7-5 襲撃(1)
グリム達は、夕方になると閑静な住宅地にあるクレイの邸に到着した。 広い宅地は高い塀に囲まれていた。 電動で門が開かれると、SUVは中に入りそのままガレージに入れた。 車からはクレイ達3人が降りると、わざとガレージから出て玄関へ回って邸の中へ入った。 シャッターが閉められたガレージの中では、更に5人の男が密かに車から降りてガレージから直接邸の中に入った。 間違い無く見張りが、出入りを監視しているはずである。 わざとクレイの姿を見せて、帰宅していることを確認させたのだった。
邸の中に入ると、そこには他の護衛達がいた。 今この邸にはグリムとクレイを入れて21名の男がいた。 クレイの妻と二人の子どもは、4日前から王都に旅行に出ている。 お手伝いさんも数日前から休ませている。 護衛の者達も3日前から密かに少しずつ増やして、準備を進めさせていたのだった。 グリムは警護の者達に極力表に姿をさらさないように注意させていた。 護衛の人数を少なく思わせて、油断してくれればとは思うが、そんなに甘い相手ではないことは分かっていた。 ただ、あからさまに護衛を増やし、こちらが本気で迎撃準備をしていることを覚られるのは避けたいと考えていたのだ。 グリムは邸の中を見て回り、準備状況を確認した。 そして最後の仕上げを自ら行なった。
クレイの邸の東約100メートルの空き地に、2台の黒いSUVが停まっていた。
「こちらフクロウ、ハウンドドッグ聞こえますか」車の中の男達のインカムに声が響いた。
「こちらハウンドドック、どうした?」 男達の一人が応えた。
「兎が巣に戻りました」
「そうか、子守は何人いる?」
「明らかに確認が取れているのは5人ですが、もう少しいるようです」
「分かった。 何か異常があったら知らせてくれ」
「了解」 通信は切れた。 フクロウと名のった男は、クレイの邸の道路を挟んだ斜め前の邸の敷地に生えた大木の枝の上にいた。 全身黒ずくめの戦闘服にカモフラージュの木の葉をつけ、そこに人がいるとは遠目には分からなかった。 そこからはクレイの邸の居間、庭、ガレージが見えた。 二日ほど前から、人の出入りを監視していたのである。
「襲撃は2400時だ。 それまで準備を整えておけ」 ハウンドドッグと名乗った男は、襲撃班の指揮官で隊長のニック・ジェラルドの右腕の男だった。
「グレッグ、そんなに待たなくてもいいんじゃないのか? ギャングのボスの殺しに俺たちが出張るなんて大げさ過ぎるぜ。 こんな仕事三人もいれば楽勝だろう」
「そういうな、報酬は良いんだ。 それに油断するとこちらが手痛い目にあうぞ」
夜の8時頃
グリム達は、インスタントの食事をとると、最終の打ち合わせをしていた。 皆スーツの下に防弾チョッキを着ていた。
「良いか、奴らは恐らく10人前後と思われる。 一人は近くの屋根の上か木の上から監視している。 窓から閃光手榴弾を投げ込んだ上で、玄関と裏の入り口から同時に突入してくるだろう。 二人が入り口の左右に準備し、その後ろにもう一人がサポートに控える。 この邸の見取り図も手に入れて、頭に入れているだろう。 各チームは突入と同時に、動くものに対して自動小銃を連射し、一部屋ずつ制圧していくつもりだ。 生け捕りではなく殺害が目的だから容赦なく撃ち込んでくるだろう。 これで7人だ。 あと庭の表と裏に1名か2名ずつ潜んで、邸から逃げ出してきた者を始末しようとするだろう」 グリムが説明した。 それを聞いていた皆が頷いた。 グリムにとっては、相手がプロであるだけに動きは読めた。 だが読めたからと言って、容易に排除できる訳ではないことはわかっていた。
夜の11時、邸の東の広場
「おい、起きろ! 仕事の時間だ」 指揮官の男は男達を怒鳴りつけた。
「ふあぁ、とっとと片付けて飲みに行こうぜ」 体の大きなほほに傷のある男が車の後ろを開けて武器を取り出しながら言った。
「気を抜くな、死ぬぞ」別の男が言った。
「こちらハウンドドッグ、フクロウ聞こえるか」
「こちらフクロウ、どうぞ」
「変わったことはあるか?」
「特になし、居間に三人、二階に一人、食堂に数人いるようだ」
「そうかこれから向う。 決行は2400時だ」
「了解」