表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/157

2-3 村の掟

 村長の邸

 部屋には6人の男達が集まっていた。

「今日の議題は、村の外れのエリオラの所に住み着いている男のことだ。 この村に住むことを認めるかどうか」 村長のライカイ・ブラワラは一同に言った。 集まっていたのはこの村の顔役と呼ばれる者達だった。

「親父、あの男なら大丈夫だ。 俺自身が戦って確かめている」 ゼオルが言った。 ゼオルは村長の息子でもあるが、戦士と呼ばれる若者達のリーダーだった。

「だが、素性も分からぬ者だと言うではないか。 記憶を失って自分の名前も言えないと聞くぞ」 顔役の一人が言った。

「空から落ちてきて怪我をしたと聞く。 不吉だ」 呪術師のゲリオル・ソワンは言った。

「なぜ、空から落ちてきたら不吉なんだ? 我等の祖先は空から来たのだろう?」とゼオル。

「それとは別だ。 良いかゼオル、その者を仮に“名なし”としよう。 その“名なし”が、空から落ちてきたと言うことは空を飛んできたと言うことだ。 アクロの力を使える者でも、空を飛べるのは希だ。 と言うことはカーセリアルの者の可能性が高い」

「うっ、つまりカーセリアルの兵士だと言うのか?」と別の顔役の男。 そう言われると、ゼオルは“名なし”の強さが急に納得がいった。

「目的は何だ!」とライカイ。

「考えられるのは二つ。 一つは脱走兵で、味方に攻撃され墜落した。 もう一つは、間者として潜入してきたと言うところか」

「間者ならこんな田舎の村じゃなくて、サルバンとかに行くんじゃないのかい。 かえってこんな村じゃ目立ち過ぎる」とゼオル。

「まあ、確かにそうだな。 だがいきなり大きな街に行くのではなくて、ここらである程度予備知識を収拾しているのかも知れない」とゲリオル。

「それで、どうするつもりだ」と別の顔役。

「脱走兵にしろ、間者にしろ、カーセリアルの者の可能性が高いのだろう? サルバンの役人に突きだした方が良いのじゃないのか」

「俺は反対だ! あいつは悪い奴ではない」とゼオル。

「だが、このまま放置していたら、この村に禍をもたらすことになるのではないのか」

「ゲリオル殿はどうすべきと考えられる」とライカイ。 ゲリオルはしばらく考えていたが、やがて口を開いた。

「山の神の審判を受けてもらおう」

「山の神の審判だと。 そんなことをすれば“名なし”は死んでしまうぞ!」とゼオル。

「確かに審判を受けて生きて戻れる確率は低い。 なれど、それで死ぬような者ならばそれまでの者だったと言うことだ。 もし生きて戻ったならば、村の一員として受け入れても良いのではないか」

「なるほど。 ワシはそれで良い」

「他の者はどうだ?」とライカイ。 他の顔役達も頷いた。 ゼオルだけが反対だった。

「では、“名なし”には山の神の審判を受けてもらうことにする」


 翌日、ゼオルは“名なし”のもとを訪れた。 その顔は陰鬱だった。

「今日はどうされたのですか」

「実は、良くない知らせだ。 昨夜、村の顔役による会議があった。 そこでお前の処遇が議題に上がった。 その結果、お前に山の神による審判を受けてもらうことになった」 ゼオルがそう言うと、それを聞いたエリオラが、野菜の入ったカゴを床に落とした。 彼女の顔は蒼白になっていた。

「山の神の審判?」

「ああ、この村の北にある霊山の中腹にある洞窟に入ってもらう。 入り口に蓋をされ、10日後に無事に生きて帰れたら、善人と認められ村の仲間として受け入れられる。 悪人であったり、山の神の怒りを買ったりすれば、生きては出られない。 悪いことは言わない、逃げるんだ」

「なぜ? 悪人でなければ生きて出られるのだろう?」

「生きて出られる確率は、10人に1人だ。 ここ数十年生きて戻った者はいない」

 “名なし”はエリオラの顔を見た。 エリオラは声は出なかったが、唇が「逃げて」と言っていた。 “名なし”は少し考えていたが、静かに言った。

「俺は逃げない」

「なぜだ?」

「俺が逃げれば、後ろめたいところがあると思われるだろう。 そうすれば俺を匿ったとしてエリオラ達への風当たりが強くなるかも知れない。 それに、俺には行くところが無いしな」

「バカヤロウが・・・」 ゼオルが諦めたように笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ