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転生転移者の後始末~迷惑冒険者は本官たちが逮捕します!~  作者: 小坂みかん


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第1話 至急、対応されたい

 私、倉本桜子は人質になっていた。立てこもり事件に巻き込まれた一般人を解放してもらうための条件が〈一般人と新人女性警官との交換〉だったからだ。被疑者は新人かつ女性警官ならば貧弱で扱いやすいだろうとでも思っているんだろう。しかし、私は剣道の有段者だ。……とはいえ、後ろ手錠された状態では、私になす術はなかった。しかも、絶望的なことに、犯人はコンロを空焚きして室内にガスを充満させている。

 窓の外に、ペア長の榎木田純一巡査部長の姿が見て取れた。私を救い出そうと、今にもガラスを割ろうとしているところだった。

 割られたガラス。驚いて振り返った被疑者。その被疑者の手から、火のついたライターが落下して──


「エノ部長! 逃げて!」


 私が叫んだのと同時に、室内は大爆発を起こした……はずだった。けれど、私の身に実際に起こったことは違っていて──


「ようこそ、勇者様! 我らが世界・ランドルトへ!」


 視界が一瞬(しら)んだあと、薄暗いどこかへと瞬間移動のように拉致されて、後ろから声を掛けられた。振り向くとそこには、錫杖みたいなものを持った耳の尖った美人さんが微笑んで立っていて、その傍らではエノ部長がだらしない笑顔を浮かべて「勇者だなんて、そんな」と謙遜しつつ、美人さんのことを口説きにかかろうとしていた。


「エノ部長、明らかに不審者です。ナンパではなく、職質をしてください」


「バッカ、お前、真面目にもほどがあるだろ。アレ(・・)からのコレ(・・)だぞ? 漫画なんかによくあるヤツしか考えらんないでしょ」


 呆れる私に、エノ部長も呆れた調子で返してきたけれど。いや、ごめん、よう分からん。漫画なんかによくあるヤツって何さ? ……そんなことを考えていると、尖り耳の美人さんがニコニコと笑みを湛えたまま、エノ部長に向かって言った。


「さすがは勇者様、博識でいらっしゃいますわ!」


「ほらね!」


 エノ部長はドヤッたが、私には本気で何が何だか分からなかった。


「いや、ほらねじゃないし」


「えっ、お前、マジで分からないの? いわゆる、なろう系ってやつなんだけど」


「全然分かりません」


「ッかー! これだから、お勉強と訓練しかしてこなかったエリートちゃんは! ……いいか? 俺らは、異世界に連れてこられたってわけ。爆破直前で転移したか、爆発で死亡ののちに転生したかしてさ」


 一瞬、エノ部長が何を言っているのか理解できなかった。だけど、エノ部長の隣に佇んでいる尖り耳の美人さんが部長の言葉を肯定するようにウンウンと頷いている。私は事態をやっとこさ飲み込むと、顔を青ざめさせて叫んだ。


「行方不明か、二階級特進ってことですか!? やだー! お母ちゃんに『初ボーナスは新車に買い替えるための頭金に使ってね』って約束してたのに! まだその約束も果たせてないのにー!!」


 わんわんと泣き喚く私に、美人さんが胸を張った。


「大丈夫ですわ、勇者様! 神は仰っておいでです。『まだ、死んではいない』と」


「……グスッ、……ウゥッ。……どの神がよ」


「この神です!」


 美人さんが手のひらで指示したほうに目を向けると、どこからともなくパアと光が差し込んできて、うやうやしい雰囲気で手のひらサイズの何かがスウッと天から舞い降りてきた。……どこからどう見ても、我が県警マスコットのパーポ君にしか見えなかった。


『神よりエノクラ。至急、対応されたい』


「やだ、この神、警察無線しゃべりする……」


 思わず、私もエノ部長もハモッてしまった。だって、嫌じゃない? こんな、ゆるキャラのはずなのに可愛らしさをどこかに紛失してきてキモさだけが残ってしまった神様なんてさ。しかも、話し方が警察無線……。

 げっそりとする私たちに構うことなく、美人さんが解説をし始めた。


「我が世界・ランドルトは悪の魔王により混迷を極めましたが、外界より召喚されし勇者の手により平和を取り戻しました」


「ねえ、お姉さん。さっき、俺たちのこと、勇者って言ったよね? 平和になったのなら、俺たち、要らなくない?」


「ですが、召喚されし勇者たちの大半が、神より賜りし特殊スキルを悪用して、この世界の真なる統治者となると宣言し、ここそこで暴れ始めたのです」


「うっわ、最悪。ていうか、勇者、召喚し過ぎでは? そもそも、自分の世界のことは自分たちでどうにかすべきでは? というか、外界のサポートが必須な形で世界設計をした神に問題があるのでは?」


 私たちのツッコミをものとものせず、美人さんは話し続けた。


「しかしながら、私たちには勇者をどうこうできる力がありません。ですので、どうこうできる(・・・・・・・)特殊スキルを持った勇者を新たに召喚したというわけです!」


「はい……?」


 私たちが首をかしげていると、例の神とやらが上下にブブブブと小刻みに揺れた。


『神よりエノクラ! 至急、対応されたい! ここより南東、500メートル先に向かえ! どうぞ!!』


 苦い顔をして、パーポ君(神)を見つめる私とエノ部長。すると、パーポ君(神)が少しだけプクッと膨らみ、より一層ガクガクと揺れに揺れ、圧をかけてきた。


『至急、対応されたい! 至急、対応されたい!!』


「さっそく出番ですよ、勇者様!」


 グッと親指を立ててウインクをしてくる美人さん。……いや、グッ☆じゃねえし。


「ほらほら、エノ様! クラ様! 神からのご宣託に従って! さあ!!」


「いや、あの、まだ聞きたいことが山ほどあるんですけれど……」


「それは、帰ってきてからまたお聞きしますから!」


 ぐいぐいと背中を押され、私とエノ部長は建物の外にポイッと放り出された。……至急対応されたいと言われましても、何をどう対応すればいいのさ? はあ……。

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