表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/50

第12話 悪評



 部室の外に置いた掲示板へ部員達が群がっている。


 その日の記録を一覧で、しかも、グラフをつけて張り出すようにしたのだ。短距離と中長距離の選手も偏差値で比較出来るようにもしてある。


 最初は自分の記録が公開されることに抵抗を示した部員達だ。しかし、なんだかんだ言ってた部員達も「キャプテンの言うことだから」と認めた結果、今では、部員達の楽しみの一つとなっている。


 最近だと、勝手に自分の目標を書き足したり、伸び方の違いを考えるようになってきた。何の勘違いか、折り紙で作った花で装飾しはじめる者までいる。


 なにはともあれ、自分の数字をお互いに認め合うのは切磋琢磨の第一歩。良い傾向だと瞬は喜んでいた。


 部員達も、自分の数字が誰にでも一目でわかるようカタチで張り出すという効果を認めたのか「さすがキャプテン」という声も出始めた。もちろん、発案も計画も実行も瞬である。


『まあ、オレのアイディアだと言ったら、きっと実現しなかったからね。それでいいや』


 こういう時に何かを言ってもトラブルになるだけだと思っているのだ。


 天音だけは、知っているし「これって彼のアイディアなんだよ」と言ってくれてる。誰も信じてくれないけれど、一人だけでも事実を知っていてくれれば、それで良いと思える瞬だ。


 いや、知っている人間はもう一人いた。


「ウソッ! 十秒以上も縮んでる!」


 記録表の前で声を上げた菅野かんの陽菜ひなだ。


「すごーい」

「ヒナ、やる〜」

「めざせ、アマネ先輩だね」


 同じ1年生に囲まれて笑顔となっている。それを遠くから見て、瞬はホッとしていた。


『やっぱり上手くいったな』


 瞬のコーチングの成果だ。


 本来、直接の指導をするのは健との約束違反となる。瞬もそのあたりはわりと律儀に約束を守っている。後から入ってきた部外者が口を出せば、上手くいかなくなることくらいはわかるつもりだ。


 その時は、陽菜がたまたま天音にアドバイスを求めた時に瞬が通りかかった。運命だったのだろう。天音は当然のように「見てあげて」と頼んだし、瞬にとって初めから嫌はない。


 その結果が、キャプテンに内緒のコーチングだった。もともとの分析も勉強もある程度は出来ていたし、メンタルや基礎トレまで含めてアドバイスした。


 陽菜は筋肉がつきにくい細身だ。短距離は体格的に限界がある。そう思った彼女は高校から中長距離に転向した。ところがなまじ中学時代に短距離の記録を出していたため、フォームにクセが残って伸び悩んでいた。


 そこで瞬の出番となったわけだ。


 確かにスピードは持っているが消耗も早い。短距離と長距離では走り方の基礎は同じでも、それなりに違いはある。そこでフォームを微修正してあげれば、トータルでは圧倒的に速くなることを瞬は見抜いていたのだ。


「でもね、菅野さんの走りはフラット走法と呼ばれる走り方でさ。時代は厚底シューズ全盛だろ? その走りは時代にピタリと合っているはずだからね」


 そんな風に励まして、後は癖を修正すれば良い。


 それには陽菜自身が自分のフォームを見つめるのが一番だ。ビデオで撮ろう。それを見ればわかるだろ、と作戦を立てたのは良い。


 しかし女子とは言え陸部有数のスピードを持った選手に伴走しながらの撮影は無理。そこで考えたのは「自転車」作戦だ。


 ハンドル部分にスマホを固定して後ろから追いかける。なにしろ瞬は片足でしか漕げない。とっても、とっても大変だったが、それなりに成果はあった。


 チェックすべき部分をリスト化しておき、本人にビデオを見せながらのレクチャー。


 効果覿面(てきめん)


 おかげで5千のタイムが走る度に更新されている。今では1年生で断トツ・トップになったし、このまま行けば、来年までにインターハイの基準タイムを超える! という期待までもたれるほどだ。

 

 陽菜のステータスは急上昇中。陸上の子によくあるようなウルフカットにも似たショートヘアが特徴のため、男女どちらからも人気が出ている。


 対して瞬には「ついに自転車で女の尻を追っかけて、動画を撮ってる」という悪評が立ってしまった。ウワサだからと放置していたため、教師に呼び出されたのが、今日のこと。


 部活の終わった後に職員室に寄るハメになったのだ。


 職員室の小部屋に呼ばれて、既に40分は経っている。


「じゃあ、どうしても猥褻行為だと認めないと言うことだな?」

「ですから、さっきの先生にも説明しましたけど、フォームがですね……」


 一人の教師に説明して納得させる。「ちょっと待ってろ」と言われて教師が職員室に戻る。しばらくすると他の教師がやってくる。


 その度にイチから説明することを繰り返して、もう四度目だ。


 いい加減「同じ事を何度も説明しているんですけど」と怒りを溜めつつも『先生も仕事だしな』と表情には出さないように努力していた。


 しかし、である。


「大竹。お前は優等生だが、ただでさえいろいろと良くない噂が立ってる。そのあたりも含めて聞いているんだが、お前の説明は上手すぎてね、何か特別なやり方で騙しているんじゃないかって疑惑があるんだよ。催眠術でも使っているのかね?」


 ビックリした。五人目に出てきた担任は大真面目で、そう言ったのだ。


「なんですか、それ?」


 瞬の帰りは遅くなりそうだった。

今日辺りから、更新がランダムになりそうです。

良かったらブックマークをよろしくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ