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もう間もなく迎えが来ます

作者: 柳凪こゆり

誤字脱字ご注意ください。

『やった! 成功したぞ!!』


『これでこの国も安心だ!』


『聖女様バンザーイ!!』


等々、そんな言葉が耳を通り抜けていく。


 どこだここは。

 なんだか目が痛くなるくらいに煌びやかな場所に私、如月紫苑は尻もちをついていた。こんなギラッギラした場所知らない。え、今どきこんな私お金持ってますよアピールする成金みたいな人たちいるの?

 そもそも私はいつも通りに学校終わって生徒会の仕事終わらせて帰っていたはず。そこに突然知らない魔法陣が現れて気づいたら尻もちを……。

 ちょっと、今日見たいアニメがあったから急いで仕事終わらせたのに! もちろん録画してあるけどリアタイからしか得られないものがあるというのに! そしてその後ツッタカタ―で同志たちと感想を言い合って盛り上がるのが毎週の楽しみと言っても過言ではない! どうしてくれようか……!


「初めまして、美しい異世界の聖女よ」

「……ユルサナイ」

「え?」


 未だ尻もちをついた形で座り込んでいる私の前に、キンキラしている男が跪き手を差し伸べてくる。が、イケメンだろうと何だろうと私には何も響かない。むしろ見たかったアニメが見られず、また見るための努力も全部パーにされた恨みがソイツに行くだけだった。

 帰せ。今すぐ帰せ。元居た場所じゃアニメに間に合わないから家に。それぐらいのサービスはあっても良いと思う。てかここどこ。いや、さっきこの男が異世界のとか……。


「異世界?」

「はい! 私たちの国は今、危機に面しておりまして。しかし、文献によると国に危機が迫った時、異世界から召喚された聖女がその圧倒的な力で全てを解決してくれると! そして私たちは召喚魔法を使い、貴方様を召喚することに成功したのです! どうか、貴方様の力をお貸しください」

「あぁ、召喚と言う名の誘拐ね」

「は?」


 周りを見ればマヌケ面をした似たような顔をした人たち。何か目の前の男とか際立って豪華な服を着ている人もいるけど、顔の判別がつかない。あれだ、韓国アイドルを見てもみんな同じ顔にしか見えないのと同じ。顔が同じってアニメじゃ完全にモブだよね。まぁそんなこと言ったら自分と同じ顔した人は三人いるとか言うから世の中みんな揃ってモブ、ってことで? ならないか。


 じゃなくて。

 異世界転移。何らかの原因によって文字通り異世界に転移すること。それも方法が召喚魔法で理由が国を救うためとか、王道中の王道。でも、その実態はただの誘拐だ。

 しかしまぁ、これはこの国救うどころか逆に潰しちゃいそうだなぁ。何も考えず召喚する人選もしないから私を呼んでしまったのが彼ら。だから悪いのは彼らであって私ではない、よね?


「そっちからしてみれば国の危機で縋る思いで異世界の聖女を……! 心苦しいけどこれしか……!! って気持ちがあったのかも知らないけどあったところで結局やってることはただの誘拐だからね。召喚された側からしてみれば知らん場所によくわからん理由で誘拐されてしかも国を救うために力を貸せとかあまりにも都合が良すぎるわよ。おわかり? 誘拐は誘拐なの。犯罪。裁判なんていらない最初からギルティなのよ。え、もしかしてこの世界誘拐は犯罪じゃないの? そんな法整備なってないとここっちから願い下げよ。無理無理」


 私の止まらない言葉に、その場にいる者はポカーンと未だマヌケ面をしている。こういうのは喋るのをやめてはいけないのだ。相手の反応なんて無視しなければいけない。向こうに話すスキを与えない。冷静にさせてしまってはダメだ。そうなってしまえば私に勝ち目はない。私はただの16歳の小娘だ。そしてここはあちら側のテリトリーで、私を取り押さえるなんてことは容易い。まぁ、国を救う聖女(笑)だから手荒なことはしないだろうし、ある程度は融通が利く、と信じたい……。

 とにかく、今私がやるべきことは相手に考える時間を与えないようにしながら少しでも時間を稼ぎ、取り込まれることを阻止することだ。先手必勝。言ったもん勝ち!


「い、いや、誘拐は犯罪だが……」

「そう、ならよかった。何も良かないけど。大方戸惑う幼気な少女に優しく手を差し伸べて戻れないと知って悲しみに暮れてるところにそっと寄り添い待遇も国賓級、この国に情をわかせて力を行使してもらう的なとこかしら? 物語ならその少女は自分の世界では虐待されていたりいじめに遭っていたりしてよく考えるとこっちにいる方が幸せになれるんじゃないか、みたいな展開でこっちに留まる。それか友達もいるし帰りたいけど帰れなくて、だから腹括ってこっちで生きることを決める芯の強い少女、とか。そして少女は学校に通うことになるけど傍にはお目付け役で王子様とその取り巻きがいてチヤホヤされて彼らの婚約者の反感買うことになる。嫌がらせはみんなに隠すけどバレて「俺が守ってやるから!」「キュン……」で卒業パーティーとかで断罪式行って、聖女の力(笑)で国も救って二人は結ばれてハッピーエンド、ってな! あなたも召喚が上手くいったらそうやって嫌いな婚約者との婚約を破棄できないか、とか考えてたのではなくって?」

「そ、そんなことは……」

「え、ほんとにそんなこと考えてたの?」


 めっちゃ目泳いますけど。

 服装と見た目の年齢的に目の前にいるのがこの国の王子で、少し離れたとこに彼の反応を見て能面のような顔になった女の子がそんな彼の婚約者様なのだろう。


 ちなみに詳しく状況を説明すると、まず私がいるところは所謂謁見の間だとか言われる所だと思う。未だ座っている(もはや立つ気もない)床にはレッドカーペットがあり、その先には階段があり、高いとこからこれまた豪華な椅子(多分玉座)に座りながらこちらを見ているのが王様だろう。その横にいるのが王妃様かな。階段を降りて右側によく見たら王様と王妃様に似た顔をしている年齢様々な男女数人。そして目の前の男とかその婚約者とか左側にもそこそこ年齢の行ってる人たちとか多分その子どもたちがいる。王子(仮)と私を緩く囲むようにして立っているローブを着た人達は多分私を召喚した魔法師だろう。


 話を戻そう。

 王子(仮)がそんな馬鹿げた思惑を持っていたのは彼女もわかっていたのか、深く溜め息をついた。王子(仮)はそんな彼女の様子にも気付かず、ずっと目を泳がせている。まぁ、あわよくば私を恋人に、とか世界が滅びてもないけど。だって。


「残念ながらいくら好待遇でも優しくされても、私はあなた方に恋なんてしませんよ」

「え?」


 私が話させないようにしているとは言え、ずっと「え?」とか「いや」しか言われないのも何かウザく感じるな。


「私、婚約者いるので」


 顔の高さまで掲げた左手の薬指には、誰が見てもまず高いとわかる婚約指輪が嵌められている。


「少なくとも私は彼が好き。だから私がここで誰かを好きになることなんて絶対にありえない。例え元の世界に戻れない、彼にもう二度と会えなくなったとしても、私は彼以外選ばないし独身を貫く。待遇だってどうでもいい。私の家、そこそこお金持ちだから。悪いけど、物語のヒロインと私を一緒にしないで。虫唾が走る」


 ヒロインは好きじゃない。あんな理想論と感情論の頭お花畑な才能ある人間なんて、誰が好きになれると言うのか。


「お金持ちで好きな人との将来も決まってるなんて人生勝ち組じゃんキィーッ! とかよく言われるけど求められるものは多いし基準は高いしそれらを身に付けるためにどれだけ努力してると思ってるのよ! できたところでできて当たり前、褒めてくれる人なんて親しい極僅かな人たちだけ。それ以外は妬み恨み、よくわからない崇拝。やることなすこと嫌味に捉えられてはグチグチグチグチ。何もしてないのに嫌なことあればすぐ私のせいにして虐められてるのはこっちよ!」


 いけない、話が変わってしまっている。これはただの日頃の愚痴だ。

 でも、こうして爆発してしまうのも無理ないとも思う。だって本当に、意味が分からないんだもの。自分の生まれを恨んだことこそないものの、どうして、とはよく考える。

 ってダメダメ。向こうが落ち着きを取り戻し始めちゃってる!


「な、ならば「とてもよくわかりますわ!」シ、シンティア?!」

「私も、同じですわ!」


 瞬間移動でもしたのかと思う程の速さで王子(仮)を押しのけ、ずいッと身の乗り出すように目の前にきたのは能面顔だった女の子。


「上に立つ者として、誰よりも完璧に近くてはならないというのはわかっていても、人には向き不向きというものがありますわよね!」

「! そうそう! 私ができるんだからあなたもできる~とか、あの方はこれぐらい簡単に~とか色々違うだろ!! って思うよね!」

「わかります! 自分ができないことはあの人は公爵家だから、とか才能がうんたらとか! 才能があったところで極めるためにどれだけ努力していると思っていらっしゃるのか!」

「大変に決まってるよね! 夢に出てきて寝ても寝た気がしなかったりさぁ」

「あるあるですわね……。学院では身に覚えのないいじめを私のせいにされたり」

「むしろ常に陰口言われてる私たちが虐められてるよね」

「でも弱音を吐けるわけもなく……」

「私はまだ彼とか親友がいるけど……」

「ふふ、羨ましいですわ。私も昨年までは友人がいたのですけど、今は隣国に留学中で……」


 盛り上がった。大いに盛り上がった。

 仕方ないよね、自分とほとんど同じ境遇で同じ想いを持っていたらそりゃ話は盛り上がるよ。


 彼女の名前はシンティアと言うらしい。可愛い。

 公爵家の長女で、やはり彼女がくるまで私の目の前にいた王子の婚約者だった。なんと生まれる前から二人の婚約は決まっていて、未来の王妃になるべく厳しい教育を文句を言わせまいとばかりにさせられてきたのだとか。彼女は努力家だった。そもそも生まれた頃からそんなんだから努力することも何もかも、全てを『当たり前』として認識していた。けれど、彼女に弟が生まれ、弟が自分とは違いすぐに何でも熟しかつ大変褒められているところを見て、彼女の中の『当たり前』が崩れてしまった。公爵家長女であり、王子の婚約者という立場でなければシンティアは壊れていたと思う。逆に言えば、今のシンティアの支えはそれだけであるということだ。

 ……これ、召喚されたの私じゃなかったら完全にこの子悪役令嬢になってたよね? そして始まるストーリーだったよね?!

 いっそシンティアと一緒に帰れないかなぁ。頼んでみようかなぁ。


「シンティアは、私と一緒に来る気ない?」

「……へ?」

「いや、何でもない。あ、でも、もしそこの王子が嫌になって何もかも嫌になって自棄になったりしたらさ、呼んでよ。助けに来るから」


 シンティアの手を握ってとある言葉を呟く。


「え、これって……」

「おい、一体何をした!?」

「話が随分と逸れちゃったけど、まぁいい感じに時間稼ぎにはなったからオールオッケーかな?」


『何もオッケーじゃないよ、紫苑』


 場がざわつく。

「誰だ!」「なんだこれは!?」と周りを見たり、いつ何が起きてもいいように魔法を使えるよう構えたりしている。当たり前だ。ここにいる人にとっては聞き覚えのない男の声が、どこからともなく聞こえたんだから。驚きもせず平然としているのは私ぐらいか。


「シオン……?」

「よくある物語との相違点はいくつかあるけど、最たるものとして一つあげるのなら……」


 シンティアから手を離し、立ち上がる。ずっと座ってたから絶対スカート皺酷いなぁ。まぁこれくらいパパッと治せるけど。

 スッ、とスカートを翻す要領で手を振うとあら不思議! 皺はなくなり、まるでクリーニングに出して戻ってきた状態になったではありませんか! 地味かもしれないけど目に見える結果。

 うんうん、みんな驚いてる驚いてる。


「シオン!? あなたもしかして……!」

「そ、私の世界にも魔法があるのよ」


 と言っても、それもここ最近の話だ。元々魔法はファンタジーの話だったが、研究と進化を続けることで魔法を使えるようになった。魔法についての研究は未だ行われていて、新しい発見があれば新しい謎もでき、まだまだ発展途上だ。

 そして当たり前だが強者と弱者がいる。私の婚約者は圧倒的強者であり、保有魔力は計り知れない。そんな彼と婚約してるのが勝ち組と言われる一番の要因かもしれない。でも魔力云々なしに私は彼のことが好きだし、彼も私を好きでいてくれている。ちょっと……だいぶ愛が重いけど。

 だから、私がいなくなったと知れば彼は必ず動く。そして、たとえ私の居場所が異世界だとしても、全ての力を使って私を助けに来る。現に彼は私の居場所を特定し、既に声を届けることができる段階まで来ている。


「シンティア。さっきのはね、あなたが心の底から絶望したりしたら私にわかるようにする魔法だよ」

「なっ!?」


 コソコソッと周りに聞こえないように先程かけた魔法の説明をする。一応ちょっとした幻影の魔法を使ってカモフラージュもしとく。

 私は精神に関わる魔法、所謂精神干渉魔法が得意だ。精神干渉と聞けば一方的に魔法を使う側が相手の精神に何らかの影響を与えるものを思い浮かべるかもしれないが、その用途は他の系列魔法と組み合わせることで多岐にわたる。

 シンティアにかけたのは『特定の反応が起きたら魔法使用者に知らせる』という物理的伝達魔法を精神的伝達魔法にしたもの。

 そもそも精神干渉魔法なんて使える人も少なく、基本的に使用は禁じられている。シンティアの反応から、それはこちらの世界でも同じなのだろう。でも、これぐらいはいいよね?


「絶対、助けるから」

「シオン……ありがとうございます」


 シンティアは多分、この世界で頑張ると思う。だって、支えになるものがここにしかないから。今それを壊して連れてくことは私にはできない。本当は壊れる前に助けてあげたいけど、無理だから。壊れたその後は、私が助けてあげる。何だか上から目線な言い方だけど、気にしない!


 さて、私を中心に魔法陣が広がり、光が溢れ出す。


「そういえば自己紹介していませんでしたね」

『しなくていい』

「……改めまして、如月紫苑と申します。本来ならば、お見知りおきを、等と言うところですがシンティア以外よろしくもするつもり毛頭ありませんので」


 誰がよろしくするかっての。


「大丈夫です、もう間もなく迎えが来ます。まぁ、召喚と称して誘拐したのはそちらなので、何が起きても自業自得ですからね!」


 彼がここに来て何をするかは私にもわからない。

 でもこの国が、この世界がどうなろうと正直知ったこっちゃない。ただ、運が悪いな、可哀想だなとしか思わない。たった一人の異世界人に頼ってる時点でこの国は発展も進化もしないで終わるのだ。


 より一層光が強くなったところで私からも魔法陣に魔力を送り込む。

 ブワッ! と風が吹き、合わせて髪も踊る。気付けば私は抱きしめられていた。誰と確認する必要なんてない。私が一番安心する彼の腕だ。


「お待たせ、紫苑」

「遅い」

「ごめんね。流石に異世界は準備に時間かかった」


 ただいまお迎えにあがりました、俺のお姫様。


活かしきれない設定……。

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