12-2 女王
玉座の間にグリムとカエンは通された。 檀上の豪華な玉座には誰もいなかった。 壇下に跪き、下を向いて控えていると、誰かが入ってくる気配がした。
「面を上げなさい」 若い女性の声が檀上から響いた。 グリムとカエンはゆっくりと顔をあげた。 玉座には30代前半と思われる美しい女性が座っていた。 緑がかった長いブロンドの髪には、赤い大きなルビーのはまった王冠が載っていた。 緑色の目には凜とした意志の強さを感じられた。
「そなたがユーゴか?」 女王はグリムの目をじっと見つめた。
「はい」 グリムは女王の意図を推し量ろうとしたが、分からなかった。
「まあ、そのように構えなくても良い。 私がアルクオンの王、アリエノーラです」
「女王様、何故私はこのような場所にいるのでしょうか?」
「控えよ! アリエノーラ様が良いと言うまで発言してはならぬ」サウゲラが制した。
「良い。 そなたが呼ばれたのは、私が会ってみたいと思ったからです」
「どうして女王様は、私のことをご存知なのです?」
「そなたが、カーセリアルの前王の血を引くと聞いています。 そなたのことはずっと注目しておりました」
(何だと、ずっと監視していたと言うのか?)
「女王様は私に何をさせたいのですか?」
「私はカーセリアルとの戦争を止めたいのです」
「私に戦争を止めろと言われるのですか? それは無理です。 私には何の権限も力もございません」
「今はそうかも知れません。 しかし、そなたがカーセリアルの王になれば、どうですか?」
「えっ、それは無理です。 王国はクラウス王子に牛耳られておりますし、私は王子に追われて逃げている有様です」
「だから、私が力を貸そうと申しているのです」
「なるほど、女王様は私を王にして、傀儡としてカーセリアルを裏から支配したいという訳ですか。 残念ながら私は王になる気はございません」
「ホホホ、ハッキリと言いますね。 まあ端的に申せばそう言うことです。 残念ですね。 まあゆっくり考えてください」
「恐れながら申し上げます」 リオンが顔を上げた。
「何だ、ラウラだったか、申してみよ」
「カーセリアルの現国王は病床にあり、永くは持たないだろうと言われております。 国王が崩御されれば、クラウス王子が速やかに王位に就かれるでしょう。 あまり時間的に余裕はございません」
「なるほど、だが本人に王位に就く気がないのでは、いかんとも出来ないでしょう。 それにクラウスが王位に就いたとしても、いつ亡くなられるか先のことは分からないでしょう?」
(この女王は、見た目よりずっとしたたかだ。 優しそうな顔をして、サラッと暗殺を臭わせた)
「はっ・・・」 リオンも女王の意図に気付き、それ以上は言えなくなった。
「ユーゴよ、マリウルでも見物しながら考えるがよい」
「はい? 私達は捕虜なのでは?」
「誰がそんなことを申しました? あなた方は私の客人として迎えたのですよ。 どこでも好きに見て回って結構です。 ラウラ、お二人に便宜を図って差し上げなさい」
「はっ、かしこまりました」
グリム達が退出すると、サウゲラはアリエノーラに言った。
「アリエノーラ様、何をお考えです。 あのような者に何を期待されておられるのですか?」
「ふふふ、あなたにはあの男がただ者ではないことが、分からないのですか? 私は正直あの者を見た時に、衝撃を受けました。 理由は分からないのですけどね」 アリエノーラは先ほどとは打って変わって、年相応の優しい顔で笑った。
「そんな理由ですか・・・」
「今、我々はカーセリアルとの戦いで劣勢を強いられています。 何故か分かりませんが、彼がこの流れを変えてくれそうな気がするのです」
「確かに、あの者はアクロ使いです。 しかも尋常ではない力を秘めております。 ですが、他国の者が強力な力を持つと言うことは、同時に危険でもありますぞ」
「じいの心配も分かります。 とにかくもう少し様子を見ましょう」
「承知いたしました」




