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エピローグ

 詮議の後、一度辺境伯領へ戻ったセシリアがウェールズ子爵家を継ぐため王都へ帰ると聞いた伯父一家は泣き崩れた。文字通り全員が床に突っ伏して号泣したのである。

 彼らは一頻りむせび泣いていたが、結局セシリアが幸せならばと渋々ながら納得してくれた。

 その後、何故かカインが従兄達と一緒に涙と鼻水に塗れた絨毯を洗わされたのだが「ジジ様の嫌がらせによく耐えたな」と労われていたのを見て、知らなかったのは自分だけだったのかとセシリアは頭を抱えるはめになったのだが。


 そうして王都へ戻る馬車の中、セシリアの横へ座っていたカインが突然ガバっと頭を下げた。


「あの女が騙されて毟りとられたお金だけど、ごめん、ほとんど取り返せなかった」

「え?」

「義母の行動をアリーから聞き出して、酒場の男を捕縛したまでは良かったんだけど、使い果たした後だったみたいで……」

「そうですか。でも、それは仕方がないことです。元々出て行ってしまったお金を取り戻せるなんて思ってなかったので気にしないでください」


 眉尻を下げるセシリアにカインは項垂れる。

 そんなカインを見てセシリアもまた頭を下げた。


「私の方こそ……勝手に逃げた挙句に婚約解消しようとして、ごめんなさい」


 俯き、ぎゅっと握りしめたセシリアの両手をカインが優しく包み込む。だが紡がれた声音は酷く落ち込んだようなボソボソとしたものだった。


「うん。セシリアが出奔したから手に入った証拠もあるから一概に責められないけど、君に捨てられた時は死んでしまいたいくらいに絶望した」

「死んでしまうなんて大袈裟です……」

「大袈裟じゃないよ。君がいなくなったら、生きている意味がない。私の生殺与奪の権利は全てセシリアが握っているんだ」

「カイン様……」


 これまで無表情だったことが嘘のように喜怒哀楽を見せるカインに、正直に言えばセシリアは少し戸惑っている。でもそれは幸せな戸惑いで、セシリアが照れながらも微笑めばカインもまた嬉しそうに微笑んで甘い言葉を囁く。


「愛してるセシリア。もう二度と離さない」

「私も、愛しています」

「セシリア……! やっと、やっと聞けた。幼い頃は会うたびに好きだって言ってくれたのに、ここ最近は全然言ってくれなかったから、ずっと不安だったんだ」

「不安だったのですか? カイン様が?」

「それはそうだよ。辺境伯との約束で私からは好きだと言えないし、すごくやきもきした」


 キョトンとするセシリアにカインは真面目な顔で抗議したが、すぐに甘い笑みを浮かべる。


「これから今まで我慢していた感情や想いを、余すことなくぶつけていくから覚悟してて? セシリアが私を捨てたいと思っても食らいついていくからね」


 悪戯っぽく笑うカインに、セシリアはふとスカートのポケットに入れていた栞を取り出すと苦笑をした。

 この栞を渡せなかったあの日、セシリアは絶望したのだ。まさかカインが同じように不安に思っていたなんて考えもせずに。

 セシリアが取り出した物を見てカインが首を傾げる。


「それは、栞?」

「はい。ずっと前にカイン様に渡そうと思っていたんですけど、色々あって。でも捨てなくて良かった」

「私に? 今からでも、もらうことはできる?」

「いえ、すっかりクシャクシャになってしまいましたから新しいものをご用意いたします」


 困ったように笑うセシリアへカインが詰め寄る。


「これが欲しい。だめ?」

「だめではないですけど……」

「今までも、これからも、セシリアからプレゼントと愛の言葉をもらうのは私の特権だから。誰にも、セシリアにだって譲るつもりはないんだ」


 そう囁いて栞を掴んで大切そうに懐へ入れたカインは、セシリアの髪を撫でながら自分の方へ抱き寄せると、甘く柔らかく細められた群青の瞳の奥に、少しだけ欲情を灯して蕩けるような笑顔を向ける。


 詳細な罪状は明らかにされていないが、国に重大な危機をもたらし降格になったと噂されるウェールズ家を悪し様に言う者もいるだろう。

 しかし、この笑顔が隣にある限りもう逃げ出すことはしないと心に誓って、セシリアは自分に向かって微笑むカインへ笑い返したのだった。

最後までご高覧くださり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] おもしろく読ませていただきました。 あらすじに書かれていたある登場人物に嫌悪感を抱くとの指摘〜というのが誰なのか気になりつつ読んでましたが、なるほど、お祖父様かーと途中で思いました。 本…
[良い点] 祖父の対応は「世代間の相互不理解」案件ですし、ぶっちゃけ祖父は今後生涯セシリア守り抜くしかない。 セシリアに万一何かあったら即家族全員に殺されるほどの恨みを、既に買ってるので絶対楽に死ねな…
[一言] すまない、お金を取り戻せなかったにたいする主人公の言葉 《気にしてません、取り戻せるとも思ってなかった》 自分が汗水かいて働いて払った血税じゃないし、所詮自分は搾取する側という傲慢さが良く…
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