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7-3 密約(2)

 一時間後、あるマンション前

 「あのマンションの10階の左端の部屋だ」カエンが灯りの点いた部屋を指さした。

「分かった、行くぞ!」

「待って、今監視カメラを切るから。 それから、これをかぶって」 カエンが黒の目出し帽を差し出した。 それからカエンは端末機を取りだし、ネットに接続するとマンションの監視カメラを切った。


 このマンションは12階建てだった。 二人は非常階段から屋上まで上ると、屋上からロープを垂らし、10階のベランダに降り立った。 グリムはカエンが何事もないように、難なくベランダに降り立ったことに驚いた。 過去にも同じような経験があるのは確かだ。 グリムは窓のサッシに手をかけた。 窓は鍵がかかっておらず、静かに開いた。 カーテンの隙間から覗くと、そこは寝室でベッドの側のライトだけが点いていた。 ベッドの上には、若い女性だけが裸で疲れたように寝ていた。


 グリムは足音を立てないように、慎重に部屋に忍び込んだ。 そしてカエンが後に続いた。 グリムはカエンにリビングの方を指さし、そちらに歩いて行った。 カエンは女の側に近づくと、肩からかけたバッグからタオルと液体の入ったビンを取りだした。 そしてビンの液体をタオルに染み込ませると、女の口に当てた。 女がバレルとの話し合いの途中で目が覚めて、騒ぎ立てたりしないようにするためだった。


 グリムは静かに灯りが点いたリビングに出てきた。 男はいなかった。 だがトイレから水が流れる音がした。 グリムはトイレのドアの前に拳銃を抜いて待ち構えた。 すると、ドアが開いて口の周りと顎にかけて髭を生やした男が裸で出てきた。 男はグリムの姿を見て驚いたが、何も出来ないままグリムに腕を背中に回され、床に押さえつけられた。 そして拳銃を頭に突きつけられた。


「金か? 金ならやる、撃たないでくれ!」

「強盗じゃない。 あんたと話をしにきた。 変なまねをしなければ危害は加えない」

「分かった、大人しくする」 グリムはゆっくりと男を立たせた。

「何か着ろ」 グリムがそう言うと、カエンがバスローブを持って現れ、それを男に投げた。 男はそれを着ると、ソファーに座った。 向かいに座ったグリムとカエンを見回したが、大分落ち着きを取り戻したようだった。


「何者だ、あんたら。 俺が誰かを知らないで来たわけではないんだろう?」

「あんたはバレル・ロッド。 サイクロプスの幹部で、組織に上納すべき金を横領した男だ」

「何! そうか、お前らだな。 リックを逃がしやがったのは・・・」 バレルの顔が気色ばんだ。

「まあ落ち着け。 お前は今、非情にヤバイ状況にある。 なにせ組織の金に手をつけたのだからな。 ボスに知れれば命はなくなるだろうな」

「オレを脅す気か? 何が目的だ」

「脅してなどいない。 俺達はあんたと手を組みたいのさ」

「何だと! どう言うことだ」 バレルは訝しんだ。

「俺達は、サイクロプスの頭を倒すつもりだ。 だが、ボスのガードが固く近づくのも容易ではないだろう。 だからアンタに手を貸して欲しいのさ」

「ふっ、何故オレがお前等に手を貸さなきゃならねえんだ? お前等、エクリプスのもんだな」

「貸すさ。 俺達はアンタに最後のチャンスを与えに来たのだからな」

「何だと」

「アンタに選択肢はない。 協力しなければ、例のデータをボスのところへ送るだけだ。 それでアンタはジ・エンドだ」

「クッ、・・・」


「そう睨むな。 もしボスや他の幹部が一度に死んだらどうなる? 組織はアンタのものになる。 違うか? これはアンタにとって起死回生のチャンスなのだから」

 バレルの顔が一瞬驚きの表情を示した後、明らかに関心を示した。

「どうするつもりだ? オレに何をさせたいのだ?」

(乗ってきたな)

「直近でボスと幹部達が集まる日時を教えて欲しい。 そこを襲う」

「4日後の地下プロレスの試合だな」

「いいねえ、やる気になったようだな」

「早まるな、どうせ失敗する」

「何故?」

「それは、お前等はその前に潰されるからだよ」

「傭兵達のことを言っているのか? それならもう知っているし、我々はみすみすやられはしない」

「そうなのか・・・・」

「アンタはボス達の入る時間、場所を教える。 それともう一つ、外から突入した時に、逃げられてしまう恐れがある。 だから事前にその会場に潜入したい。 その手引きを頼みたい」

「試合は賭けているから、客は登録した人しか入れない。 お前を出場選手として登録しておこう」

「俺が試合に出るのか?」

「心配しなくて良い。 試合は後の方にしておく。 覆面をかぶって出れば良いだろう。 リングネームは何にするね」

「ネルガル」 グリムが思い浮かばずにいると、カエンが言った。

「ネルガル? 良く分からんがそれで登録しておく」 バレルはメモを取った。

「断っておくけど、変なことは考えないことね。 我々はあのデータを、試合の翌日にはボスのところへ届くように手配しておくわ。 もし裏切ったり、我々にもしものことがあったら、あなたもお終いになるわよ」 カエンが言った。

「分かった」

「ならこれで商談成立だ」グリムは電話番号を交換した。


 グリム達は玄関から出ると、屋上のロープを回収した。

「ネルガルって何だ?」 グリムがカエンに聞いた。

「昔の地球のどこかの死神よ」

「また死神か・・・」 そう言うと、グリムは車を走らせた。


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