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第11話 策略 ~健~


 元々、天音とは仲が良かった。子どもの頃から一つの兄妹みたいなものだった。


 しかも、その時の天音には特別な事情ができたんだ。


 天音の父親が急に出て行って家の中が荒れ模様になったこと。あれだけ優しくて真面目そうなお父さんが急に出て行くなんて思わなかった。そして母親は冷たい目になっていた。


 おそらく浮気なんじゃないかな? 


 玄関先で土下座してる父親の姿が最後だったってのが近所の噂だった。


 わからないもんだよな。あんなに子煩悩こぼんのうで、天音のことをちょくちょく旅行に連れて行っては、うちにもお土産をくれた良い人だってのに。


 そもそも、渉と一緒になって年中お泊まりしたり、されたりの関係だった。三人でお風呂に入るのだって当たり前。兄妹みたいなもんだ。


 どうやら、両親は結婚してすぐに建て売りのこの家に越してきたらしい。同じ頃に引っ越してきた天音の両親とも、すぐに仲良くなったのだとか。


 健の父親は良く言っていた。


「オレが出張がちなだけに、松永さんと仲良くなったのは心強かったよ」


 両家は健達が生まれる前から家族ぐるみの付き合いだったわけだ。 


 それぞれの家に長男オレ長女アマネが生まれた。二人が仲良しになるのも当然だっただろう。


 オジさんもオバさんも、あの頃は優しかったよなぁ~


 ただ、オバさんは、もともと仕事が忙しい人で、しょっちゅう遅くなったし、家に帰ってこない日だって珍しくなかったもん。あれじゃ、オジさんだって浮気したくなるんじゃないの?


「健君のママには、ずいぶんお世話になったんだよ。ウチのが帰って来ないときは、よく晩ご飯を作りに来てもらったんだ。スゴく優しくてね。いろいろお世話してもらった。今でも本当に感謝してるんだ」


 そんな風にしみじみと言われたことも二度や三度ではなかった。


 でも、天音の親との交流がなくなったのは、ちょうど渉の事故があった後だよ。オジさんの顔をいつの間にか見なくなったのと、オバさんの顔が鬼のようになっていた。


 まあ、何があったのかとか、どっちが悪いとか。そんなことはどうでも良い。


 とにかく、その頃の天音は親の顔を見たくなかったし、オレは一人で居ると渉のことばっかり考えちゃってたってこと。天音だって、母親と会いたくないって言ってた。


 だから天音はオレの部屋に入りびたり、家に誰もいないときはオレが天音の部屋に入り浸った。


 ヤルことはただ一つ。


 勉強は苦手だったけど、とにかくひたすら二人で勉強しまくった。


 ちょっと不思議だったのは、オバさんの態度だ。その頃は、お互いの部屋に一日中籠もっていて、ついつい一緒のベッドで寝てしまったこともある。


 ウチの母親からはかなり厳しく釘を刺されたのに、オバさんからは何も言われたことがなかった。


 それだけではない。偶然開けた天音の引き出しに仰天した。「アレ」が置いてあったんだ。


 あまりの驚きで、さすがに固まってたら、慌ててオレの目から隠した天音は「違うんだからね」と動転したように言ったんだ。


「これは親が持ってなさいって言ったからなの。私、こんなのを他で使うつもりはないから!」

「いや、別に何も言ってないけど」


 オレの顔には、きっと「誰が彼氏だったんだよ」って書いてあったと思う。


「彼氏なんていたことないのは知ってるでしょ!」


 真っ赤な顔で早口でそれだけ言うと、その日は口をきいてくれなかった。


 もちろん天音に彼氏がいなかったのはオレが一番よく知ってる。あえて言うなら「彼氏」のポジションに近いのはオレだ。何より、オバさんもそれはわかってるはずだってこと。


 ってことは、オバさんがアレを天音の部屋に置いたのは、《《オレと使う》》ことを考えてのことだった可能性が高い。


 オバさんの仕事は雑誌の編集らしい。だからか? 娘に避妊具を渡して、男と二人っきりで家にいるのを認めていたってのは。


 ススンでるってことなんだろう。


 とはいえ、いったい何を考えているのか想像するのも怖くて、確かめる術はなかった。


 もちろん、復讐がすべてになってるオレにとって、親達の思惑なんて知ったこっちゃない。少なくとも、今はその時ではないのだから。


 目先の欲望よりも渉の復讐の方が大事に決まってる。


 結局、引き出しは二度と開けることはなかったし、あの話が出ることもなかった。その後、アレがどうなったのかも知らない。


 オレ達は必死になって勉強しまくったんだから。


 おかげで、オレも天音も無事に合格した。もちろん同じ学校だ。入学式まで、オレの姿がヤツの目に触れないようにするのに気を遣った。ここで逃げられたら何のために苦労したのかわからないからな。


 それと同時に、天音への「洗脳」を開始した。


 ヤツがどれほど「いい人」なのか。


 天音の頭をヤツのこと一色にする。けっしてそれを気取られぬようにしながらだ。


 オレの言葉が麻薬のように天音の心を染め上げたのは二年生になった頃。長い長い企みだったけど、もちろん、その間も、ヤツを孤立させるための手を打っておくのも全力だった。


 ヤツを孤立させて、唯一の「理解者」は天音だけという状態にするためだ。


 孤立させる方は完璧。

 

 ヤツのあだ名「キモ竹」は定着した。完全に陰キャだ。影で何をやってるかわからないネクラキャラ。


 女子更衣室を覗こうとしているというウワサも定着した。

 教室で女子の体育着を盗んで、ニオイを嗅いでるって目撃情報もウワサになった。

 毎晩、ネコの死体をイジっているってウワサはあんまり広がらなかったけど、一部の女子がネットに上げるまでにはなった。


 全部、オレの仕掛けだ。


 今ではヤツに話しかける人間はいなくなった。あいつが大好きなバスケ部も「キャプテンの女を狙ってる」ってな噂を真に受けたバカ達のおかげで、すっかり爪弾きだ。


 ヤツの高校生活は真っ黒になった。誰にも話しかけられない存在になった。作戦は順調だ。


 そして、天音がダメを押す。なんて言っても、暗い生活に現れた天使だぜ? ヤツも幸せの絶頂にあるはずだ。


 上げておいて落とす。


 今は幸せを噛みしめているんだろ? 楽しみだ。ここからどん底に落としてやる。


 天音には悪いと思ったけど、あいつはそのためのコマでしかない。


 オレの復讐は、ここからが本番だ。そのためにも、コマがちゃんと動くようにしなくてはならないのだ。







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