10-6 ユーゴの秘密
カエンはコーヒーを一口飲んで、少し考えてから話し始めた。
「私ね、あなたのお母様が王宮で働いていた時の同僚を見つけたの。 そして話しを聞いたわ」
「・・・・」
「あなたのお母様、カオルが働いていたのは30年ほど前から3年間だけだわ。 当時の国王は前々王のクラーセル王で、カオルは王や王子達のメイドとして働いていたそうよ。 カオルは3年目の年に突然、個人的な理由で職場を辞めたの。 ただ、その時にカオルには、あるうわさがたったそうよ」
「うわさ?」
「そう、カオルは王子の“お手つき”だと。 そしてその噂が流れると、すぐにカオルは辞めたそうだわ。 更にその約一年後、あなたが生まれたのよ」
「何だと、それじゃあ、俺は王子の不貞で生まれたと言うのか?」
「そうは言っていないわ。 当時は王子も独身だったでしょうから。 ただお互いに愛し合っていたとしても、王子と侍女の恋愛なんて当然認められる訳がないわ。 黙ってカオルが身を退いたということじゃないかしら」
「それじゃあ、俺の父親は王子だと言うのか?」
「そう」
「待ってくれ、それはいくら何でも発想が飛躍しすぎじゃないか。 それに確か王子は二人いたはずだろう? 相手はどちらだ?」
「それが噂では、兄のアリオン王子だという者と弟のユリウス王子だと言う者がおり、どちらかハッキリしなかったというの」
グリムは頭を抱えた。
「カエン、やはりそれは有り得ない」
「どうして? そう考えれば、話しの辻褄は合うわ。 キールは、あなたが王国の根幹を揺るがす存在と言っていた。 あなたのお母様は父親のことは何一つ語らなかった。 でも王家の者であることは間違い無い。 あなたのIDには父親は“不明”ではなく“非開示”になっていた。 そんなこと普通は有り得ない、父親が秘匿されているなんて」
「む、・・・・」
「あなたは認めたく無いのよ、自分が王子であることを」
「認められるか、ある日突然あなたは王子だなんて言われて」 グリムは冷めたコーヒーを一気に飲んだ。
カエンは話しを続けた。
「その前提で考えると、敵の正体も見えてきたと思わない?」
「・・・・・・」
「仮にあなたの父親が現国王だとしましょう。 そうなればあなたが邪魔になるのは一人しかいないわ」
「クラウスか」
「その通り。 国王があなたを王子として公表すれば、あなたにも王位継承権が発生する。 王位継承の規則がどうなっているかまでは、良く分からないけれど、もしかしたらあなたの方が歳が上だから、継承順位があなたが一位になってしまうかも知れない。 そうなればクラウス王子は焦るでしょうね」
「だからキールに命じて、俺を殺そうとした」
「そうだと思う。 そしてそれに対立している宰相セルタスは、あなたを次の国王に擁立しようとしている」
「なぜそう言える?」
「セルタスの敵がクラウス王子だとすれば、それに対抗するには王を味方にするしか無いけれど、王は重病なのでしょう? ならばあなたを対抗させるしかないじゃない」
「だがなぜ、アリアを連れて行った?」
「たぶんあなたを自分の方に取り込むためじゃないかな。 あなたが死んだと言われた時も、死体があったわけでは無かった。 正確には戦場で行方不明になった。 セルタスはあなたが生きていると信じ、きっとあなたがアリアを探し出して現れると考えたのじゃないかしら」
「なるほど・・・・」 グリムは大きくため息をついた。 なるほどとは言ったものの、納得はしていなかった。
(冗談じゃ無い。 俺は王家の権力争いに巻き込まれたのか?)
「これからどうするの?」
「これらはあくまでカエンの推測だ。 事実を確認する」
「どうやって?」
「セルタスに会いにいく」