7-1 傭兵
グリムはクレイに昨夜の出来事を報告した。 クレイはたばこに火を点け、紫煙を吐くと言った。
「ホントにお前はトラブルメーカーだな。 もっと冷静でクレバーな奴だと思っていたが、たかが娼婦のためにそこまでやるなんて。 だが、俺はそんなところは好きだがな。 しかし、お前のやり方は気にいらないな。 中途半端なんだよ。 俺ならそんな変態野郎、迷わず撃ち殺していた。 後々のことも考えたならな」
「申し訳ない。 これでケルベロスとも、もめる口実を作ってしまった」
「それはかまわないが、どうするつもりだ。 ケルベロスは当面静観を決め込むだろうと思っていたが、これで奴らもいつ襲って来るか分からなくなったぞ」
「三すくみ状態にさせる」
「何、どう言うことだ」
「街に噂を流し、サイクロプスはエクリプスを襲うと見せてケルベロスを油断させて、本当はケルベロスを潰そうとしているとな」
「なるほど、それで危機感を持ったケルベロスが、先にサイクロプスに仕掛ければ儲けものか。 だがそううまくいくか?」
「いかないだろう。 だが奴らが疑心暗鬼になってくれれば、守りにも力を割かねばならなくなり、迂闊に動けなくなる」
「なるほど。 良いだろう、やってみろ」
「分かった。 ところで、セリナという女性を知っているか?」
「セリナ?」
「65歳で昔は『鉄血』と呼ばれていたらしい」
「ああ、あのセリナさんか。 彼女は20年以上前この辺りを支配していた組織のボスの女だ。 その組織は今のサイクロプスの前身で、そのボスは眼帯をしていたんだ。 ケルベロスのボス達やゲイツもその組織に所属していた。 そのボスは20年ぐらい前に誰かに殺されたのだ。 セリナさんはボスが殺された時に、裏の家業から足を洗ったという話だ。 その当時、俺はまだチンピラにもなってなくて、一度見たことがあるが凜としたきれいな女性だった。 そのセリナさんがどうした?」
「うちのアパートの大家だ」
「そうなのか。 まだ生きていたのだな・・・」
グリムは別室で一人になると、カエンに電話をした。 腕の液晶にカエンの顔が浮かび上がった。
「あんた何しているの? ケルベロスの娼館に乗り込んで暴れたって聞いたわよ」
「えっ、もう知っているのか?」
「私は地獄耳なのよ。 それで何?」
「情報屋と言うことは、逆に情報を流すことも出来るのだろう?」
「当然よ。 何を考えているの?」
「サイクロプスがエクリプスを襲うと見せかけて、本当に狙っているのはケルベロスだという噂を街に流して欲しい」
「なるほど、ケルベロスを牽制したいのね。 いいわ。 それと、こちらからも情報があるの。 サイクロプスは20人の傭兵を雇ったそうよ。 指揮官の名前はニック・ジェラルドよ」
「何だと!」
「知っているの?」
「会ったことはないが、名前は聞いている。 暗殺、破壊活動など諸事情で軍が表に出られないような汚れ仕事をやっていると聞いている」
「奴らの意図が分かる?」
「エクリプスの頭を確実に仕留める気だ」
「なるほどね。 どうするつもり?」
「迎え討つしかない。 いつ到着する?」
「二、三日中には到着するらしいわ」
「分かった。 ありがとう」 グリムは電話を切った。
グリムはクレイの部屋に戻ると、クレイの机の前で言った。
「最悪の事態だ」
「何があった?」
「今、サイクロプスが20人の傭兵を雇ったという情報が入った。 あんたとボスを確実に殺すつもりだろう」
「どう出る?」
「恐らく夜間10名ずつで、邸に同時襲撃をかけるつもりだ」
「いつになる?」
「2、3日のうちにこの街に来るらしい。 恐らく到着したその日の夜に決行するに違いない」
「そんなに早くか?」
「2、3人先発で入って、もう邸の偵察に行っているだろう」
「分かった。 ゲイツに邸の警護を増やすように伝えよう」
「無駄だ、20人や30人増やしても。 奴らはプロだ、皆殺しにされるぞ。 宿泊先を転々と変えた方がいい」
「そんなことはしないだろうな。 俺もな・・・」
「ふう、本当に死ぬぞ」
「それを何とかするのがお前の仕事だ」
「分かった」
グリムは警護のチームを集めると、迎撃の作戦を検討した。 グリムにとって相手がプロと分かっていればかえって手口は分かる。 マニュアル通りやるはずだからだ。 グリムは警備チームに、密かにクレイの屋敷内に準備する物をリストアップして渡した。
「いいか、敵は既に偵察行動に出ているはずだ。 これらの物を見られてはいけない。 こちらが襲撃を察知して迎撃準備をしていると覚られるからだ」
「了解」 そう言うと、彼らは部屋を出ていった。