8-2 近寄る影(2)
数日後、警察署長室
ガイスの前に眼光鋭い男が座っていた。 年齢は30前後、短髪で引き締まった体、ジーンズに黒の革ジャンでここにいるのには違和感があった。
「それで、レッツェンさん。 軍の情報部の方となっていますが、本当ですか?」
「それはどう言う意味でしょうか?」
「いえ、私も情報部の方に知り合いもおりますが、大抵は事務仕事が得意そうな方ばかりなのでね。 あなたのようにいかにも軍人って方は、存じ上げていなかったので」
「はは、それは情報部には人が多いし、色々な役割によって様々な人がいますよ」
「そうですか。 私はてっきり特務機関の方かと思いましたよ」
「警察署長ともあろう方が、巷の噂を信じるのですか? 軍にはそんな機関は存在しませんよ」 男はあきれたといわんばかりに、手をあげてみせた。
「まあ存在自体が秘密ですから、そう言うでしょうね。 それでご用件は?」
「例の指名手配のユーゴという男の件です。 約半年前にベルリアンで確認された後、消息を絶っています。 我々の分析では、ここに潜伏しているのではないかと考えています」
「そうですか。 我々も当ってはいるのですが、めぼしい情報は入っていません」
「本当にそうでしょうか? それは残念ですね。 ところで、我々が色々と調べているうちに、面白い事が分かってきたんですよ」
「・・・・・」ガイスは訝った。
「署長さんはずいぶんお金が好きなようですね。 この国では、一人について一つの口座しか持てないはずですが、あなたは何故か別の口座もお持ちのようだ。 しかも多額の預金がある」カール・レッツェンはガイスの顔を見つめた。 ガイスはみるみる顔が青ざめた。
「そ、それは何かの誤解だ・・・」
「そうですか、それなら良いんですよ。 我々も別に事を荒立てたくもありませんし、税務署でもありませんからね。 ただね、もし署長さんが意図的に我々に対して非協力的な態度を取っているとしたら、我々にもそれなりの考えがあると言うことをお伝えしたまでです」
「ま、待ってくれ。 何か情報があるかも知れない」 そう言うと、机の上の書類をかき回した。
(くそっ、こうなったらクレイとの約束などクソ食らえだ。 こっちはケツに火が点いているんだ)
「あった。 確実な情報とは言えないが、街で似た男を見たという情報がある。 年齢や背格好は似ているが髪の色や目の色が違うとのことだ」
「ありがたい。 その男の住まいや、名のっている名前は分かりますか?」
「名前はグリムと名のっている。 住まいは分からない」
「そうですか。 どこへ行けば会えますか?」
「それは、エクリプスというギャング組織に関係しているようだ。 その組織の者達と一緒のところが目撃されている。 情報はこれだけだ。 真偽の裏取りもされていない」
「十分です。 ご協力ありがとうございます」 カールはそう言うと立ち上がった。
数日後、クレイの事務所
「おい、最近お前の周辺を嗅ぎ回っている奴がいるらしいぞ。 心当たりはあるか?」クレイが言った。
「いや。 どんな奴だ?」
「目突きの鋭い軍人のような感じの男だそうだ」
「そうか・・・。 軍の関係かも知れないな」
「どうする? さらって問い詰めるか」
「絶対だめだ! そいつが、俺が考えている連中だとしたら、全員返り討ちにあうぞ」
「どんな連中なんだ?」
「存在しない連中だ」
「はあ?」
「軍の特務機関“レッドアイズ”。 軍は存在自体認めていない。 メンバーも任務内容も極秘で、軍で噂をすることも禁じられていた。 俺が所属していたハルバードは軍の中でも最強と言われていたが、個人の戦闘力ではレッドアイズの方が上だと言われていた」
「お前より強いと言うのか?」
「かも知れない・・・・」
「どうするつもりだ?」
「自分の事は自分でケリを着ける。 とにかく関わらないようにするんだ」
「そうはいかない。 お前は俺達の仲間だ、お前の敵は俺の敵だ」
「気持ちはうれしいが、頼むから俺の言うとおりにしてくれ。 もし仮にそいつ一人を始末することに成功したとしても、それによって奴らは俺の存在が確信に変わるだろう。 そうすれば兵隊を大挙送り込んで来るだろう。 そうなって奴らに逆らえば、こんな組織全滅させられるぞ」
「そんなにか・・・・」
「おそらく・・・」