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第2話 OK



「え? いいの!」

「そんなことでよければ、簡単ですよ」


 自分からOKしろと言っておいて、そんなに驚くことなのかと瞬は思った。


「で、どこへ行くんですか?」


 買い物だろうか? 荷物持ちをしろってことだろうと当たりをつける。


「どこへって、どこよ」


 少女のパッチリした目が、驚きを示してパチパチと瞬いた。


「付き合えっていうから。どこかに一緒に行って欲しいんでしょ? スポーツショップ? 図書館とか? それにしたって、わざわざオレに付き添いを頼む必要がわからないんですけど」

「ちがうの! 私のお願いしてる付き合っては、いわゆる、男女同士のお付き合い! 彼氏と彼女の関係になってっていうこと。OKって返事で良いのね?」


 両方の二の腕にしがみついてきた。


 フワリとした女の子の匂いがする。


 顔が近い! 近いから!


 しかし、美少女の勢いに圧倒されていても瞬はある意味、冷静だった。


「え? 当然、ノーですよ」

「ウソッ!」


『あ~ 松永さん、自分の美貌が通じなくて驚いてるんだ?』


 とっくに頭は切り替えている。ガードは冷静な判断力がないと務まらないからねと頭の中で瞬は自分に囁いている。


『どうせ、誰かがスマホを向けてるんだろ?』


 素早く辺りを見回したのだ。


『あれ? 動画撮影班とかいないわけ?』


 恐らく陰湿な仕掛けでもしているに違いないが、仕掛け役の人間が他に見当たらないのだ。あまりにも隠れ方が上手い。


 周囲へと目を配りながら、サバサバした口調で時間かせぎ。


「罰ゲームかなんかでしょ? 悲しいからやめときましょうよ。いくら美人でも男の気持ちを弄ぶのは、あんまりいいものじゃないですよ」

「違うの! 本気なの! 本気で好きなの! 罰ゲームだなんて、ひどいよ。そんなこと、アマネは、そんなひどいこと絶対にしないんだから!」


 松永天音は「だから、OKしてくれる?」と、あざと可愛い笑顔で見上げてきたのだ。


 さすがにたじろいだ。

 

『一体全体どうなってるんだよ』


 これが中学時代ならわかる。バスケ部のエースとして天才とまで言われたのだ。月に一度はコクられたし、三日連続で違う女の子から、というのもあった。しかし高校ではキャラが違う。


「ごめん。えっと、申し訳ないけど、信じられないっていうのが基本です」


 何しろ、接点がゼロで、瞬の身分は二軍どころか、メンバーに入っているのかすら怪しいレベルだ。


 何かの誤解、あるいは騙し以外に考えられなかった。


「オレと付き合いたいって思うような接点、なかったですよね?」

「あのね、たけるに聞いたの」

「たけるって?」

「あ、えっと、二階堂君よ。彼、隣の家なの。幼なじみってヤツ? 彼が大竹君のことをよく褒めてるの」

「え? まさか!」


 ない、それだけは絶対にないと、焦る。


「ホントよ。高校に入ってから、ずっとあなたのことを褒めてたの。それで私、なんとなく大竹君のことを見てたら、良いなって思っちゃって。ほら、勉強もできるし、人の見てないところで一生懸命仕事をしてるでしょ?」


 それにね、と天音はトーンを下げた。


「聞いちゃったの。その…… 事故のこと。子どもを救おうとしてって話」

「その話、多分、ウソですよ」


 誰から聞いたんだよ、その話と瞬は内心、ムッとした。


「え? そんなことないよ! だって健が言ってたんだもん。感謝していたんだよ、彼は!」

「二階堂が? ホントに、あいつがそんなコトを言ったんですか?」


 ありえない、と思ったのが最初に浮かんだ言葉。しかし、同時に『もしも本当ならば嬉しい』という気持ちも同時に浮かんでいたのだ。


 ずっと瞬の心にのし掛かっていた重圧だ。それが薄れるのだろうか?


「ね! それでOKしてくれるんだよね? わたし、あの、こ、こう見えても、けっこう人気あるんだよ! どう? お買い得だよ!」

「自分で自分をお買い得っていうのもアレなんですけど……」


 天音の言葉がなんとなく、ウソではない気がしたのは確かだ。中学時代に告白してきた女の子達の、あの雰囲気に近い。だが、どうしても「罰ゲーム疑惑」を消せないのが、今の自己評価でもある。


 目の前の少女が破格なほどに可愛らしければ可愛いほど、自分と付き合いたがると言うことが信じられないのだ。


 そこで、再度、頭の中が変化した。


『これが罰ゲームだって言うんなら、甘んじて受けるのもいいか。そうやって馬鹿にされるのも、オレらしいもんな』


 瞬の心は事故以来、すっかりねじ曲がっていたのだ。 

 

「はい。はい。わかりました。こちらこそ。若高三大美人からの告白、謹んで受けさせていただきますが」

「が?」

「あまりの幸運すぎて、現実かどうか定かでなくなってしまいました。つきましては」


 罰ゲームだと言うのなら、こんなのはしないだろ。


「どうぞ、告白相手に愛情の証しとしてキスなどいかがでしょうか?」


 そう言って左の頬を差し出してみせる。


『なんちゃって~ か? それとも、調子に乗るな か?』


「ちょ! ちょっと! 私、そんなに軽い女じゃないからね!」


 お怒りのご様子だ。


『ほら、やっぱり』


 皮肉な笑いを浮かべようとした左頬に、柔らかなモノがチュッと……


「え?」

「だ、だって、大竹君がしろって言うから! いっておくけど、男の人へのキスなんて、パパにする以外初めてなんだからね!」


 天音が真っ赤になっている。


 その表情を見た瞬間、『あ、これって本物の告白だったんだ』と直感した。


 しかし同時に「コイツはファザコンの残念美少女ってやつだぜ」と頭の中の誰かが囁く声を聞いた気がしていた。 



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