7-11 乱戦(3)
カエンは倉庫の外で行なわれている戦いを、二棟離れた倉庫の屋根の上から見ていた。 闇の中で銃口から飛び散る火花と銃声、爆発音と燃え上がる車、人々の悲鳴。 それが地下プロレスの試合会場となった倉庫を囲むように数カ所で起きていた。 サイクロプスはエクリプスとケルベロスの両方を相手に戦っていたのだった。 カエンの所からはどちらが優勢なのか分からなかった。
(死んでしまえ。 あんな街のダニのような連中、皆死んでしまえば良いのよ)
突然電話が鳴った。 グリムからだった。
「グリム、大丈夫?」
「ああ、こちらは終わった。 そっちはどうだ?」
「グリムの思い描いたような展開になったわ。 乱戦状態ね。 今から送るポイントまで来られる? そこでピックアップするわ」
「分かった。 じゃあ、後で・・・」
グリムはクレイにも連絡した。 結末を聞くとクレイは喜んだ。 グリムはこのまま離脱すると告げると、電話を切った。 グリムは戦闘が続いている部分を避けながら、500メートルほど離れた場所にあったコンビニまで歩いた。 そこにカエンの赤い車が駐まっていた。
「怪我は?」 カエンが車を走らせながら、心配そうに聞いた。
「大丈夫だ」
「それで、どうなったの?」
「サイクロプスのボスと4人の幹部は全員死んだ。 バレルが殺した」
「やはりそうなったのね。 じゃあ、バレルはあなたが?」
「ああ、自業自得だ・・・」
「そうね。 でもこれで街もゴミ掃除ができて良かったわ。 街も少しは良くなるでしょう」
「それはどうかな。 頭がいなくなっても、すぐに勢力争いが起こり、次の奴が出てくる。 いつの時代も悪党はいなくならないものだ」 グリムは外に広がる闇を見ながら言った。
「じゃあ、私たちがやったことが無駄だと言いたいの?」
「そこまでは言わないが・・・・」
カエンの隠れ家に着くと、グリムはすぐにシャワーを浴びた。 出てくると、テーブルに料理が数品並んでいた。
「祝杯を挙げましょう」カエンはワインとグラスを持って来た。
一息つくと、カエンもシャワーを浴びにいき、髪をタオルで拭きながら出てくると言った。
「もう今夜は泊まっていけば?」
グリムからは返事が無く聞こえるのはテレビの音だけだった。 見るとグリムは、ソファーに横になって眠っていた。
「おやおや、さすがに二日続けての修羅場で疲れたのね」 カエンはそう言うと、グリムに毛布を掛けてやった。
翌日グリムが事務所に行くと、クレイが既に来ていた。
「おう、昨日は良くやった。 おかげであの後、奴らは急に崩れて散り散りになっていったよ」
「そうか・・・・」グリムは興味なさそうに言った。
「さて、次の手を聞こうか」
「もう俺がどうこう言うまでも無く、勝負は着いた。 後はどう幕を引くかというだけだ。 サイクロプスの奴らは頭を失い身動き出来ない状態にある。 中堅幹部をこちら側に引き込むんだ。 数人こちら側に引き込めれば、後は雪崩を打つはずだ。 問題はずるずると引きずらないことだ。 最初を間違えると、報復の連鎖にはまるぞ。 最初に攻撃したのは奴らだし、こちらもボスを失っている。 あとはスピードだ。 ケルベロスの奴らも同じことを考えているはずだ」
「俺の考えと同じだ。 やはりお前はあてになる。 では早速出かけるぞ」 クレイは立ち上がった。




