プロローグ 喪ったもの
辛かったけど真の彼女ができました。
普段は車がほとんど通らない道のためか、地元の人間だけが使う抜け道になっている。
配達のトラックは急いでいた。
「チッ、邪魔だよ、ガキ!」
男子中学生の塊が道の真ん中をふざけながら歩いているのが見えたのだ。
トラックは右からかわしてすり抜けようとする動きを見せ、察した中学生達は左に動こうとした。
その時だった。
ちょうど、横の急な坂道を猛スピードで下ってきた小学生の自転車があった。
坂の下にいた中学生達をよけようと車体を左に傾ける。中学生の後ろ側をすり抜けるつもりだったのだろう。
中学生の一人が、二つ軌跡が交錯することに気付いた。
『え? 止めないと!』
自転車と車。タイミングはピタリだ。角でぶつかる。
「止まれ!」
とっさに、身体を投げだすように飛び出していた。
急ブレーキの音が悲鳴のように響く。
立ち塞がる中学生の目の前で自転車が猛スピードのまま一回転した。乗っていた小学生は前方へと綺麗な弧を描いて飛ばされた。
地面に頭から激突する音は、中学生が自動車にぶつかる音でかき消された。
救急車がほどなくやってきた。
自分の脚があらぬ方向へと曲がっている中学生は、激痛の中、血まみれになりながらも小学生が乗せられた担架を気にした。
『良かった。あの子、助かったみたいだ』
別の担架に乗せられた小学生にほとんど傷が見えぬことを見てホッとした後で意識を失った。
高校バスケ界からスカウトの手が引きも切らなかった天才ガードは、少年を助けるために左脚を犠牲にしたことになる。
けれども、後で知ることになったのは残酷な結果だ。
頭をこすった傷だけしか見えなかった小学生は脳の深くで出血していた。翌未明、兄と両親に見取られながら、息を引き取った。
突然の事故で失った弟の命に、兄は怒りの行き先を求めようとしたのが後の話である。
カクヨム様にて完結した作品です。
R15バージョンで、描写が少々変わります。