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転生転移者の後始末~迷惑冒険者は本官たちが逮捕します!~  作者: 小坂みかん


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第3話 改めまして、はじめまして

「……というわけで、褒賞としてありがたく頂いてきたわけなんですけれども」


 尖り耳の美人さんのところに戻ると、先ほど拾得した金品を見せながら業務報告をした。美人さんはニコニコと笑いながら頷いて「ええ、お収めくださいな」と返してきた。


「あとで街を案内いたしますわ。換金所がありますので、そこで貨幣に替えたほうが、ここでの暮らしもしやすいでしょうし。……あと、エノ様。ヌトヌトしたままだと気持ちが悪いですよね。そちらを真っ先にどうにかするべきでしたわ。申し訳ありません」


 美人さんはしょんぼりと肩を落として謝罪すると、一転、気合い入れをするように錫杖をギュッと握りしめた。そしてエノ部長に向かって錫杖を振り振りしながら、呪文めいたものを唱えた。すると、あちらこちらギトギトになっていたエノ部長の体どころか洋服までもが綺麗さっぱり、元通りになった。


「うわ、ここ、本当に異世界なんですね。魔法があるだなんて……」


「はい、もちろん! ちなみに、今のは生活魔法・クリーンです」


「わあお、なろう系によくある便利なアレ、来たよこれ!」


 驚いて声をすぼめた私とは対称的に、テンションが高いエノ部長。いやだから、その”なろう系”って本当に何さ。

 じっとりとエノ部長を見つめていると、エノ部長がつまんなそうに声をかけてきた。


「お前、本当にお勉強と訓練しかしてこなかったんだね」


「失礼な。漫画くらいなら多少は読んでますよ。官舎でご近所の女性陣がおススメを回して来ますので」


「ちなみに、何読んでるんだよ?」


「オフィスラブが多いですかね? あとは、貴族の令嬢とか、悪役令嬢がどうのとか……」


 首をひねりながらそう答えると、エノ部長が食い気味に「それは”なろう”だよ!」と声をひっくり返してきた。どうやら、ご令嬢が主役の物語はエノ部長が言うところの”なろう系”というもののひとつらしい。……へえ、そうなのか。ぶっちゃけ、私は楽しく読めれば何でもいいんだけれども。

 何やらギャンギャン喚いている(多分、なろう系とやらを解説してる?)エノ部長を放っておいて、私は美人さんに尋ねた。


「クリーンなんて便利な魔法があるくらいですから、この世界では、やっぱり入浴や洗濯などの習慣はないんですか?」


「いいえ。長旅で近くに水場もないというときくらいですわ、こういう魔法を使うのは。魔力もマンパワーと同じで、有限ですからね。無駄遣いできませんもの。……というわけで、この神殿には洗濯場も浴室もありますし、寝所もきちんとありますので。安心して、拠点として使用なさってくださいましね」


「……そうだ! それですよ! そういう話をしている最中にパーポ君に指令出されたんだった!」


 ハッと息を飲むと、私は美人さんに詰め寄った。美人さんは一瞬驚いてビクッと身じろいでから、気を取り直したかのように笑みを浮かべた。


「改めまして、はじめまして。わたくしは転生転移者を出迎えるための、この神殿を管理しております神官・フィリアと申します。僭越ながら、”最後の勇者様”であるエノ様、クラ様のサポートもさせていただきます。よろしくお願いいたします」


 銀色の長髪をたなびかせて品よくお辞儀をするフィリアさんに、私もぺこりと頭を下げた。


「倉本桜子です。”クラ様”って、なんだか慣れないので、倉本か”サクラ”って呼んでください。仲のいい人はみんな、私のこと、”サクラ”って呼ぶんで……」


「かしこまりました。では、サクラさんとお呼びさせていただきますね」


 にこりと微笑んだフィリアさんに、エノ部長はだらけきった笑顔で挙手した。


「俺は榎木田純一です。ジュンジュンって呼ばれたい──」


「黙れよ、ポンパリーゼ」


 あまりにもアホなことをエノ部長が言いかけたので、思わず暴言を吐いてしまった。案の定、エノ部長は被害者ぶって大仰に悲しげな態度をとった。


「ポンパリーゼって何!? 新手の悪役令嬢か何か? ていうか、俺、お前の上司! それなのに、何、その態度! ひどくない!?」


 ちなみに、チョココルネとかクロワッサンみたいに頭頂部が膨らんでいるのがポンパドール。撫でつけた側頭部の髪が後ろでIの字型にくっついているのがリーゼントと言う。”ポンパドールにリーゼント”というのは、いわゆる、ヤンキーやゴロツキ、あとはゴリゴリの刑事さんなんかが好むヘアスタイルだ。それを、私は略して”ポンパリーゼ”と言ったわけである。なお、エノ部長は二世警官で警察官臭がムンムンなので、この髪型を気に入っているらしい。だけど、ここだけの話、エノ部長は若干童顔で可愛い系の面構えなので、この髪型は似合ってないんだよね……。


「あの、この人のことは”エノ”でいいんで。大抵の人がそう呼んでますから」


 うるさいエノ部長を放っておいてフィリアさんにそう伝えると、エノ部長がまた駄々っ子になった。


「さっきから何なの!? 桜子ってば、時々ワタシに塩対応するわよね!」


「何キャラだよ。上司なら上司らしく、相応の態度でいてくださいよ」


 本当にもう、何なんだろうな。この人、仕事だけはできるのにな……。その評判を前々から聞いてたから、ペアに抜擢されたときは嬉しくて仕方なくて、いっぱい学ばせてもらおうと思ってたのに。なのに、この数か月、何度残念な気持ちになったことやら。

 

 仕切り直しという感じで、私は咳ばらいをひとつした。そして心を落ち着かせると、フィリアさんにいろいろと質問をした。それによると、私たちは今、元の世界では意識不明の重体らしい。魂だけを召喚し、受肉して、今、この世界に存在しているということだそうだ。ちなみに、向こうよりもこっちの世界のほうが時間の流れが早いみたいなので、こちらで与えられた任務をこなしている間にあちらでは何か月、何年と経つことはないだろうということだった。元の世界の感覚的に”そこそこすぐに帰れそうだ”というのは、実にありがたい。

 また、呼ばれた理由は先に聞いていた”転生転移者の捕縛”だけでなく、勇者たちが討ち漏らしたモンスターの処理をお願いしたいからということだった。まあ、簡単にざっくりと言うと〈魔法討伐後の後始末(・・・)をお願いしたい〉といったところか。


「要するに、普段の職務と同じことをすればいいんですね。巡回して、不審者に職質かけて。逮捕して。たまに動物の相手して……」


「ここを拠点にしていいってことは、さしずめここは交番か駐在所ってところか」


「なんか、そう考えると、本当に普段通りですね。……ていうか、やるべきことは分かったんですけれど、私たちはどうやって元の世界に帰るんですか? 転生転移者を元の世界へ帰す方法って、私たちの持つ特殊スキルとやらしかないんですよね?」


「ということは、俺らもそのスキルで帰るしかないんじゃないか?」


 む、と私は黙り込んだ。そもそも、私たちの特殊スキルって何だろう? 多分、さっきレベルが上がった真空斬は、それとはまた別モノっぽいし。

 それにしても、元の世界では、意識不明の重体かあ……。お母ちゃん、心配してるだろうな。だから、早くこっちの案件を片付けて──


「早く元の世界に帰って、お母ちゃんを安心させてあげたい……!」


 拳を握りしめながら、私はポツリと心の声を漏らしてしまった。すると、エノ部長がぼんやりとした口調で言った。


「俺は、せっかくだから傷も完全に癒えて『あとは意識が戻るだけなんですけれど……』って医者がこぼすレベルになってから帰りたいな。だって、痛くて苦しいのは嫌だし。それに、どうあがいても、戻ったら地獄のリハビリが待っているだろうしさ」


 たしかに、と思えてしまい、一瞬「うっ」と声が出てしまった。……いやでも、お母ちゃんが心配する日々を、なるべく短く済ませてあげたいんだよ、私は!

 私は頬をベチンと叩いて「頑張るぞ!」と気合を入れた。そんな私を眺めながら、エノ部長がフウと息をついた。


「ところでさ、そうなってくると、いつまでもステゴロは無理があるよな」


「確かにそうですね。せめて、警棒を装備したいなあ……」


『”けいぼう”の装備可能レベルは、レベル5からです』


 出し抜けに、パーポ君(神)がそう言いながらプクッた。エノ部長は「あ゛?」と呻いてパーポ君(神)にメンチを切ると、ふざけんなとばかりに振り下ろし気味のフックをパーポ君(神)にお見舞いした。……いやいやいやいや、だから、それ、一応神だから!


『エノキダはパンチングのレベルが2にあがった』


 いやいや、神もそれでいいんかい! 床に叩きつけられてからの、バウンドの最中にそういうこと、言う!?

 ……そんなわけで、私たちの業務は当面、害獣対応がメインになりそうだ。拾ってきた木の棒だけじゃ頼りないし。早く、警棒を装備できるようにならないと。トホホ……。

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