11-12 夜襲(2)
グリムは客室のデッキに戻ると、愕然とした。 カエンとセシールが男達に捕まり、連行されて行くところだった。
(何だと! どうする、どうする・・・・) グリムは焦った。 背後から先ほどの生き残りが迫る足音が聞こえた。 グリムはとっさに自分の客室に入った。 デッキを走る足音が近づき、客室の前で止まった。 男が客室に銃口を向けた時には、既に遅かった。 男が最後に見たのは、グリムの怒りに満ちた目だった。 銃声が二発響いた。
(これで五人。 あと五人、だが二人が人質になっている・・・)
男達は船のメインデッキにいた。 二人がカエンと、シックルを抱いたセシールを捕らえていた。 残りの三人が辺りに銃口を向けて警戒していた。
「ユーゴ、大人しく出てこい。 さもなくばこの女を殺す」 リーダーとおぼしき男が怒鳴った。
(クソッ、やはりそうきたか・・・。 必ず二人は助ける) グリムは客室デッキの端から覗いていた。
「本当に殺すぞ!」 男はカエンのこめかみに銃口をあてた。
「待て! 止めろ、今出ていく」 グリムは叫ぶと、客席のデッキからメインデッキに飛び降りた。 そして両手を上に上げた。
「銃を捨てろ!」 男の声に従い、グリムはゆっくりと拳銃を床に置いた。
「ごめんなさい! アタシ、護れなかった」カエンが泣きながら言った。
「いいんだ」
「撃て、ただし殺すな」 リーダーの男がそう言うと両脇の男が一斉にグリムを撃った。 二人が二発ずつ撃った。 その銃弾はグリムの両腕、両腿に当った。 グリムは思わず膝をついた。
「ヘタな動きをされると困るからな。 顔を確認しろ」 リーダーが隣の男に命じると、男は無言でグリムに近づき、ライトを点けて写真とグリムの顔を見比べた。 男は無言でリーダーに頷いた。
船の上空で留まっていた飛行船から、赤い光の点滅が起きた。
「ちっ、時間か。 遊んでいる時間は無いらしい。 ヤレ!」リーダーが命じた。 両脇の男達が銃を構えようとした瞬間、男達の後ろで銃声が起こった。 カエンを捕らえていた男が突然倒れた。 隣でセシールを捕らえていた男も驚いて、後ろを向くとそこに男が立っており、その男はセシールを捕らえていた男の額に銃弾を撃ち込んだ。
グリムを狙っていた男達の意識も一瞬それた。 グリムはその一瞬を見逃さなかった。 痛みをこらえながら腰から、両手で二本のナイフを抜くと同時に投げた。 二本のナイフは二人の男の胸に突き刺さった。 更にグリムは、そのまま転がっている拳銃に跳びつくと、男の額に撃ち込んだ。
形勢は一気に逆転した。 何者かは分からないが、その者の加勢で状況は一変したのだった。 リーダーは後ろの男に銃撃を加えたが、男は素早く逃れ救命ボートの陰に隠れた。 リーダーの男は素早く状況を把握し、四人が殺されたことを理解した。
「ちぃ、これまでか・・・」 そう言うと、セシールを抱きしめていたカエンを銃身で殴り、蹴ってセシールから引き離した。 そして男はシックルを抱いたセシールを右腕で抱えると、飛行船から下ろされていた縄ばしごに跳びついた。 グリムは男を撃とうとしたが、セシールに当る危険があるため撃てなかった。
「クソッ、逃がさないぞ!」 グリムは男を追って縄ばしごにつかまろうとしたが、両腿を撃たれており、思うように走れなかった。
「グリム、助けて! グリムー!」セシールが叫んだ。 飛行船は高度を上げながら船から離れていった。
「クソッ、クソッ、何をやっているんだ」 グリムは床を叩いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」 カエンが泣きながら近づいて来た。 カエンの頭からは血が流れていた。
「カエンのせいじゃない。 それよりも怪我しているじゃないか。 大丈夫か?」
「私は大丈夫、だけど・・・」
「お二人さん、今は別の問題を回避しなければなりません」先ほど助けてくれた男が話しかけてきた。 その男は、今夜レストランで相席したリオンと名のった青年だった。