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東京冥宮 ―生贄少女と白髪鬼の現代迷宮紀行―  作者: 冬野ゆな
1章 白き鬼、贄の少女と出会うこと
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2話 五年前

 五年前。


 その日、東京を起点に日本に大穴が開いた。

 世界に轟くような音とともに、東京は地下深くに沈んだのだ。


 日本中がパニックになった。

 なにしろ沈んだのは東京だけではない。東京を中心に、千葉、神奈川、埼玉、山梨、静岡、長野、富山、新潟、福島、栃木、群馬、茨城。他にも海上に浮かぶ小さな島々や、愛知や岐阜、山形といった県も、ざっくり半分ほど円形に巻き込まれるように地の底へ沈んだ。


 同時に、雨でも降るかのように空が暗転した。世界は薄暗い夜から動かなくなった。ネット上の一部では憶測が飛び交い、何も発表しない政府への批判が舞った。だが政府そのものが無くなっていたのだから、無くて当たり前だ。港町や大陸の海辺では、『海が無くなった』と大騒ぎになっていた。海水が一瞬にして蒸発して無くなり、海のあったはずの場所には奇妙な泥が堆積した。


 そうして人々が茫然としている隙に、穴の中から奇妙な生物たちが這い出てきたのだ。魑魅魍魎、魔物、モンスター、一部で『幻想者』とも呼ばれるそれらは、人に害をなした。

 だがそれだけで終わらなかった。


 異世界に通じる穴なんだと、興奮気味の妄想が語られる前に。

 怪物を倒せる人々が、勇者だなんだともてはやされる前に。

 穴を攻略しようとする者たちが、冒険者と自称する前に。


 事態を危惧した国連は、ある兵器の使用を許可した。

 苦渋の決断。罪の意識。決意とともに上空を飛んだ専用機が、穴に近づいた途端。


 巨大な――赤黒いぶよぶよとした赤子の手らしきものが、穴の底からぬうっとあらわれて専用機を握り潰したのだ。


 あーー……

 あー……

 ああーーー……


 赤子の声とともに、専用機はあっけなく握り潰された。悲鳴の代わりに小さな爆発が起きた。虫でも潰すかのようだった。ネット越しに見た者たちですら、正気を失った。ぶよぶよとした手が、やや崩れながら穴の底へ戻っていったあとも、混乱はいつおさまるとも知れなかった。

 そこからだ。

 アジアの片隅の出来事だったはずの魔物が、世界各地に現れだしたのは。


 すべての人間は幻想の余波を受けたのだ。

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