9-9 暴動(2)
炎は部屋中に回った。 グリムは廊下に出ると、建物の内外に駆け回る人々を感じながら、管理棟の方へ向った。 管理棟から5人の人間が向ってくるのが見えた。 手には拳銃を持っていた。 狭い廊下で、隠れるところも逃げる場所もなかった。
「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」 警備員達はグリムに向って銃を構えた。
(チッ、もたついていられないぞ) グリムは更に加速した。 警備員達が引き金を引いたときには、既に目の前に来ていてグリムに銃口を逸らされていた。 グリムはそのまま動きを止めず、真ん中の男のみぞおちに肘を打ち込み、そのまま回転して左の男に右の裏拳を食らわせた。 男はそのまま数メートル後方へとばされた。 更にその隣の男に左の上段回し蹴りをみまった。 男はそのまま膝から落ちると、前に倒れ込んだ。 右側にいた二人の男は、何が起こったのか一瞬理解出来ずに固まっていたが、慌てて銃をグリムに向けようとした。 しかし、グリムにとってはその動きは遅すぎた。 銃を持つ手を右手で捌きながら、男の腹に前蹴りをみまい、そのまま回転すると隣の男の側頭部に左の後ろ回し蹴りを食らわした。 5人の警備員はその場にうずくまり、戦闘不能になっていた。 グリムは落ちていた拳銃を2丁拾うとまた走り出した。
グリムが管理棟に入った時に、また北の方で爆発音がした。
(急がないと・・・)
管理棟の役目は、設備のエネルギー供給や維持管理、セキュリティ、研究員や警備員の勤怠などの管理、サポートなどだ。 だがそれだけではなかった。 管理室には実験棟の各部屋の監視カメラがモニターでき、緊急時のために遠隔で部屋や檻の施錠、解錠が出来るようになっていた。 管理室には誰もいなかった。 モニターのあちこちには警備員が脱走者を制圧しようとしたり、消火をしようとしたり、外の敵を警戒したりしている警備員の姿が映っていた。 恐らく30人ぐらいの警備員がいるのだろう。 一般の研究員や事務職員は勤務時間を過ぎているため、ほとんど退勤しているようだった。
グリムは少しの間モニターを見ていたが、制御盤のオールロック解除のボタンを押した。 すると、実験棟にいた魔獣のような生き物達の檻が開いた。 そして十数体の魔獣達が部屋の外に出てきた。 それはゴリラのような全身黒い毛に覆われた者や、二足歩行のワニのような姿の者、ヒョウのような頭に人間のような体の者など様々だった。 ただ、共通しているのはいずれも目が赤いことだった。
(こんなものを解放したのはまずかったか・・・) グリムは異様な姿に危険を感じ、解放したことを後悔した。
グリムは管理棟の隣にある、エネルギー棟に入った。 ボイラーの給水弁を閉じ、中の水を排出した。 そしてボイラーに点火した。 これによってボイラーの空炊きがおきてしばらく後に、ボイラーが爆発するだろう。
(これでこの研究所は、壊滅的なダメージを受けるはずだ)
グリムが外に出ると、そこは銃声と悲鳴が交錯していた。 逃げる人々、追う警備員、更にそれに襲いかかる魔獣。 北側の塀は一角が大きく崩れていた。 カエンがロケットランチャーで破壊したのだった。 脱走者達はそこへ向って走ろうとするのだが、警備員達に狙い撃ちされるため、容易に近づくことが出来なかった。
研究棟は本格的に燃え始め、窓から炎が吹きだしていた。 遠くからは消防車とパトカーのサイレンが聞こえた。 魔獣達が警備員達に襲いかかり、数人がその鋭い爪や牙で引き裂かれた。 それでも警備員達は集団で自動小銃の集中砲火を浴びせ、魔獣は一体、一体次第に倒されていった。 脱走者達はそのすきに破壊された壁から抜け出ようとした。 グリムも拳銃を撃ちながら、そちらへ向って走った。 脱走者達は背後から銃撃を受けながらも瓦礫を登り、塀の外へ抜け出していった。