9-1 新居
グリム達は20日かかって、王都ニューアースにたどり着いた。 車をとばせばば6日もあれば着ける距離ではあったが、できるだけ行動が目立たないようにするためと、カエンがこの半キャンプ生活が気に入っていたからだった。 途中何日かは町のホテルに宿泊した。 余程確信がなければ途中のホテルを全て調べることなどできないからだ。
ニューアースは人口1千万人を越えるスモールリーフ最大の都市だった。 グリム達が山を越えた時に、眼下に広がる街の光景を見て息を飲んだ。 見渡す限り街が広がっていたからだ。 トキオは王都に次ぐ大都市だったが、それとは全然規模が違った。
街に入ると、街中の様子もトキオとは違っていた。 建物も街並みも行き交う人々も、何というか洗練されているとグリムは感じた。
「まずはとにかく、住処を確保しなければならないな」
「それは大丈夫。 もう決めてあるから」
「何、いつの間に・・・」
「王都に行くと決めたときによ」
「なんだと!」
「もう契約は済ませてあるわ。 こう言うことは、私は得意だから任せて」
「手回しが良すぎて、かえって不安なのだが・・・」
「大丈夫よ。 あと30分ぐらいで着くわ」
30分後、グリム達は王都の中心からは大分外れた、街中の駐車場に車を駐めた。 そしてカエンが不動産屋から鍵を受け取ると、近くの10階建てのビルに入った。 そのビルは3階までが商用で4階以上が住宅用になっていた。
7階の701号室の鍵を開けると、カエンが言った。
「さあ入って、ここがこれから私達の家よ!」
「私達? もしかして一部屋しか借りていないのか?」 グリムはシックルを抱いたまま聞いた。
「そうよ、二つも借りたらもったいないでしょう?」 カエンはどんどん中に入った。 そこは2LDKの部屋だった。 南向きの部屋で、既にソファーやベッド、テレビや冷蔵庫などの家電も運び込まれていた。
「これはどうしたんだ?」
「ネットで買って、配達と設置も頼んでおいたの」カエンは当然とでも言うようにサラリと言った。 グリムは奥の部屋にキングサイズのベッドが置いてあるのを見つけ、嫌な予感がした。
「まさか、ベッドはこれ一つか?」
「ええ、そうよ。 それが何か?」
「それが、何かって・・・・」 グリムはもう抵抗するのは無理だと思った。 そしてとりあえずソファーに座った。 シックルはグリムの腕を飛び出すと、部屋の中を探検に出かけた。
「後は仕事か・・・」
「それも大丈夫よ」
「えっ! どういうことだ?」
「私ね、ここで探偵を始めるつもりなの。 既にここの3階に事務所も借りているわ。 あなたには私の助手をして欲しいの」
「はあ?」
「だってあなたは、普通の仕事は出来ないでしょう? またギャングのボディガードでもやるつもりだったの?」
「そ、それは・・・・・」
「あなたは、あまり表だっての仕事もまずいでしょうし、だから私を手伝って欲しいの・・・」 グリムはぐうの音も出なかった。 確かにカエンの言う通りだったからである。 このまま認めるのもしゃくに触るので、反論しようと試みたが何も言えなかった。
「参りました・・・」
「よろしい。 じゃあ、事務所の方も見に行きましょう!」 カエンは満足そうに笑うと、立ち上がった。