7-4 挑発
翌日からグリムは、ケルベロスに対して挑発作戦を決行した。 夜間にケルベロスの拠点の事務所に対して、マシンガンを撃ち込んだり、手榴弾を投げ込んだのだ。 当然、ケルベロスの連中は怒り狂って、犯人捜しを始めた。 それに対してカエンは、様々な噂を流した。 “やったのはサイクロプスだ”とか“エクリプスはサイクロプスの攻撃に備えるので手一杯でそれどころじゃない”とかだ。 もちろん素直にそれを信じる者ばかりではなかったが、ケルベロスの幹部たちは十分疑心暗鬼に陥った。 更にカエンはダメ押しの噂を流した。 “サイクロプスは、エクリプスと同時にケルベロスも潰してしまうつもりだ。 それが証拠に、同時攻撃のために、サイクロプスは傭兵を雇った”というものだった。 その真偽を疑ったケルベロスはサイクロプスの拠点を見張らせたところ、確かに傭兵と思われる男達の出入りが確認されたのだった。
ケルベロスの本拠地
「サイクロプスが傭兵を雇ったと言うのは本当らしい」 髭のボス、ドラン・グレッグが言った。
「ですが、その傭兵はエクリプスのボスの命をとるためと言うことらしいですよ」メガネのボス、アルザ・レンガーが言った。
「噂じゃ、傭兵にエクリプス襲わせて、その隙に奴らがこっちを襲うって腹づもりらしいじゃねえか。 こうなったら先に攻め込むか」と小太りのボス、ブレン・サロガン。
「待て、早まるな。 それがエクリプスの狙いと言うことも十分考えられる」 アルザは銀縁のメガネを直しながら言った。
「じゃあ、どうするんだ。 本格的に攻め込まれてからでは遅れをとるぞ」
「いつでも、動けるようにしておけ。 サイクロプスの監視も怠るな」ドランが言った。
グリムはカエンに電話をした。
「どんな具合だ?」
「半信半疑というところね。 でも一触即発に近いかも。 後一押しすれば爆発すると思うわ」
「分かった。 では引き続き頼む」
「了解。 それより今日、例の傭兵達が確認されたわ。 明日には全員そろうんじゃないかな」
「そうか、では襲撃は明日の夜だな。 いよいよ勝負だ」
「グリム・・・」
「何だ?」
「死なないでね」
「あ、ああ。 何せ俺は死神らしいからな・・・」
グリムは電話を切ると、隣に横たわっているシックルの頭をなでた。
「カエンにはああ言ったが、もしかしたら俺は明日死ぬかも知れない。 俺が帰ってこなかったら、セリナばあさんのところへ行くんだぞ」 グリムはシックルに言い聞かせるように言った。
「ナーゴ」 シックルはいつものようにのんきに鳴いた。
翌日、グリムはクレイに作戦の進捗状況を報告した。
「良し、面白くなってきたぞ」
「それと、邸の襲撃は今夜になるだろう。 ゲイツの方の準備はどうなっている?」
「情報は流しているが、どの程度危機感を持って準備しているかは分からない。 オレが細かい所まで言える立場じゃないからな。 警備人数は20人以上に増やしたというし、向こうにも軍の経験者がいるから大丈夫だろう」
(まずいな。 軍隊経験者という程度では30人いても厳しいだろう)
「そうですか・・・」 グリムもそれ以上言えなかった。