11-2 急展開
庭園を抜けると、道路の脇にカエンのバンが停まっていた。 万一の場合に備えてカエンが控えていたのだった。 グリム達は速攻で乗り込んだ。
「何があったの? その子は・・・」
「襲撃だ! 話しは後だ、とにかく出してくれ!」 グリムはそう言いながら、外を警戒した。
カエンは車を走らせた。 王都だけあって夜間でも走っている車は多かった。 グリムは尾行を警戒した。 カエンもルートを替えながら家まで帰った。
部屋に入った時、セシールは泣き疲れてグリムの背中で眠っていた。 そのままベッドに連れて行くと、カエンがドレスを脱がせて優しく毛布をかけてやった。 シックルはセシールが気になるらしく、ずっとそばで見ていたり匂いを嗅いだりしていたが、やがてセシールの横で丸くなった。
グリムがシャワーを浴びて出てくると、カエンがコーヒーをいれてくれた。 グリムはコーヒーを一口飲むと、レストランでのことを話した。
「そんな・・・やっと会えたのに・・・」
「俺は、護ってやれなかった・・・・」
「襲って来たのは・・」
「ああ、クラウスの部下だろう。 俺と会うという情報が漏れたとしか思えない。 焦った奴は、なり振りかまわず実力行使に出たのだろう」
「どうするの?」
「今はまだ決めかねている」
カエンは何か考え込んでいた。
翌朝、グリムはセシールの泣き声で目が覚めた。 目が覚めて母親がいないことに気づき、昨夜の事を思い出したのだった。 カエンは思わず抱きしめた。
「我慢しなくて良いのよ、泣きたいだけ泣きなさい」 しばらくすると、セシールは落ち着いてきたのか、次第に泣き止んだ。 ベッドに座り込んだセシールにシックルが近づくと、泪に濡れたほほを優しくなめた。
「あなたはだあれ?」 セシールはシックルの背中をなでた。
「ナー・・」 シックルが返事した。
「その子は、シックルというの」カエンが言った。
「シックル・・・」
「お腹すいたでしょう。 待っていてね」 カエンが朝食を準備するために出ていった。
グリムはテレビを見ていた。 昨夜のことをニュースでやっているのではないかと思ったからだ。 どのチャンネルもレストランでのことを報道していなかった。 どの局もそれ以上のニュースを繰り返し報道していた。
「やられた・・・・」
「どうしたの?」 カエンがフライパンで卵を焼きながら聞いた。
「セルタスが軍に逮捕された」
「軍? 警察の間違いじゃないの? 何の容疑で?」
「軍だ。 反政府勢力と結託して、国の転覆を謀った容疑だ」
「有り得ないでしょ」
「ああ、こじつけだ。 セルタス派を一気に押さえ込もうとしたのだろう」
「もうそれって、クーデターと一緒じゃない?」
「国王がまだ生きているから、そこまでは踏み込めないのだろう。 だが奴はそれも辞さないということなのだろう」
「私達もヤバくない?」
「ああ、いつドアが蹴破られてもおかしくない事態だ」
「じゃあ、折角ここの生活にも慣れたけど、そろそろ潮時かな・・・」
「そうだな・・・」
「どうするつもり? あたしはあなたについていくわ」
「ありがとう、だがまだどうすべきか思いつかない。 奴らが本気になったら、どこに逃げてもいずれ捕まるだろう」
「とにかく、急いで準備を進めるわ。 ところで、あの子はどうするつもり?」
「セルタスの所へ送り届けるつもりだったが、それもできなくなった。 連れて行くしかないだろう」
「危険よ」
「分かっている。 だが、他に頼めるあても無い。 それに彼女が俺に頼んだのだ・・・」
「わかった」