10-1 再会(1)
研究所の事件があってから3カ月ほど経ったが、グリムとカエンには大きな事件はなかった。 仕事の依頼は相変わらず浮気調査や行方不明のペット捜しがほとんどだった。 軍もグリム達の行方をつかめずにいるようだった。
ある日の午後、グリムは街のカフェで調査対象のオフィスが入ったビルを監視していた。 グリムがコーヒーカップを口に運ぶと、店の前を金髪の若い女性が歩いてきて、路上に停めてある黒いセダンに乗り込んだ。 グリムは思わず口に含んだコーヒーを吹き出しそうになった。 グリムは慌てて店の外に走り出た。 黒いセダンは走り出していた。 グリムは呆然とその場に立ち尽くしていた。 気を取り直すとすぐにカエンに電話をした。
「カエン、至急調べてくれ。 ナンバー58942の黒のセダンの持ち主を・・」
「どうしたの急に、何かあったの?」
「いたんだ、アリアが・・・」
「えっ、分かった」
夜になってグリムが事務所に帰ると、カエンが待っていた。
「お帰りなさい。 調べておいたわよ。 あの車の持ち主は、超大物よ」
「誰だ」
「王国の宰相、セルタス・ノワーナよ」
「何だって! バカな、なぜそんなところにアリアがいるんだ?」
「他人のそら似なのじゃないの?」
「いや、絶対にアリアだった」
「じゃあ、いいわ。 私が調べてあげる。 あなたは、今受けている依頼に集中して」
「分かった・・・」
翌日の夜、カエンはグリムの帰りを待っていた。 その顔は少し暗かった。
「どうだった?」
「確かにアリア・クルーウエルだったわ。 セルタスの邸で、住み込みで働いているの」
「そうか、それで幸せなのか?」
「どうかしら・・・」
「どう言うことだ?」
「良くない噂を聞いたの」
「どんな噂だ? 言ってくれ!」
「アリアはセルタスの愛人だというのよ。 そして子どもも一人生まれているわ」
「何だって!」 グリムは愕然とした。
(生活に困って、愛人になったのか?)
「どうするつもり?」
「どうって・・・・分からない」
「そう・・・」 カエンは、それ以上何も言わなかった。
それから数日、グリムは何か考え込んでいる様子だった。 そんな様子を見かねて、カエンが言った。
「ああん、もう。 グズグズ考えていないで、会ってハッキリさせてくれば?」
「しかし、俺が接触した事が知られれば、彼女を危険にさらすかも知れない」
「勝手にすれば!」
翌日、グリムはセルタスの邸が見える路地にいた。 グリムはアリアが外出することを期待していたのだ。 潜入することも考えたが、騒ぎになってアリアの立場を悪くすることを恐れたのだった。
夕方になると、裏口から女性が出てきた。 アリアだった。 グリムははやる気持ちを抑え、アリアの後を大分後ろからついていった。 アリアはグリムに気付く様子もなく商店街の方へ歩いていった。 食材でも買いに行くのだろうとグリムは考えた。
商店街は夕方の人混みであふれていた。 グリムは話しかける機会をうかがった。 グリムは人混みの中で後ろに近づくと、そっと話しかけた。
「やっと会えた、アリア」 アリアはその声を聞いて驚くと、振り向きそうになった。
「振り向かないで! そのまま何事も無いように歩くんだ」
「ユーゴ、ユーゴなの?」
「ああ、そうだ・・」
「本当に生きていたのね、良かった」 アリアは泣きそうになるのをこらえた。
辺りはほとんど暗くなり、通りは外灯と店の中からの灯りで照らされていた。 アリアは突然グリムの手を取ると、いきなり脇の細い路地に入った。 グリムはされるがままについていった。 闇の中に二人が隠れると、アリアはグリムに抱きついた。 二人はどちらからともなくキスをした。