9-5 調査(3)
「どうしたの、その顔?」 カエンはグリムが帰って来ると、顔に赤いポツポツを見つけ聞いた。
「監視中に虫に刺された」 顔をかきながら言った。
「えっ、何を監視していたの?」
「研究所だ。 あれは怪しいぞ」
「やっぱり。 あたしも研究所を調べてみたの。 でもね、セキュリティが厳しくてハッキング出来なかったわ」 カエンはグリムの顔に、虫刺されの軟膏を塗りながら言った。
「そうか、取りあえず今日得た情報を整理しよう」
「そうね。 今、コーヒー入れるわ」
「これを見てくれ」 グリムはカメラに写ったバンをカエンに見せた。
「この車って、マーフがさらわれた車と同じじゃない?」
「そう思うか。 暗くなりかけていたし、ナンバーは映っていないので確証はないが、俺もそう思う」
「これをどこで?」
「研究所へ通じる道だ。 俺はそこを監視していた」
「じゃあ、マーフは研究所にいるっていうこと?」
「その可能性が高い・・・」
「何のために、大企業がこんな危険を冒して人をさらってくるの? 有り得ないわ」
「もう一枚、これも見てくれ」 シルバーの目立たないセダンの、斜め前から撮った写真だった。 後部座席に座った男の顔が映っていた。 グリムは画像を拡大した。
「この男がどうしたの? 私は知らない人よ」
「俺は知っている。 こいつはアレン・クーガー大佐、元特殊部隊の隊長だった。 作戦遂行のためなら、兵士がどれだけ死のうが眉一つも動かさないクソ野郎だ」
「そんな男が研究所に出入りしていると言うことは、やはり軍が関係しているということ?」
「それはまだ分からない。 クーガー大佐は既に退役していると言う噂だった。 民間人として関係していると言うこともあり得る」
「いったいここで、何を研究しているというの?」
「分からない。 だが、一つだけ考えられることがある・・・」
「それは、何?」
「君はアクロの力というのを知っているかい?」
「詳しくは知らないけれど、アルクオンの人々の中には超能力を使える人がいると聞いたことがあるわ」
「ああ、その通りだ。 アルクオンの人達はそれをアクロの力と言っている」 そう言うとグリムは、コーヒーカップを、手を使わずに持ち上げて見せた。
「えっ、あなたも使うことが出来るの? どうして?」
「話せば長くなるから、それはまた別の機会にするとして。 とにかくアクロの力を得るにはレクチウムという物質が必要なのだ。 もしかしたらその研究所では、レクチウムの研究をしているのかも知れない。 そしてさらってきた人達を使って人体実験をしているとしたら。 そしてそれに軍が目を付けたとしたら・・・」
「すべて、つながるわね」
「カエン、約束だ。 ここまでだ!」グリムは静かに言った。
「ここで手を引けと・・・・」
「そうだ、これ以上は俺達には何もできない」
「・・・・・」
「いや、せめて証拠を握るまで止めない!」
「どうやって証拠をつかむというのだ?」
「研究所に潜入するわ」
「無理だ。 あそこに気付かれずに侵入して、情報を入手して気付かれずに脱出するなんて不可能だ。 すぐに気付かれてしまうぞ」
「何とかマーフを脱出させることが出来れば、生き証人になるわ」
「だめだ! 証拠をつかんでもダメなんだ」
「なぜ? それを公表すれば、止めさせることが出来るじゃない」
「無駄だ、奴らはそんなものはもみ消して、知らぬ顔をするに違いない」
「じゃあ、どうにも出来ないの?」
「その通りだ」
「悔しい!・・・・。 それなら、せめてあの研究所をぶちこわしてしまいたいわ。 そうすれば、止めさせることが出来るでしょう?」
「物騒なことを、簡単に言うなあ・・・・」 グリムは少しあきれたように言った。