第2話 害獣対応
『ここより南東500メートル。至急、対応されたい。どうぞ。至急、対応されたい。どうぞ。至急、対応され──』
ガクガクと上下に震えながら同じことを繰り返すパーポ君(神)の体を、エノ部長はメンチを切りながらギュッと握りしめた。
「もう分りましたから、一度黙りやがれ。どうぞ!」
パーポ君(神)は不満げにシュンと縮んで元の大きさに戻り、静かになった。それを、ポイッとどこへともなく投げ捨てるエノ部長。……やばいな、この人。元々、怖いもの知らずで上官にズケズケと意見を言うようなところあったけれど、まさか神様相手でも相変わらずとは。そこに痺れはするけど、憧れない。
私は面倒くさげに肩を落とすと、ため息をつきながら言った。
「さっきの話から考えると、私たちは転生転移者の対応で召喚されたんですよね? ということは、今から臨場する現場にさっそく転生転移者がいるということでしょうか?」
「俺、つい直前まで防弾チョッキに警棒、拳銃と、わりと重装備めだったのにさ。今の手持ち、何故か警察手帳だけなんだけど。不審者対応をステゴロでやれってか」
同じく、面倒くさそうにため息をついたエノ部長。……でもさ、エノ部長。あんた、血の気っぱやくてステゴロなんてしょっちゅうじゃないですか。そう考えたら、全然イケる気がしてきたんだけれども。
しかし、私の希望を打ち砕くように、いつの間にか帰ってきていたパーポ君(神)が再びしゃべり始めた。
『一般人がモンスターに襲われている。至急、救助されたい』
「はあ? モンスター!?」
「めちゃめちゃ俺らの召喚目的から外れるじゃん! そういうのは地元の自警団などが対応してください、どうぞ!」
『地元の自警団は現在、全員出払っている。よって、貴局が対応されたい。どうぞ』
「ふざけんな、どうぞ!」
『至急対応されたい、どうぞ』
エノ部長は奇声を上げながら頭を掻きむしった。私も、ブーイングを上げながら地団太を踏んだ。しかしながら、パーポ君(神)は私たちを若干見下すかのようにプクり上げあそばしながら「至急対応されたい」としか言わない。
エノ部長がおよそ一般人には聞かせてはいけない罵詈雑言を吐き散らしたあと、私たちは渋々現場へと臨場することにしたのだった。
現場に到着してみると、行商っぽい感じの男性が大きなスライムの塊に飲み込まれかけていた。
「げっ、液体!? あれをどうやって素手格闘で処理しろと?」
思わずそう漏らした私を顧みることなく、エノ部長は男性へと近づいて行った。
「だっ、誰か! たたた助けてぇ……!」
「大丈夫です、落ち着いてください。今すぐ助けますからね」
おぉ、さすがはエノ部長。なんだかんだ言って、立派なポリスメンモードに切り替わっている。
エノ部長はためらうことなく右腕をスライムの中に突っ込むと、男性の着衣に手をかけたようだった。そして、男性が振り回している腕を左手でとると、力いっぱいに一本背負いしようとした。
「ぐ、ぬ、おおおおおおお!」
「部長、そんなんで引っこ抜けますか!?」
「今できる最善のことをするしかないだろ! お前も、ただ見てないで、棒でも何でも、使えそうなものを探して来いよ!」
被害者男性に向かって何度も一本背負いをキメにかかろうと、エノ部長はもがき喘いでいた。ペア長が最善を尽くしているんだ、私も頭と体を動かさないと……!
辺りを見回してみたところ、ご丁寧にも、木刀よりはやや太い木の棒が落ちていた。私はすかさず、それに手を伸ばした。
『クラモトは”きのぼう”を手に入れた!』
なんか今、変な実況が入った気がするけれど。気にせず、私はエノ部長の元へと駆け寄った。
「おおおおおお! どっせい……ッ!」
タイミングよく、エノ部長が被害者男性を投げ飛ばしてスライムから引っこ抜き、その横を私は颯爽と突っ込んでいった。
「めえぇぇぇぇぇん!!」
私がスライムに面打ちを食らわせた瞬間、エノ部長は精一杯目を見開いた、ポカンとした表情で私を見つめていて。私はというと、ぐにゃりとした手ごたえを一瞬感じてウッと顔をしかめて。でも、そのまま振り切れる感じがしたので、一気に棒を振り下ろして。そしたら、なんか、風が刃みたいになったものがブオンッと飛んでいくのが見えて。
スライムは、ゆっくりと音もなく、左右に真っ二つに割れた。少しして、ズズンと重い音を立てながら地面に崩れていった。しかも、スライムは崩れた端から宝石や金貨などの貴金属類に変化していって……!?
「部長、本件は害獣対応に当たりますか? それとも、拾得物対応???」
「いや、落ち着けよ、倉本。そんなことよりも、今、お前、スバアァッとなんか出さなかった!?」
驚いてトンチンカンなことを言い始めた私に、慌てふためくエノ部長。そんな風に私たちがアワアワしていると、被害者男性が声をかけてきた。
「助けていただき、ありがとうございます! もしかして、あなた方は魔王討伐直前とかに召喚されて、活躍する機会がなかった勇者様ですか?」
「えっとですね……」
答えに窮していると、男性は勝手に「自分が尋ねたことが正しいのだ」と判断したのだろう、ニコニコ笑顔のまま話を続けてきた。
「魔王が創り出したモンスターは、金品を核にして作られているんです。だから、倒すと宝石や金貨に戻るんですよ。そして、勇者様たちはそれを元手に装備を整えたり、生活の糧になさったりしていました」
「わあお、RPGゲーム風味」
エノ部長の返答に、男性と私は首をかしげた。
「いや、お前も首をかしげるんかい!」
エノ部長は勢いよくツッコミを入れてきたけれどさ。そうは言われても、知らんものは知らんだよ。
救助した男性は感謝の言葉と「なので、その宝石は勇者様がもらってくださいね」ということを言い、この場を去っていった。そして何度もこちらを振り向いては、嬉しそうに手を振ってくる男性に手を振り返し続け、ようやく男性の姿が見えなくなったころ、今まで静かにしていたパーポ君(神)から突然ファンファーレが鳴り響いた。
『パンパカパーン! エノキダはレベルが2にあがった。スキル〈背負い投げ〉のレベルが2にあがった。攻撃力・防御力などは以下省略』
「え、この神、わざわざ何かに配慮して、NPCが去るのを待ってた?」
エノ部長が引き気味にそう言うのを気にすることなく、パーポ君(神)は嬉しそうにプクった。
『クラモトはレベルが2にあがった。スキル〈真空斬〉のレベルが2にあがった』
「真空斬……?」
あれか? 木の棒を振り下ろしたときにズバッと出たアレ。あれのことかな?
そんなことを考えながら私が首をひねると、エノ部長は愕然とした顔で私を指さした。
「おま……お前だけ、なんかズルくない? 何、その真空斬って。あのズバッて出たやつ? どうして? ねえ、どうして、俺はごく普通の〈背負い投げ〉で、お前はそんなRPGめいたカッコイイ技を──」
「いや、知らんし。あれじゃないですか? 有段者特権みたいな?」
「ズルい!!!」
子どものように駄々をこねる部長を放っておいて、私は地面に転がる貴金属を拾う作業に入ったのだった。




