たぶん日本最初の義兄弟
色々と調べていくうちに、たぶん日本初の義兄弟? を見つけたかもしれないのです。
前回「一騎討ち」の前後のお話になります。
調べものはWikipediaさんで。
義兄弟 (ぎきょうだい、ぎけいてい)
固い契りにより、血縁のない男性が、兄弟に等しい盟友関係となることである。
(Wikipediaより抜粋)
義兄弟と聞くと、桃の木畑で酒を汲み交わした三人の英傑のお話を思い出します。
日本神話においても、義兄弟と呼べる神がいたようです。
大己貴命 (オオナムチ) ……大きなナムルとキムチのことではないですよ? 後の 大国主 (オオクニヌシ)です。
そして、少名毘古那神 (スクナビコナ) です。
系譜をたどっていくと、 オオクニヌシ は イザナギ・イザナミ 夫婦の血縁であることが分かります。
スクナビコナ に関しては、「造化三神」といわれる 天之御中主神 (アメノミナカヌシ) 、高御産巣日神 (タカミムスビ) 、 神産巣日神 (カミムスビ)のうち、 タカミムスビ または カミムスビ によって産み出されたとされています。(注1)
「造化三神」に関しては、高天ヶ原に産まれた最初の神とされています。
インド神話の ブラフマー 、 ヴィシュヌ 、 シヴァ の三神を思わせますね。
創造神 ブラフマー。
維持神 ヴィシュヌ。
破壊神 シヴァ。
そのうち、 ヴィシュヌ と シヴァ は、世界を守るため、既存のものから新しいものを造るために、現世に干渉したりするところも似ているといえます。
(注2)
それはさておき、 オオクニヌシ の元の名前である オオナムチ 。
これは、 オオナ と ムチ に分けられるそうです。
オオナ は 大己 、これは「大きい兄」の意味で、兄弟のうち、上の兄のことです。
ムチ は、無知でも鞭でもなく、貴、つまり、貴い人の意味のようです。
それに対して、 スクナビコナ は、 スクナ と ビコナ に分けられるでしょう。
スクナ は 少名 と書き、オオナに対しての「小さい兄」、兄弟の下の兄を指すようです。
それなら、弟に当たる誰かもいたのかな? と思うかもしれませんが、年上の男性や立場が上の男性に尊敬や親しみを込めて「兄貴」・「兄者」と呼ぶ場合もありますよね。
つまりは、 名をつけられた段階で、オオナムチは「偉大な者になれ」という願を、 スクナビコナ は「偉大な者の下に付いて補佐をせよ」という命が込められているともとれます。
それだけに、特に オオナムチ の方は、八十神 (やそがみ) という兄弟たちからもやっかみを受けて散々な目に遭い続けたようです。
ただ、その度に、母である刺国若比売 (さしくにわかひめ)が、「高天ヶ原に昇り」、「神産巣日神 に願い出て」、生き返らせてもらったともあります。
「造化三神」は、神代の三代とあり、 イザナギ・イザナミ 夫婦の何代も前のそれはそれは古く偉い神です。
そんな偉大な神に願い出て聞き入れてもらえるあたり、この オオナムチ は、天津神にとって重要な存在ともいえるのではないでしょうか。
とはいえ、あまりにもひどい目に遭い続ける息子を哀れみ、母はおじさんの大屋毘古神 (おおやびこ)(注3)のところへお行きと送り出し、そのおじさんは 根の国……つまりは、黄泉の国へ隠れなさいと助言し単身向かわせます。
……つまり、死んだよ? って、フェイクニュース流したってことです?
ま、まあ、オオナムチ は スサノオ の血筋に当たる神ですから、ひどい扱いは受けないだろうと送り出された先では、根の国の主となった スサノオ から、開口一番、
「娘よ、アレは葦原の醜男であるぞ!」
(注4)
と呼ばれてしまいます。
けれど、 スサノオ の娘 スセリヒメ は、
「なるほど、葦原色許男神。お父様、素晴らしい言葉ですわ」
色許男 (しこお)……色男、今でいうイケメンですね。
死者ばかりの黄泉の国で、気難しい父の世話をしながら過ごす若い娘さんの スセリヒメ 。
父 スサノオ の言葉をうっかり勘違い。しかも、そのイケメン……オオナムチ……に一目惚れしてしまいます。
また、大層な名前を付けられた上に母の寵愛も一身に受けて育ったイケメンも、兄弟間のトラブル……というか、暗殺……ばかりで、まともな人間関係も構築できなかったようで、身を隠すために向かった先にいた若い娘さん(しかも超好意的)に、こちらもまた一目惚れしてしまいます。
父となった スサノオ 、そりゃあ面白くありません。
「ふんっ、床下の室にでも寝かせてやればよいだろうさ」
床下の室(注5)は造りが雑で、蛇が侵入するどころか蛇の住み処になっています。
一目惚れしたイケメンを案じた娘さん、蛇よけのスカーフを渡します。
それにより、一晩(兄弟たちからの暗殺の心配もなく)快適に過ごせたイケメン、家の主に礼儀正しく感謝します。
面白くない スサノオ 、あれやこれやと難題を言いつけます。
その難題を、娘さんと力を合わせて知恵を絞り乗り越えていくイケメン。
気難しい父もまた、イケメンのことを認めて秘宝の生太刀、生弓矢、「大国主 (オオクニヌシ)」の名を与え、娘も嫁に出してやりました。
……未来を創る若き者たちにエールを贈った スサノオ ですが、ちょっと心配になって高天ヶ原に連載を取ります。
「もしもし、こちらは根の国の スサノオ だ。(挨拶の定型文、略) アマテラス お姉ちゃ……んんっ! アマテラス さまに取り次いでもらえないだろうか」
しかし、受けた相手は始祖神といえる古き神でした。
たびたび訪れては願い出てくるあの者の母のことを考えると、今の オオクニヌシ には不安があるのも事実なようで。
「連絡ご苦労。こちらからも支援はする」
なんともそっけない態度ですが、事情は知っているようなので任せることにします。
はてさて、どうなることやら……。
地上、葦原中津国に帰還した オオナムチ ……いえ、 オオクニヌシ は、海の方から船に乗ってやってくる何者かを発見します。
その者、船から降り立つや、自らの素性を明かします。
「HeyYo! オレはスクナビコナだYo! お前を兄貴と慕ってヤルYo!」
奇妙な素材の衣服を身に纏い奇抜な姿勢で奇天烈なことを言うその者は、不審者そのものでした。
「……ごほん。実はな、あるお方の命により、そなたを補佐し国を造ることになった。名は スクナビコナ という。よろしく頼む」
なんだかよく分かりませんが、さらに事情を聞くと、自身の危機の際に母が願い出た相手が、今回もまた支援してくれたとのこと。
義父となった スサノオ だけでなく、天津神からも支援があったことを実感した オオクニヌシ 。
妻と、頼れる弟分を得て、気力に満ち溢れます。
その後は、自身を害しようとした八十神を討ち負かし従えて和議を結び、とうとう国を興すことができたのでした。
……しかし。
国家樹立と運営は、 オオクニヌシ と スクナビコナ が心血を注いで成し遂げたものでありますが、八十神や地方の豪族などは、和議を結ぶ際、多くの場合は、人質の代わりに女性を贈って オオクニヌシ の妻とすることで契りを結ぶ(服従する)手法が取られました。
そのため、 オオクニヌシ にはたくさんの妻と子が。
スクナビコナ は、共に偉業を成し遂げたものの、手にするものは特になく。
スサノオ の難事を共に乗り越え、国造りを支えてきた スセリヒメ は、多忙な夫から見向きもされなくなっていきます。
そうして訪れる、タケミカヅチ。
その、圧倒的な神力を前に、 オオクニヌシ は自身の役目が終わったことを悟ります。
それでも、交渉の末に、 スサノオ から賜った宮殿を修復してほしいとの要求に天津神側が応えたため、隠居することを受け入れました。
……しかし、国家樹立と運営のために産み出された スクナビコナ は、そうはいきません。
存在そのものを否定されたようなスクナビコナ。
後に両面宿儺 (りょうめんすくな)と呼ばれる遅効性の呪いを残し、入水(注6)することで神の去った後の世に災いをもたらすのでした。
おしまい。
(注1) : 造化三神。三柱とも性別のない神とされていますが、カミムスビ はどちらかというと女性、タカミムスビ はどちらかというと男性と描写されることもあるようです。
(注2) : ブラフマー 、 ヴィシュヌ 、 シヴァ の三柱の神に関しては、興味が湧いたらご自分で調べてみてください。
ブラフマー が世界を「創造」したあと、 ヴィシュヌ は人間や獣人などあらゆる種族・存在に転生し悪魔や邪神などを討ち滅ぼして世界を「維持」し、 シヴァ は不要なものを破壊してそこから新たなものを造り出す「再生のための破壊」を行うそうです。
世界を産み出したあとは不干渉な ブラフマー 、
人を世界を守るために、人や獣人などに転生し人と同じ目線で悪魔や邪神などを討ち滅ぼしては、次の敵のところへ行く ヴィシュヌ 、
人の営みのすぐ脇で、嫁さんの風呂を覗いては張り倒されている シヴァ 。
出張ばかりで1ヵ所に長くとどまることのない ヴィシュヌ に比べ、 シヴァ の親近感はハンパないようです。
(注3) : 大屋毘古神 (おおやびこ) 。
イザナギ の禊により産まれた邪神 オオマガツ と ヤソマガツ の別名でもあるものの、スサノオ の子である おおやびこ とは同じ文字ながら別の存在。
(注4) : 葦原色許男神。
色許男は醜男とも書かれるようです。
つまり、父 スサノオ は、「アレは不細工である」と言ったわけですね。
愛娘のお目々がハートマークになってるのを見て、「イケメン滅びろ慈悲はない」と言ったようなものですね。
……単純に、素材はいいのにズボラな父の負け惜しみでしょう。
(注5) : 室 (むろ)、野菜などの食料を保存する地下室のことですね。
以下、Weblio辞書参照。
1物を保存、または育成のために、外気を防ぐように作った部屋。氷室 (ひむろ)・麹室 (こうじむろ)など。
2山腹などに掘って作った岩屋。石室 (いしむろ)。
3僧の住居。僧房。庵室。
4古代、土を掘り下げ、柱を立て屋根をつけた家。室屋 (むろや)。
5古代、周囲を壁で塗り込めた部屋。寝室などに使用した。
(注6) : スクナビコナのその後の足取りは定かではないようですが、「常世の国」へ渡ったとされる説や、川に流されて行方知れずとなったなどの説があるようです。