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2-7 山の神の審判(4)

 “名なし”は顔を触られる感覚で目が覚めた。 目を開けると目の前に猫のような獣が顔をなめていた。 男は驚いて飛び起きた。 急に動いたせいか、まだ少し頭痛が残っていた。 そこは洞窟の中だった。 猫?は「ナーゴ」と声を発すると何かを訴えるような目で男を見つめた。 まだ子どものようだった。 そしてくるりと背を向けると歩き出した。

(何だ? ついて来いと言うのか?) 男はその猫について行った。

(あれはやはり夢だったのだろうか) 猫について行きながら男は思った。 猫はどうやら出口の方へ向っているようだった。 猫について行きながら、“名なし”は自分の体の異変に気がついた。 体が軽い。 洞窟の中は暗闇、青い光でかろうじて見える程度のはずなのに、今は不自由なく見える。 それにさっきから自分の足音がやたらと気になった。

(どうした? 自分の体じゃないみたいだ)


 見覚えのあるところに出た。 地底湖だった。 ここから出口まではそう遠くない。 猫は男を振り返りもせず、出口の方へ走った。 男はその後を追った。 出口が見えてきた頃、外に人の気配が感じられた。 入り口を封じた石が取り除かれ始めた。

(何だ? 入り口が開けられているのか。 もしかして10日経ったのか?) 洞窟の中に光が差し込み始めた。

(光がまぶしい) 男は目をつむった。


「おーい! おーい! 聞こえるか」 外からゼオルが声をかけた。

「ここだ!」 “ 名なし”が叫んだ。

「おお、良かった。 やはり生きていたな」 ゼオルが入って来ると、嬉しそうに肩を叩いた。 そしてすぐに男の異変に気付いた。

「お前・・・・」

「どうした?」

「髪の毛が銀髪になっているぞ。 瞳の色も・・・」 男の髪の色が黒髪から銀髪に、そして瞳の色も黒から青く変わっていたのだった。

「目がやられるぞ。 これで目を覆え」 ゼオルに続いて入ってきたゲリオルが黒い布を差し出した。 男はその布で目隠しをした。


 “名なし”が外に出ると、村の男達の中に驚きの声が上がった。

「良く生きて戻った。 これでお前はこの村の一員として認められた」 村長のライカイが言った。 小さな足音が近づいて来ると、男に抱きついた。

「おじさん、良かった。 これでまたおじさんと暮らせるんだね!」ペックの声だった。 もう一人ゆっくり近づいてくる気配が感じられた。 エリオラは黙って男の腕に触れた。

「ああ、そうだ。 さあ、一緒に帰ろう」

「うん、手を繋いで帰ろう!」 そう言うと、男の左右をペックとエリオラが手を引いた。

「そうと決まれば、いつまでも“名なし”ではまずいな。 名前を決めないとな。 何か思い出す言葉はないのか?」とゼオル。 男はしばらく考えていたが、頭に浮かんだ言葉を言った。

「うーん、グリム・・・」その先は出てこなかった。

「グリム? 良いんじゃないか、グリム」とゼオル。

「じゃあ、今日からお前はクオン村のグリムだ」 ライカイが言った。

「よろしくな、グリム。 俺はサルマだ」 村人が次々と声をかけた。 ゲリオルはその様子をじっと見つめていた。 何かを考えているようだった。

「グリムおじさん、グリムおじさんだね。 母ちゃんが今日はご馳走だって」とペック。

 帰る途中、グリムは思い出したように、ペックに聞いた。

「そう言えば、入り口の所に猫のようなのがいなかったかい?」

「猫ってあれかい? 少し離れたところを草むらに隠れながらついてきているよ」

「そうか」

「あれがどうかしたのかい?」

「あいつが俺を起こして、入り口まで案内してくれたんだ」

「そうなんだ。 母ちゃん、あれ飼っていい?」 ペックがエリオラにそう聞くと、エリオラは少し困ったような顔をしたが、頷いた。

「飼って良いって!」

「そうか。 じゃあ、家までついてきたら、飼うことにしよう」

「うん!」


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