11-4 ランナウエイ(2)
王都を離れて数日間は特に変わったことは起こらなかった。 セシールがいるので、出来るだけ夜はホテルに泊まるようにした。 ただし、シックルもいるため選択肢は大分絞られた。 セシールは健気にも、皆の前では泣かないようにしていた。 しかし布団の中では、秘かに泣いていることをグリムは気付いていた。 シックルはセシールに過剰にかまわれることにウンザリしながらも、いつもセシールの側で寝た。
5日目の夜、小さな町の運動公園の駐車場で車中泊をすることになった。 ホテルが限られ、目立ち過ぎるという理由からだった。 カエンは、それはそれで楽しそうに料理を作った。 セシールも初めての経験で楽しそうにしていた。
8時を過ぎた頃、駐車場にはグリム達の車しかいなくなった。 セシールは眠くなってきたようなので、カエンが寝かしつけていた。 その間にグリムが食事の後片付けをしていると、違和感があった。 グリムは車に行くとカエンに言った。
「気をつけろ」
「どうしたの? 敵?」
「まだ分からない。 だが囲まれている、少なくとも5人だ」
「どうするの?」
「ドアをロックして伏せているんだ。 銃はいつでも撃てるようにしておけ」
「あなたは?」
「狙いは俺のはずだ。 向こうの林の方へ誘い込む。 銃撃戦が始まったら、車を動かして逃げろ。 待ち合わせ場所はここにしよう」 グリムは地図を示した。
「大丈夫?」 カエンは心配そうに言った。
「分からない、だが何があっても助けに行こうなどとは考えるな」
「・・・・」
「いいな、来ても足手まといだ。 セシールを護りながら逃げるんだ」
「分かった。 死なないで・・」 カエンはグリムの頬をおさえるとキスをした。
「ああ・・」 グリムは車から拳銃と予備の弾倉をとりだした。
グリムはベルトに拳銃を差すと、車から離れ公園の中の林の方へゆっくり歩いて行った。 公園の中に遠巻きに5人が潜んでいるのが分かった。 グリムの動きに合わせて、5人は秘かに動き出した。 向こうはまだグリムに気付かれていないと思っているかのようだった。
(間違い無い、敵だ。 だが何かおかしい。 普通の兵士とは違う。 レッドアイズか? だとしたらマズイな) グリムはカールとの戦いを思い出した。
(カールと同レベルの奴らが5人来ているとしたら、勝つのは難しいぞ)
(クソッ、どうする?)グリムは歩きながら考えた。
林に向うには運動場を横切る方が近かった。 グリムが運動場を歩いていると5人はテンポを速め、グリムを囲む輪を小さくしていった。 グリムの意図を見抜き、隠れる場所のある林の中よりも、見通しの良い場所で囲んで戦おうと考えたのだろう。 グリムと男達の距離は数百メートルになった。 普通の人には公園の外灯だけでは、男達はほとんど暗闇に溶け込んでおり、見つけることが出来なかっただろう。 しかしグリムにとっては、日中と同じとは言わないがハッキリ相手を見ることができた。 男達は、いかにも兵士と思われる鍛え抜かれた体に、全身黒の戦闘服を着ていた。 手には拳銃を持っていた。
5人は次第に包囲を狭めながら近づいて来た。 絶対に逃がさないという覚悟を感じた。 10メートルぐらいの距離までくると、正面の男が話しかけた。
「ユーゴだな」
(やはり、間違いということではないんだな。 もうチェックメイトじゃないか)
「人違いだ。 どいてくれ」 そう言いながら、包囲を突破する隙をうかがっていた。 林までは約30メートル、林の中に入ってしまえば、1対5の同時攻撃は避けられると考えていた。 グリムは1対1の戦いに持ち込めれば、まだ勝機はあると考えたのだった。
「いいや、お前で間違い無い。 逃げようとしてもムダだぞ」 敵もグリムの考えを見通しているようで、そう言うと同時に銃口をグリムに向けた。