11-9 奇妙な親子
その後、グリムはセシールの事を変に意識してしまったのか、態度がぎこちなかった。 以前は、グリムは子どもに対して冷たい訳では無かったが、とりわけ優しいと言うわけでもなかった。 それが今では意識的に優しく接しようとしているかに見えたのだった。 セシールが、寝てるグリムにイタズラしても怒らなかったし、時間を見つけて積極的に遊んでやろうとしたのだった。 そんな様子を見て、カエンは笑っていた。
ある日、セシールがグリムに聞いた。
「グリムはお父さんのことを知っているの?」
「え、あ、ああ・・・」
「お父さんはカッコイイ?」
「ああ、カッコイイぞ」
「じゃあ、お父さんは強い?」
「ああ、強い」
「グリムよりも?」
「ああ、俺よりも強い」 そのやりとりを聞いていたカエンは側で笑っていた。
「ふーん」
「セシールはお父さんに会いたい?」カエンが聞いた。
「会いたいけど、会ったらセシールが怒るとおもう・・・」
「なぜ?」
「だって、お父さんがいれば、お母さんは死なずに済んだでしょ」
「・・・・・」 グリムは何も言えなかった。 そしてあらためてアリアを護れなかった事を悔やんだ。
セシールはどんどん明るくなっていった。
「グリムー、起きろ!」 寝ているグリムにセシールは跳んで体の上にダイブした。
「まいった、起きる。 参りました」
「セシール、危ないでしょ!」カエンはすっかり母親のようになっていた。
三人の逃亡生活は、緊張したものであったが、同時に楽しいものでもあった。 セシールにとって見るもの経験するものが初めてで、とてもはしゃいだ。 そして何にでも興味を持ったセシールは、空や星や、花、虫など何でも質問してきた。 グリムもカエンもセシールに色々なことを教えた。
「グリムがお父さんだったら良かったのに・・・」 ある日突然セシールが言った。
「どうして?」とカエン。
「だって、グリムと一緒にいると楽しいんだもん」
「そ、そうか・・・」 グリムは嬉しかったが、複雑な気持ちだった。
二カ月が過ぎた頃、カエンはグリムに聞いた。
「どうする、このままの生活を続けるつもり?」
「ワシルトンに住むことも考えたが、いずれ見つかるだろう。 海を渡ろうと思っている」
「ベルリアンに住むと言うこと?」
「いや、アルクオンに入ろうと思っている」
「えーっ、亡命するってこと?」
「そんな大げさなことじゃないが、ベルリアンではクラウスの勢力内ということに変わりない。 俺が世話になった村まで行くことが出来れば、間違い無く受け入れてくれると思うんだ」
「私達も? もしかしたら私を置いて行くなんて考えていないよね」
「村まで行けば受け入れてはもらえると思う。 だがそこまで行くのが、容易じゃない。 海を渡らなければならない。 戦闘地域も越えなければならない。 正直二人には無理だと思っている。 カエンとセシールだけならば追われることはないだろう」
「バカ!」 カエンがグリルの頬をぶった。
「・・・・」
「あなたは何も分かっていない。 私達はもう家族じゃない。 それにあたしの情報はもう敵に知られていると思うわ、協力者としてね。 セシールのことだってセルタスが話しているかも知れないわ」
「それは確かにあるかも知れないが・・・。 だが、とても危険なんだ」
「お願い、そんなことは言わないで。 私達はあなたと離れないわ。 それはセシールも一緒だと思うわ」
「俺だって離れたくない。 だが・・・」
「セシールは、あなたに置いて行かれたら、捨てられたと絶望するわよ」
「そんな・・・」
「私達は一緒よ。 もしそれで死ぬようなことになっても、後悔しないわ」
「分かった。 俺が間違っていた」