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11-8 セシール

 カエンとセシールは、運動公園から10キロほど南のレストランの駐車場に駐まっていた。 そこへグリムが現れたのは、明け方だった。 グリムは他に追っ手がいないか、数時間潜んで確認していたのだった。 カエンは目に泪を溜めながら、グリムに抱きついた。


「あちこち怪我をしているじゃない。 早く消毒しなきゃ」 そう言いながら薬箱をとりだした。 カエンはアルコールで傷口を消毒しながら言った。

「あら、不思議ね。 もっとひどい傷だったはずなのに、もう傷が治りかけている。 ほとんど塞がっているわ」 そう言いながら、念のために傷を包帯でまいた。


「おじさん」 セシールが目を覚まし、グリムに抱きついた。

「悪いおじさんをやっつけたの?」

「ああ」 グリムもセシールを抱きしめた。


 一カ月後、グリム達はシドニールを過ぎ、ワシルトンに向っていた。 シドニールに潜伏するのは、レッドアイズにも容易に推測されることから、長期滞在は危険だと判断したのだった。 前回の襲撃以降、今のところ襲撃はなかった。 向こうも捜索範囲を絞りきれず、苦戦しているのだろう。 キャンプ生活が多くなったが、セシールはかえって気に入っているようだった。 そしてセシールは、最近は良く笑うようになっていた。 グリム達に心配させまいとしているのかどうかは分からなかったが。


「カエン、見てみてグリムが大きなお魚釣ったよ!」 セシールが魚を重そうに持って、カエンに見せた。 今ではセシールはグリムもカエンも名前で呼んでいた。 カエンがおばさんと呼ばせなかったからだ。

「あら、すごいわね。 どう料理しようかなあ」

「セシールもお手伝いする」

「そう、じゃあ、ジャガイモ洗ってくれる」

「はーい」

 そんな様子をグリムは眺めていた。

(こんな平和がいつまでも続けば良いのに・・・・)


 その夜、セシールが突然グリムとカエンに向って話し始めた。

「アタシ、グリム好き。 カエンも好き」 セシールは笑った。

「ありがとう。 あたしもセシールが大好きよ」 カエンはセシールを抱きしめた。

「だからね、二人に教えてあげる。 お母さんに絶対言っちゃダメって言われていたこと」

「なーに? でもそれじゃあ言ったら駄目なのじゃあないの?」

「いいの。 あのね、アタシのお父さんはユーゴって言うの」 セシールがそう言うと、グリムが飲みかけていたコーヒーを吹きだした。

「何! 本当か?」

「うん、兵隊さんなんだって。 誰にもナイショよ」

「そ、そうか、分かった・・・」 グリムとカエンは顔を見合わせた。

(なんてこった。 セシールが俺の娘だと。 セルタスの子どもじゃなかったのか) グリムはあまりに突然のことに動揺して、コーヒーカップを持つ手が震えた。


 カエンがセシールを寝かしつけた後、たき火の前に座るグリムの隣に座った。

「全然気がつかなかったの?」

「ああ」

「私はもしかしたらと思っていたわ。 だってセシールはあなたに似ていたから」

「えっ、似ているか? 髪の色も目の色も違うし・・・」

「何となく似ているわよ。 でもこれで、アリア達がセルタスの邸に保護されていた訳がハッキリしたわね」

「まさか・・・・」

「そう、あなたを呼び寄せると言う意味もあったのでしょうけど、それよりも万一あなたが本当に死んでいたら、あの子を次の国王にするつもりだったのよ」

「あのオヤジめ・・・」

「それで、どうするの?」

「何が?」

「親子の名のりをあげるの?」

「いや、ダメだ。 そんなこと出来ない」

「なぜ?」

「俺の手はあまりに血で汚れている。 あの子の父親には相応しくない。 だからアリアも俺に言わなかったのだと思う」

「そうかしら? 私はアリアが言わなかったのは、セシールの命を守るためだと思うわ。 もしもクラウス王子派に知られたらセシールの命が狙われる可能性が高いわ」

「それは、そうだが・・・・」

「だから、セルタスもアリアも愛人関係という噂が立っても、あえて否定はしなかったのだと思うの」

「・・・・・・」

(アリア、済まない。 俺のせいで死なせてしまった。 俺は必ずセシールを護る)


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