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11-10 渡海

 グリムはクレイに手紙を書いた。 クレイに三人がビッグリーフに渡る船のチケットを、手配してくれるように頼んだのだ。 グリム一人だったら、密航することも可能だが、女と子ども連れでは無理だったのだ。


 数日後、見知らぬ番号から、カエンに電話がかかってきた。 カエンは用心深く出た。


「はい」

「あ? 兄弟、いやグリムはいるかい?」

「どちら様でしょうか?」

「クレイと言えば分かる」 カエンがグリムに電話を渡した。 ディスプレイにクレイの顔が現れた。

「よう兄弟、元気そうだな」

「そちらもな、仕事はうまくいっているのか?」

「ああ、お前がいないせいで忙しすぎるよ。 ところで、例の件だが手配しておいた。 出航は4月の16日だ、チケットは“ビーナス”の支配人に預けておく」

「すまない。 恩に着る」

「そんなことは言うな。 何でも無いことだ。 それより、死ぬなよ」

「ありがとう」


 グリム達はトキオを目指して旅を続けた。 客船が出るまではまだ一カ月以上あった。 用心をしながらも、三人はそんな生活を楽しんだ。


 一カ月後、トキオの港

 グリム達は客船ドルフィン号の乗り場に来ていた。 今日が、グリム達が乗るこの船の出港日、4月16日だった。 グリムは茶色のジャケット、カエンはえんじ色のワンピース、セシールは紺のワンピースを着ていた。 ケージにはシックルが不機嫌そうに入っていた。 ベルリアンで成功を夢見る若夫婦という風にしか見えなかった。


 乗船の時間になり、乗客達は一列になり係員にチケットを渡した。 係員はチケットに書いてある乗客の名前と、ハンディの機械で読み取ったチップのデータを照合した。 グリムもカエンも問題無く通過した。 グリムはマイケル・スレイダー、カエンはレジーナ・シオンでチケットをとっていたからだ。 セシールは6歳以下なのでチェックは省略された。


 客室は上級客室だった。 ビッグリーフの港に着くまでには5日間かかる。 クレイが気を利かせてくれたのだった。 グリムは極力客室から出ないようにしていた。 さすがに船にまでレッドアイズが乗り込むとは思えなかったが、念には念を入れたのだった。


「外で海が見たい」 セシールがせがんだ。

「あたしと一緒にいきましょう。 グリムは調子が悪いんだって」

「つまんないの」 セシールは口を膨らませたが、カエンと一緒に甲板に出て行った。


 極力外に出ないようにしていたグリムも、さすがに食事には出ざるを得なかった。 ピークの時間は避けたつもりだったが、それでもレストランに行くと、多くの客で賑わっていた。 食事はどれも上品でグリムには食べ慣れない物ばかりだったが、味は良かった。 グリム達は食事が済むと速やかに客室に戻った。 長居して他の客に話しかけられるのが嫌だったのである。


 船旅は順調だった。 出港から三日間は天候も良く、青い海は静かだった。

(何とか無事に着けそうだな) グリムは窓から光る水面を見ながら思った。 セシールは、船に乗ったばかりは物珍しさに興奮してあちこち見て回ったが、さすがに退屈し始めて、シックルの尻尾をいじって嫌がられていた。 カエンは終始ニコニコしていた。

(問題は向こうに着いてからだ。 アルクオン側に行くには戦場になっている森を越えなければならない。 俺一人なら何とでもなるが・・・・) グリムにはもう一つプランが無いわけでは無かった。 山脈の西側を海岸沿いに北上し、その後山越えするというものだった。 しかしそれもグリムが知らない土地で、女子ども連れと言うのはグリムには無謀にしか思えなかったのだ。


 三日目の夜、レストラン

 その夜もレストランは混んでいた。 五人ほど座れる丸いテーブルで三人が食事をしていると、長身の細身の青年が現れた。


「相席よろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます」 そう言うと、ブロンドの長い髪を後ろでまとめてメガネをかけた男が座った。

 グリムはなぜか落ち着かなかった。 見た目は20代前半の学生かアーチストのような感じの好青年だが、何か違和感があった。

(以前、会ったことがあるような気がする。 気のせいだろうか。 もしや追っ手と言うことは・・・) グリムは考えすぎとは思ったが、なるべく早く切り上げることにした。


「可愛いお嬢さんですね」 男がカエンに話しかけた。

「ありがとうございます」

「セシールだよ。 お兄ちゃんは?」

「リオンだよ」

 グリムはカエンの目を見た。 カエンは目で頷いた。

「セシール、さあお部屋に帰りますよ」

「はーい、リオン、バイバイ」 セシールは男に手を振った。


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