リバース
朝、テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが
「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言った。
その言葉で、かれは、思いだした。
自分のなすべきことを・・・。
ニュースキャスターの一言が、滅亡へのトリガーとなった。
かれは、つぶやいた。
「今日は、一日休むとしよう。
明日から、いろいろな作業を、たくさん、こなさなければならないのだ。
英気を養っておかなければ、途中で倒れてしまうであろう。私は、最初か
ら最後まで倒れることなく、作業をしなければならぬがゆえ。」
かれは、一日中、寝て過ごすことにした。
夕となり、また朝となった。第一日である。
かれは、つぶやいた。
「家畜と這うもの、地の獣、そして人間を地に戻そう。」
この世界から、すべての人間、家畜、地表の動物、地を這うものたちが、
土へと還っていった。
世界は、喜んだ。
害悪である人間が、いなくなったから・・・。
そして、世界は、嘆き、悲しんだ。
人間以外の地表に住む愛しいものたちが、いなくなってしまったか
ら・・・。
夕となり、また朝となった。第二日である。
かれは、つぶやいた。
「水に住むものは、水に戻し、翼あるものは、天に戻そう。」
この世界から、水中にすむ生物は、水へと還り、空を飛ぶものたちは、
天へと還った。
世界は、嘆き、悲しんだ。
水の中を泳ぎ、空を飛ぶ愛しいものたちが、いなくなってしまったか
ら・・・。
夕となり、また朝となった。第三日である。
かれは、つぶやいた。
「大きい光と小さい光をなくそう。そして、星をなくそう。」
世界のまわりの宇宙が消え失せ、世界は、虚無に囲まれた。
世界は、嘆き、悲しんだ。
世界のことを温かく、そして、慈しみを持って、照らしてくれるものた
ちが、いなくなってしまったから・・・。
きらきらと美しく輝くものたちが、いなくなってしまったから・・・。
夕となり、また朝となった。第四日である。
かれは、つぶやいた。
「乾いた地を、天の下の水で覆うとしよう。」
世界のすべての大地は、海に飲み込まれ、水没した。
世界は、嘆き、悲しんだ。
美しい花や木たちが、大地と共に沈んでしまったから・・・。
夕となり、また朝となった。第五日である。
かれは、つぶやいた。
「天をなくそう。」
世界から大気がなくなり、世界を覆っていた水は、周りの虚無へと吸い
込まれていった。世界は、岩の塊になった。
世界は、嘆き、悲しんだ。
天の衣を引き剥がされ、その身を、さらすことになったから・・・。
夕となり、また朝となった。第六日である。
かれはつぶやいた。
「朝と夜をなくそう。」
分かれていた朝と夜は、再び、ひとつにまとまり、強い光を放った。
かれは、そっと、その光を両手で覆って、つぶやいた。
「光よ・・・消えよ・・・。」
世界は、嘆き、悲しんだ。
ついに終わりの時が来たのだと・・・。
かれは、第七日にその作業を終えた。
かれと世界は、虚無にゆっくりと飲み込まれていった・・・。