7-2 密約(1)
グリムは一人で会議室の椅子に寄りかかると、目をつむった。
(どうやって傭兵の襲撃を凌ぎ、サイクロプスとケルベロスに対して攻撃に出るか。 あまりにもこちらの条件が不利だ) グリムには断片的にはアイデアはあったものの、明確な作戦まで落とし込めていなかった。 意識を集中させた。 そして30分ほど沈思黙考を続けた。 その姿を人が見たら、まるで寝ているように見えただろう。
グリムがクレイの部屋に戻ると、静かに言った。
「作戦はできた」
「そうか、では聞こう」 そう言うとソファーに座り、たばこに火を点けた。 グリムはその向かいに座り、今まとめたばかりの作戦について話し始めた。
「うむ、面白いが、それは敵がお前の考えるように動けばの話だろう。 成功率はどのくらいと考えている」
「3割だな。 敵もそうだが、こちらも必ずしも俺の考えるように動いてくれるとは限らない。 特にゲイツの周りがだ。 傭兵の攻撃を撃退すると言うのが前提条件になる。 こちらはやられたふりをして、その油断をついて一気に反撃に出る。 こちらが勝てるチャンスは、その一瞬しかない。 長期戦になれば戦力に大きな差がある我々はじり貧に陥る。 ケルベロスについては、こちらの思うように動いてもらう。 それについては策がある」
「分かった、それで行く。 使える物は何でも使って良い」 じっと話を聞いていたクレイはそう言った。
クレイとの話し合いの後、グリムはカエンに電話した。
「カエン、お前の申し出に手を貸そう」
「えっ、サイクロプス壊滅に手を貸してくれるの?」
「ああ、それについて話し合いたい」
「分かった。 今夜、私の例の家に来て」
「分かった。 8時頃に行けるだろう」
「じゃあ、待っている」
その夜、カエンの隠れ家
グリムはカエンに、今回の作戦の概要を話した。 黙って聞いていたカエンは聞き終わってから懐疑的に言った。
「そううまく行くかしら。 うまく行けば、サイクロプスもケルベロスも大きなダメージを与えられるでしょうけど・・・」
「ああ、簡単ではない。 だから成功率を上げるために、幾つか君に頼みたい」
「どんなこと?」
「情報操作や破壊工作などだ。 爆薬は扱えるか?」
「基本的なところは大丈夫だと思うわ」
「そうか。 ではまずはリックが言っていた、上納金をごまかしていたサイクロプスの幹部に会いたい」
「何ですって! バレル・ロッドに会ってどうするの?」
「こちらに引き込む」
「無理よ、あんな最低な奴、信用できないわ」
「だからこそ、必ず乗ってくる。 自分の命がかかっているとなれば尚更だ」 カエンはじっとグリムを見つめた。
「分かった。 なら私も一緒に会うわ」
「だめだ、危険過ぎる。 俺一人で会う」
「だめよ、これは私の作戦でもあるの。 私だけ安全なところに隠れているなんて嫌だわ。 もう二人は一蓮托生よ」 カエンは有無を言わせないというような顔をした。
「分かった。 じゃあ、今奴がいる場所が分かるか?」
「そうね、まず間違い無く最近お気に入りの愛人の所ね」
「よし、じゃあ行くか」
「えっ、これから?」
「そうだ。 我々にはあまり時間がない」 グリムはそう言うと立ち上がった。