『死』という『概念』すら自らの手で自在に扱えるようになったのだ。


 やろうと思えば、魂がなければ出来ない教会の蘇生術とは違い、魂がなくてもきれいに生き返らせることも不可能ではない。


 苦痛をゆっくりと味あわせながら○してやることだって造作もないのだ。















 あぁ、やろうと思えば魔王だって○せるんだ。




 勇者の聖剣、悪意なんて一つも混じっていない光のチカラでしか魔王は倒せない。






 が、その光のさえも俺の手のひらの中だ。




 これはただのゲームに過ぎない。


 自分が育てた勇者が魔王という最大の魔族に勝てるのかどうかという、世界をかけたゲームに。








 あ、今。


 北西約800km先に低級ホブゴブリンが発生した。






 早く駆除して今日の飯にするとしようか。








  >>>











 十二年後。


「……ここは…?」



 俺、勇者こと、篠塚(しのづか) 勇士(ゆうし)とその御一行は不思議な森に来た。





 旅をして2週間。




 ここまで1体も魔物には遭遇していない。


 魔物の発見情報が少なくなっているとは聞いていたが、1体もいないということなどあるのだろうが。



 魔物は自然発生するはずだ。


 なのに1体も遭遇していないということは、誰かが駆除しているということだろうか。





 魔物がいないのはいいことだが、いなさすぎるせいでここ最近は冒険者も退職が増え、現役の冒険者もパトロールをやっている者もいるが、腐っていった冒険者たちは真っ昼間から深夜までずっとギルドで酒を飲み続けている。







 かくいう俺も、訓練でしか剣をつかったことがなく、魔物を倒したことなんてない。



「ね、ねぇ。勇士?早く戻らない?私、こここ、怖くてもももう私…」


「だぁいじょうぶだって。訓練通りやれば問題なんてないさ」


「でも、たしかにここはかなり高濃度の魔力を感じる。今まで魔物のいないところを歩いてきた反動でものすごく強大な魔力だと思ってしまうな………一応聞くが、どうする?勇士」




 エルフ耳の女性、強気な短髪の人間の青年、メガネを掛けた長髪のドワーフの男が、勇者について行っている従者達だ。






 そんな奴らは、今魔物がいない原因を探すため、ここらで一番魔力の強い森に入ってみたのだが、多分正解だったようだ。







 その森の奥には、ひっそりと、最強の男が住んでいた。



 これから、彼のゲームが始まるのだ。













「やぁ、勇者様。私はしがないおじさんですが、昔はかなり強い冒険者をやっていたんです。私のところで修行していきませんか?」



「え、それはちょっと……」

「なぁ、こんな胡散臭いやつ信用ならねぇ。倒しちまおうぜ」

「でもいいのか?魔物がいないのは彼の影響かもしれないぞ?どうする勇士?」





「……………俺たちは城での訓練しかやってこなかった。命の保証がされた戦いなんてこの先できないかもしれないんだ。一回、どういったものかやってみようじゃないか」





 これは、彼の実力がどれほどのものか測るためのものだ。


 彼がどれほど強いのか……。





 だが、ここから先は考えていた予想と大きく外れた。













「じゃあ、試験としてこの魔物倒してみて」


 彼が手を叩くと、自分たちの周り一帯にホブゴブリンが発生した。




 出現したんじゃない。


 たった今『発生した(生まれた)』ホブゴブリンだ。




「「「「!?!?!?」」」」


 そりゃあ、そういう反応にもなる。





「おい、魔物なんて初めてみたぞ!?ホブゴブリンってやつか!?」


「多分そうだ。しかも、今発生した。どうなっている!?彼は魔物の発生時間が操れるとでも!?」


「ひやああああぁぁぁぁぁ!!!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!私これは無理ですうううぅぅぅ!!!」





 三者三様、と言った反応の仕方をしている。


 ある者は困惑、ある者は驚愕、ある者は恐怖。そしてある者は……






「魔術師は後方で魔術準備。戦士はそっちから回って。参謀?敵引き付けてくれる?」




 戦闘の才覚を発揮し、そのゴブリンを倒す道筋を立てているのだ。



 聖剣が輝き、魔術師の魔術が発動し、戦士の拳が赤く染まる。






「さすが、勇者。魔物と戦ったことがなくても、戦術は一人前だな」


「それはどうも。お前こそ、そんなに余裕でいいのか?俺たちは若いぞ?おっさん」







「まぁおっさんかもしれないけど、君の敗因はね?」


「なんで俺が負ける前提に………!?!?」






 ホブゴブリンは俺の聖剣で2体、後方支援の魔術で3体。戦士が1体倒していた。














 が。





「敗因は、俺も倒すことを視野に入れたからだ」



 次の瞬間には、魔術師も、戦士も、参謀も。


 全員意識はなかった。






「ここまではっきりすればわかるだろ。俺は、お前たちより遥かに格上だ。それを、魔王を倒せるように鍛えるためにこんな時間使ってやってるんだ感謝してろ」


「くそっ。お前は……何者なんだ…………?」







「そうだな……………。《回し手(スピンハンダ―)》、とか?」




 ここが、勇者と、最強の男との出会いだった。









  >>>







 訓練初日。



「ぐほああぁぁ!!」


「戦士はまだ体のバランスと戦士の役職があっていない。もっと体作りをしろ」




「うにゅう……………」


「魔術師は道具の問題もあるだろう。あそこに100%魔物の土壌で育てた良質な魔樹がある。それから杖を作ってみろ」




「かはっ……」


「参謀は頭のキレをもう少し良くした方がいいし柔軟性も必要だ。先読みのチカラをつけろ。そして自衛もちゃんとできるようにした方がいい」





「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………………………」


「お前が一番よかった。もう少しついていけるように基礎トレをしっかりしろ。あと、それに合うように目も鍛えておけ。まだ追いつけていない」







 俺よりも遥かに弱い勇者パーティー。


 俺は30代になり始めて体の衰えを感じるのに、それでも負ける気がしない。




 今も湧いているモンスターを後回しにして勇者の育成に専念しているのだが。




「じゃあ、魔物連れてくるからその間休んどけ」



「ふいいぃぃぃ……………」

「はぁ、クソがっ!!」

「自衛、自衛か……………はぁ……」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」









 こうやってアメとムチを使い分けるのが上手い教育のコツだとどこかで教えてもらった気がする。




 さて、あとどのくらいで魔王を倒せるようになるかな。













  >>>
























 半年後。



 勇者たちは、それぞれの課題を克服し、今ではかつて俺が倒した魔物の長も一人でらくらく倒せるくらいにはなった。





 これで魔王討伐の旅に行かせれば全員で結託し、ようやく倒せるぐらいだろう。



 まぁ、彼らの頑張りを見るとしよう。







 ちなみに、魔王と俺は面識がある。



 忘れることの出来ない恐怖を刻ませて帰った記憶がある。


 『光』のチカラがなくて倒せないというのをいいことにフルボッコにしてやったか。


 今では懐かしい思い出だ。





 今俺は、勇者の旅を陰から見守っている。


 まだ俺が手助けをしなければならないところは来ないだろう、






 ま、30代のおっさんが何を手伝えって話なんだけどね…………。





 そして、彼らは魔王城に到着するのだった。







  >>>












「よ、よよく来たな!勇者よ!貴様ここまでき、来たことにまずは敬意いを表そう!!!!」





「なんか、魔王緊張してねぇか?」

「緊張というより、怯えてる気が………」





「フッ、それではここまで到達した勇者とやらがどれほどの実力か、試してやろうではないか!!!」







 無事に魔王と謁見した勇者たちと、それを陰ながら見守る30代おっさんの図。



 あいつ、昔はあんなに威厳なかったのに、今ではかなり魔王に箔がついている。





 これで、勇者が負ければ、俺が代わりに○す。




 勇者が勝てば、そのまま。


 それか俺がトドメをさす。








 この流れで絶対に魔王を生かして返さないという、固い意思もとい、成功確実な作戦を立てる。




 おっと、勇者と魔王の戦いが始まったようだ。


 

 はじめは勇者が押されているが、そのうち聖剣の助けや神の加護でなんとかなるだろう。







 さて、それじゃあ。




 最後の準備をするとしよう。










 >>>














「クソ!もう魔王城に勇者が到達したぞ!!」



「早い………おい!なんでこんな事になったんだ!!!結局、あの出来損ないを追放したあと、追うようにニーナもこの家から出て行ってしまって………」



「大丈夫さ、魔王軍に加担した貴族は我々だけではない。我々が他の家を売ればなんとかして生き残ることができるかもしれないぞ!!!」



「おいクソ親父ぃ!!どうなってる、早くこの状況をどうにかしろよぉ!!!!」











「おいおい、子供を追い出しておいてこのザマとはな。もう笑えてくるぜ」





 窓枠に腰掛ける男が一人、こちらを見据えていた。



「お前………………ッッッ!!!」


「!?」





 いきなり“元”父が掴みかかってきた。



「なぜすぐに○ななかった!!!!お前が○ねば、我ら《スーピン家》も安泰だったというのに!!!」


「そこまで言われなかったからねぇ。そこのクソ兄弟はともかく、そうか、ニーナはもうこの家にいないんだな」







「お前が消えると寂しそうな顔をしていつの間にか消えていたとも。まぁ、無能を追いかける者もまた無能。そんなやつ我が家には……………」





「おい。黙れくそ爺」


「!!!……」




「ニーナをバカにする資格はお前にはない。クソ以下に無能って呼ばれるあの子の気持にもなりやがれ」


「まだ《スーピン家》を愚弄するか………!!」







「あー、だめだこりゃ。自覚がないってのは救いようがねぇな」



「なんだと…………??」










「お前たちが《役立たず》と捨てたスキルの真価、見せてやるよ。《メグ・マーレン王国》の恨みも添えてな」






「ふ、ふざけるなよぉ!!《大賢王》!!チカラを見せろ……?」






「すまんね、そんな“底辺”スキル。俺の『手のひらの上』だよ」


「い、意味が分からねぇ、なんだ!!そのスキル!!ペンを回すだけじゃなかったのかよ!!!」





「元々はそうだぜ?だが、そこから、『手の周りの空間を操る』事ができるようになり、最終的に『すべてを手中に収める』スキルになった。簡単だろ??」







「そ、そんな馬鹿なことがあぁ!!」


「あるんだよ。ほら、現にお前のスキルは俺の手中にあるんだよ」






「そ、そんなバカなぁあああぁぁぁぁ………………」





 いまの彼は耳鼻から液体という液体を出しながら、自分の頭が急に悪くなったことにショックが隠せないようだ。







「じゃあ、もうお前達要らないから、【無感覚】と【痛覚独立】と【不死】と【苦悶】と【生殺し】を与えておくから」




 それらを野球ボールぐらいの大きさに具現化して口から問答無用に突っ込む。



 これは口に入った時点で効果が発揮されるので吐かれる心配はない。




「あぐぁ!!や、やめっ………んぶぅ、おぐろぁ……………」



 彼ら3人にそれぞれに処置を施してもう用済みの《スーピン家》の屋敷をあとにする。











 勇者たちも、魔王退治も終わっているだろう。




 そんなことを考えていたら、後ろから声がした。




「にに………………」

「ニーナか、久しぶりだな」




 成長したニーナが、俺の後ろにいた。





「会いたかった。ににいなくて………寂しかったの……………」



 うん。

 彼女は純粋だ。




 悪意なんてどこにも見受けられない。

 彼女は、あのときの家族会議が本気のものだと思ってなかったのだろう。



 急にお兄ちゃんがひとりいなくなっては寂しくなるものだ。








「あのとき、にに、に………酷いこと言った……………………」



「……………………気にしてないよ、帰ろう?お前の家に行きたいよ」







 ニーナはびっくりした顔をするが、突然明るくなり、「うん、うん…………!!」と嬉しそうに泣きながら言ったのだ。




 さて、復讐も終わった。

 これからは、妹とスローライフを送るとしようかな…………。










拙作を読んでいただき、ありがとうございました。


少しでもいいと思ってくれたら幸いです。



できれば下の方の評価などしてもらえれば嬉しいです

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― 新着の感想 ―
[一言] 絶対に納得いかない最後ってあったけど、特に違和感もなく終わらせられてたと思うので良いかと 誤字が多いのは気になったけど
[一言] ぶっちゃけアイデアのスタートは 『物事を手のひらの上で転がす』ですね?
[一言] 『ペン回し』からこうなるとは思いませんでした。 もう全ての支配者じゃないですか! よく『手の平の上で転がす』とか言いますが、まさに読んで字の如く。 実家は元から裏切り者の家(または先祖からの…
感想一覧
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