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東京冥宮 ―生贄少女と白髪鬼の現代迷宮紀行―  作者: 冬野ゆな
2章 第一階層:文明ノ廃墟

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14話 癒しの異能者と相見えた路地

「あんなでっかいのがいるとは思わなかった……。いることは知ってたけど実際見たのははじめてだし……」

「落ち着け」


 ややパニック気味に呟く深月に思わず言うロマン。とはいえ精神錯乱というにはほど遠く、単純に驚きが勝っているだけのようだった。こんな状況でなければ年相応、と感じていたことだろう。少々精神的には強めだが。


「ロマンは驚かなかったの!? あんなん居て!」

「予想はできただろうが」


 いくら冥宮の中と外の区別があって無いようなものとはいえ、やはり冥宮の中には見たことがない異形がいてもおかしくはない。さきほどのムカデ女もそうだろう。


「大体、地下にはあの――赤子のような神の手の持ち主もいるんだろう」

「そりゃそうだけど」


 深月は気を取り直したようで、小さくため息をついた。


「そういえば、最初は餓鬼ゴブリンだけが認知されてたから、異形イコール餓鬼みたいなイメージがあったって」

「奴らは意外に素早いからな。数も多いし」


 海外からすれば、この冥宮、イコール、ゴブリンの巣、というようなイメージだったに違いない。突入して以降そうではないということが知れたようだが。


「……しかし、あんなのばかりだとこの先苦労しそうだな」

「第二階層に行けば、結構大きな集落が出来てたって話だけど」

「集落?」


 深月は頷いた。だが深月が話し始める前にロマンが周囲に視線を巡らし、黙るように手で制止した。行ったほうがいい、というように親指で道の先を示す。深月は黙ってそれに従い、二人で歩き出しながら続きを語り出した。


「そもそも東京……というか、東京を中心に地面に落ちたって言っても、中でまだ生きてる人はいたわけ。異形からも逃れられた人たちが固まって、コロニーを形成してたのは冥宮の中も外も一緒だったってこと。それを足がかりにして、軍隊……ひいては『太陽の子』も進んでいったの」

「利用したのか」

「そういうこと。他国の軍隊が冥宮に入る口実には『救助』もあったけど、大きなコロニーはそのまま利用されてきた。数人の小さな集団が隠れているようなところはともかくね」

「あの連中のような?」


 ロマンが尋ねたのは、『ダニー』と呼ばれるヒーラーと敵対していた軍人たちのことだ。彼らも――元々どうだったかはともかく――数人のコロニーを形成していたとみることができる。大型コロニーにたどり着けなかったり、入れない人々はこうして生きている。もっとも彼らの場合は、異形化したダニーを殺す、という目的を持ってはいたが。


「それにしても、ダニーってどこにいるのかしらね」

「さあな。もうとっくに殺したんじゃないか」


 数えるのなんて最初からしていない。だがここに来るまでにも相当数の餓鬼を片付けている。もしダニーとやらが餓鬼と化していたのなら、既に死んでいる可能性は高い。見分けをつけることすら不可能だろう。

 二人は暗い地下街を抜ける。ぴしゃんと水音のする狭い道へ入り込むと、もはや必要のない室外機やメーター、壊れかけたシャッターや換気口、ダクトが入り交じっていた。元はどこかの路地裏だったようだ。向こうのほうには電球が露出した場所があるが、どこにも誰もいない。ときおり、暗闇の中からぎらりと光る目があったが、ロマンが一瞥してひとにらみするだけで消えてしまった。


 空虚な道を進み、路地裏から別の通りへと抜けようとした、そのときだ。

 突如として金属音が響いた。それと、うめき声もだ。


「誰か居る」


 深月が隠れながら囁いた。


「うっ……ぐううっ!」


 男の声だ。覗き込むと、異形相手に鉄パイプを振り回している。異形の姿は痩せて細長い、人の姿に酷似したものだ。地面につくほどに長い腕と、腰の曲がった猫背。衣服の類いは着ておらず、肌は人と思えないほどに全身真っ白。顔はつるつるで目と鼻、そして耳が無い代わりに、口だけが異様に横に開いている。そいつらが三体、口元だけで笑いながら男を取り囲んでいた。

 男は三体の異形へ鉄パイプの先を向け、牽制している。


「大変……!」


 深月がことの重大さに思わず小さな声で叫んだ。


「き、きみたち……!?」


 男は二人の姿に気付いたようだった。

 向こうはこちらが人間であると――ロマンはフードで角と目元を隠しているから別として――気が付いたようだ。


「た、頼む、助けてくれっ! 礼はするっ!」


 深月とロマンは思わず顔を見合わせた。


「僕はヒーラーなんだっ! 傷でもなんでも治せるっ!」


 その足元には、もう一人血だまりの中で倒れている人間がいた。


「ロマン、お願い!」


 深月の言葉に、ロマンは一瞬面倒臭そうに目を細めた。言うだろうなと予想はしていたが、実際に言われると厄介だ。とはいえ――自分の首についた首輪の存在を思い出すと、同時にこんなしち面倒くさい少女でも従わねばならないことを思い出す。どちらにしろここを通るには邪魔だ。

 黒刃を引き抜くと、勢いよく路地へと躍り出た。

 白く細長いのっぺらぼうたちは、ロマンの存在に気が付くと思い切り笑った。そのうちの一体がロマンへとばたばたと駆け寄ってくる。

 黒刃を構えると、無防備にも両手をあげて踊るように走ってきた異形へと振るう。なんの躊躇も無い軌道へ、異形がやってくる。すれ違いざまに刃がその腰へ触れると、あっという間に切り裂いた。背骨ごと真っ二つになった異形は、そのままドサドサと上下に分かれて地面に落ちた。まだ笑っているのを背に、走り抜ける。

 直前で地面を割りながら跳躍すると、一気に残りの二体へ距離を詰めた。一匹を上空から切り裂く。見上げた異形は首がごろりと取れた。地面へ着地しながら背後へ黒刃を振り抜くと、首の取れた胴体を真っ二つに切り裂いておいた。


「う、うわ、うわああっ!」


 振り向きざまに視線を向ける。

 壁際に追い詰められた男が、異形に迫られて声をあげていた。異形は口元からだらだらと粘液状の紫色の涎を垂らし、ただでさえ左右に大きく裂けた口を更に大きく開けて、頭を捕食しようと近づいていた。

 その背後から、黒刃を叩き込んだ。脳天から股の間まで、まっすぐに振り下ろされる黒刃。異形は一瞬その動きを止めてから、左右に裂けていった。身体からは粘液をひきながら、中からどろどろとした赤い血を噴き出させて左右へと倒れる身体。その向こうで、男が引きつった顔をしていた。


「あ……あ……」


 ドサリと音を立て、男がその場に膝をつく。

 ロマンは振り抜いた黒刃をゆっくりと引いた。軽くその刃についた血と粘液を振り払い、背中へ収納する。

 すると、物陰から深月が飛び出してきて、男の前へと立った。


「大丈夫ですか?」


 物陰から出てきた深月が声をかける。


「あ、ああ……」


 まだまともに話せないらしく、男はそれだけ言ってなんとか頷いた。

 男の対応を任せてロマンは後ろを振り向くと、転がっている人間へと視線を向けた。衣服はただでさえ汗や泥で汚れているのに、更に血でべったりと汚れていた。背中を一撃にされたらしい。


「こっちは死んでいるな」


 ロマンが足下に転がった人間を蹴った。ごろりと仰向けになる。目は見開いたままだった。まだ身体は柔らかく、死にたてのようだ。振り返った深月が若干微妙な顔をした。


「あ、ありがとう。助かったよ……」


 白人の男は安堵したように少しだけ笑った。一度体勢を整えてから、ようやく立ち上がる。金色の髪はやや伸びかけていているが、着ているものから判断するに兵士のようだった。とはいえほとんどの装備はどこかで落っことしてきたようだし、兵士にしてはやや筋肉量は少ない。

 男はふうっと息を吐いてから続けた。


「僕はダニー。元米軍所属のヒーラーだ。改めて礼を言うよ」


 最初その言葉を、二人は理解できなかった。


「……え?」

「は?」


 さすがのロマンもそんな反応を返すだけだった。

 なにしろ自称ダニーは、どこからどう見ても人間だったからだ。

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